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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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湯気の向こうの現実

「珈琲でいいか?」


「お、おう!」


近衛隊長は慣れた様子で席に腰を下ろし、店主に向かって手を挙げた。


「ここのお勧めを頼むぞ。名物なんだ。美味いぞ!」


「そ、そうだな……」


アステリアは椅子に浅く座り、背筋を無意味に伸ばす。

視線が落ち着かず、テーブルの木目を何度もなぞった。


……何を話せばいい。

いや、話す内容は決まってる。

決まってるのに、口が重い。


「…………」


「…………」


微妙な沈黙。


アステリアは喉を鳴らし、息を吸って――

結局、何も言えない。


「お、来たぞ。まあ食べよう」


「お、おう!」


珈琲の香りが立ち上る。

湯気の向こうで、近衛隊長はいつも通り落ち着いた顔をしていた。


一口飲んでから、何でもない調子で言う。


「ところで。何で王城へ?」


「……そうだな」


アステリアはカップを持つ手に、少し力が入った。


「お前に、相談しに来た」


「相談?」


「姉御がな……やべー物を、大量に送って来た」


一瞬。


近衛隊長の眉が、ほんの僅かに動いた。


「姉御……セリア様が?」


「そうだ。手投げなんとかを」


「……!?」


今度は、はっきりと空気が変わった。


「やはり……始まるのか」


「そう見てるみたいだ」


アステリアは視線を逸らし、珈琲を一気に飲む。


「数が数なんだ。だから、近衛へ一部を渡したい」


「……そうだな」


近衛隊長は、静かに頷いた。


「一部でもあれが有れば、対応の幅が変わる。

明日の朝、俺が一番で取りに行く」


「……頼んだぞ」


その一言で、アステリアの肩から少し力が抜けた。


「な?」


近衛隊長は、ふっと表情を緩める。


「美味いだろ?」


「……そ、そうだな!」


話が一段落したことで、今度は味が分かった気がした。


「この後、王城まで付き合ってくれ」


「え?」


「王とエドラン様にも話をしたい。

お前の口から直接聞いた方が早い」


アステリアは一瞬固まってから、


「……おっ」


と、短く返事をした。


逃げ場は、もう無い。


珈琲の湯気は消えかけている。

代わりに、現実がはっきりと輪郭を持ち始めていた。


――いよいよだ。


アステリアは、カップを置き、深く息を吐いた。


二人で向かった王城。

夕刻前だというのに、既に静まり返った一角に通された。


そこには――

王と、エドランドが待っていた。


内容が内容だけに、側近の姿は無い。

扉が閉められる音が、やけに大きく響いた。


「来てくれて助かった」


王はそう言って、椅子を示す。


アステリアは一度、近衛隊長をちらりと見てから、前に出た。


「……姉御――セリア様から送られてきた物資の件です」


報告は簡潔だった。

だが、内容は重い。


クロスボウの数。矢の量。

そして――


「……手投げ式の新型兵器です」


説明が進むにつれ、空気が変わっていく。


「爆発、だと……?」


王が思わず声を漏らす。


「投げてから、間を置いて……?」


エドランは腕を組み、無言で聞いていたが、その表情は明らかに険しかった。


「威力は?」


「……建物内部なら、致命的です。密集していれば、尚更」


しばしの沈黙。


やがて、王が小さく息を吐いた。


「……受け取ろう」


「近衛に一部を回してもらえるなら、こちらとしても助かる」


エドランも頷く。


「準備が整うまで、厳重に管理する」


話は、そこで一区切りついた。


「それと――」


王は、少しだけ声の調子を変えた。


「改めて、礼を言いたい」


「今夜、王城で夕食をどうだろうか」


アステリアの肩が、ぴくりと揺れる。


「派手なものではない。身内だけだ」


「こういう時だからこそ、だ」


……逃げ道、無し。


「…………」


アステリアは一瞬、視線を泳がせてから、


「……解りました」


と、渋々頷いた。


内心では、なんでこうなるんだよ……

と、全力で思っていたが、口には出さなかった。


事はもう、個人の範囲を越えている。


王城の空気は、静かだが重い。

そしてその夜は、確実に――

“ただの夕食”では終わらないと、誰もが感じていた。

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