表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

432/482

沈黙が示すもの

西地区外れ。人の寄りつかぬ、打ち捨てられた屋敷の地下。


灯りは最小限。集まっているのは、名を失った者たちだった。


「……遅いな」


低い声が、苛立ちを滲ませる。


「不審火の噂は?」


「広がっていません」


即答だった。


「近衛が、全部吸い上げています。自衛団も、勝手な動きをしない」


舌打ち。


「噂は?」


「途中で止まります。“指揮者に確認したか”で終わる」


一瞬の沈黙。


「……なるほどな」


年嵩の男が、ゆっくりと笑った。


「民が、学び始めたか」


「いや……教えられている」


そう言って、机を叩く。


「近衛隊長だ。あの男、余計な事を覚えたな」


誰かが、ぼそりと呟く。


「噂が効かないなら……」


「次は?」


男は、迷わなかった。


「段階を上げる」


灯りの下で、数枚の紙が広げられる。


地図。西地区の通りと、倉庫、詰所。


「火は、“疑い”を生む為だった」


「だが、疑いが育たないなら――」


指が、一点を叩く。


「結果を見せる」


空気が、冷えた。


「人を狙う?」


「違う」


男は首を振る。


「最初は、“守れなかった”という事実だ」


近衛が忙しくなる。自衛団が迷う。一瞬の隙。


「噂が通じないなら、音と血で知らせるしかない」


誰も反論しなかった。



同じ頃。近衛隊の詰所。


「……妙ですね」


副官が言う。


「噂が、消えました」


「良い事だろう?」


隊長は答えるが、表情は硬い。


「ええ。ですが……あまりに、急に」


隊長は、静かに立ち上がる。


「噂が消えた、という事は――向こうが、“次”を考え始めた証拠だ」


副官が息を呑む。


「静かになる時が、一番危ない」


窓の外。春の風が、穏やかに吹いている。

だが、隊長は確信していた。


「……来るぞ」


噂が消えた街に、次に訪れるのは――

音のある夜だ。



雪解けを待つ余裕は、もう無かった。

噂が止まり、火も効かず、街は思ったほど揺れなかった。それが、彼らを最も焦らせていた。


「……時間が無い」


誰かが、押し殺した声でそう言った。


春が来れば、道が開く。

川は流れ、倉庫は満たされ、王都へ物資が流れ込む。


そうなってしまえば――

王都は、再び“耐えられる街”になる。


「今だ」


判断は、理屈ではなく切迫感だった。


王都内の物資は、確かに減っている。

冬を越え、備蓄は底を見せ始めている。


「今なら、揺らせる」


反乱を企てる側も、無限の金を持っている訳ではない。

私兵、雇われ者、怪しげな連中。

彼らは毎日、金を食い、時間が延びるほど不利になる。


長引けば――

動けなくなるのは、自分たちだ。


「なら、先に崩すしかない」


慎重派の声は、もう通らなかった。

そして、ついに。


一部の者が、勝手に動いた。


計画の全体像も待たず、合図も整わぬまま、

“これなら勝てる”という独りよがりの確信だけで。


だからこそ、厄介だった。 


しかし反乱を起こす方は知らなかった。冬の間も新型輸送船は風を必要とせず荷物を運び続けて居た事を。


そして制御できない火は、どこに燃え移るか分からない。


近衛隊長の胸に、嫌な予感が走る。


「……来たな」


春を告げる風と共に、王都には――

最初の血の匂いが、忍び寄っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ