相談とドレスは関係ありません
「あねさん……」
「いや……聞きたくない……」
「今回は、その……手投げ何ちゃらが……」
「……言うな」
アステリアは机に突っ伏した。
「あねさん……これ、どうする気なんです……?」
「知らん。知らんが……確実に“知らなかった”では済まない量だな……」
倉庫の奥には、問題の木箱。
静かに、しかし存在感だけは抜群に鎮座している。
「だから!」
部下がぱっと顔を上げる。
「あねさん!相談しに行ってきてくださいよ!」
「誰にだよ!」
即座にツッコミが飛ぶ。
「ほら!あの近衛隊長ですよ!
最近、あねさんといい感じじゃないですか!」
「――――」
ボコッ!
「いだっ!?何すんですか!」
「誰がいい感じだ!何を相談するんだよ!
“姉御が危ねーもん大量に送って来てます”ってか!?」
「でも知らせないより良いですって!
あの手投げ何ちゃら、冗談抜きでヤバいですし!!」
「……」
アステリアは、腕を組んで唸った。
「……まあ、それは……そうだな……」
「でしょ!?」
「うっかり誰かが使ったら洒落にならん」
「じゃあ決まりですね!」
部下は勢いよく頷く。
「それなら!早くドレス着て――」
ボコッ!!
「いってぇぇ!!」
「なんで会いに行くのにドレスなんだよ!!」
「え?だって近衛隊長ですよ?ちゃんとした服の方が――」
「相談だ!危険物の相談だ!舞踏会じゃねぇ!!」
「でも印象って大事じゃ――」
「口を閉じろ」
アステリアは深く息を吐いた。
「……普通の服で行く。普通に、真面目な話としてだ」
「ですよね……」
部下は頬をさすりながら頷く。
「……でもあねさん」
「ん?」
「怒って殴るほど、図星だったって事ですか?」
「…………」
ボコッ!!!
「二発目ぇぇ!!」
倉庫には、今日も平和な音が響いていた。
――なお、手投げ何ちゃらの箱は、
相変わらず黙って“待って”いた。
とは言え――
王城の近くまで来たものの。
「……なんて呼び出せばいいんだ……?」
アステリアは、城門前を行ったり来たりしていた。
ウロウロ。
「普通に……普通に近衛隊長を呼び出せばいいよな?」
ウロウロ。
「“近衛隊長殿、少々ご相談が”……うん、変じゃない」
ウロウロ。
「……いや、変か?」
ウロウロ。
「ふぅー……はぁー……」
深呼吸。
「よし!覚悟決めろ!行くぞ――」
「アステリア?」
「……あー?」
振り向いた瞬間。
「……げっ!?隊長!!」
「げっ、とは何だ」
「い、いや!偶然だな!?」
「王都に来てたのか?」
「おう!そうだよ!!」
妙に元気な返事。
「……で?」
「?」
「さっきから城門前をウロウロしてたが。何かあったか?」
「いや!何もない!」
一拍。
「……いや!あった!」
「どっちだ??」
「…………」
アステリアは、視線を逸らした。
「……朝飯、食ったか?」
「は?」
「いや、その……聞いただけだ」
「……まだだな!お、おう!緊張しててな」
「緊張?」
「……してる」
「珍しいな」
近衛隊長は少しだけ首を傾げた後、あっさり言った。
「まあ、食ってないなら行くか」
「へ?」
「俺もまだだ。ちょうどいい」
「え、いや、その……」
「近くにいい店がある。案内する」
断る隙が無い。
「……お、おう!」
アステリアは内心で叫んだ。
ちがう!先に相談する予定だった!
なんで飯になった!?
近衛隊長は歩き出しながら、何気なく言う。
「で?」
「で?」
「“何もない”か“あった”か、どっちだ?」
「…………」
アステリアは空を仰いだ。
ああ……姉御……これは……想定外だ……
こうして――
危険物大量密輸相談は、
朝食同席イベントへと、
自然に、そして強制的に移行したのだった。




