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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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最初に揺れた歯車

最初に異変を感じ取ったのは、旧ガリオン領に置かれていた――機構支店だった。


「……おかしいな」


定期確認の一環として、王都本部へ早馬を出した直後の事だ。

使者は、予定の時間を大きく外して引き返してきた。


「途中で……軍隊らしき集団を見ました。敵か味方か、判別できません」


その報告に、支店内の空気が一瞬で変わる。


本来、この時期に動く商隊は無い。

雪解け前、物流は完全に止まっている。

それにも関わらず、街道に武装した集団がいる――

それ自体が、異常だった。


旧ガリオン領の機構支店は、即断した。


「本部連絡は一時中止。代わりに、エドラン領、フェルナード領、両支店へ緊急報告を回せ」


判断は早かった。


そして、その報は、フェルナード領で一気に動きを加速させる。


支店に駐在する機構隊長は、内容を確認すると同時に、領主とその妻へと直接報告を入れた。


「これは、ただ事ではありません」


言葉少なにそう告げると、すぐさま手配が進められた。


選ばれたのは、小型高速船。

目的地は――王都港。


運ばれた情報は、真っ直ぐアステリアの元へ届く。


「……来たか」


報告を聞いたアステリアは、即座に理解した。これは、偶発ではない。

点が、線になろうとしている。


彼女は迷わず、王都へ正式報告を上げた。


その一報を受けて、近衛隊は即時警戒態勢へ。同時に、エドラン軍も臨戦体制へと移行する。


まだ、戦は始まっていない。


だが――

歯車は、確実に回り始めていた。


誰かが意図して動かした、止まる事のない歯車が。


近衛隊とエドラン軍が、王都を囲う外壁沿いへの完全配置を終えた――その頃。


王都から離れた西側。

仮の拠点として使われていた屋敷に、慌ただしく伝令が駆け込んだ。


「報告します!一部の者が……独断で動きました!」


反乱の首謀者は、思わず机を叩く。


「ばかな!早まりおって……!」


本来であれば、噂と不安を撒き、王都内部が揺らいだところで動くはずだった。

火は“合図”に過ぎず、決して“開戦”ではなかった。


歯止めは利かなかった。


「……いや、もういい」


短く息を吐き、首謀者は顔を上げる。


「こちらも直ちに前進せよ。今なら、王都は物資不足。混乱は抑えきれまい」


判断は、遅すぎた。


情報は確かに早かった。

早すぎた情報は、裏を取られる前に動いたという意味でもあった。


反乱首謀者は、知らなかった。


既に王都では、近衛隊とエドラン軍が連携を終え、外壁、防衛線、街区警戒、全てが“想定済み”で整えられている事を。


市民には自衛団が配置され、情報は一元化され、噂は封じられている。


そして何より――

王都は、静かだった。


嵐の前の静けさではない。

準備を終えた者達の、覚悟が染み込んだ静けさだ。


反乱の首謀者は、その王都が、

既に“迎え撃つ側”に回っている事など、

つゆほども思っていなかったのである。

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