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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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集まりゆく影

同じ頃――王都より西。


かつては名を知られ、席を用意され、言葉一つで周囲が黙った家。

今では、訪れる者も限られ、門は半ば閉じられたままの屋敷。


その奥で、ひっそりと人が集まっていた。


元貴族。

罪を問われ、地位を失った者。

あるいは、辛うじて逮捕を免れた元商人。


肩書きは失われても、恨みだけは同じ方向を向いている者たちだ。


「……やはり、こちらも動く時か」


誰かが呟き、誰も否定しなかった。


彼らもまた、準備を進めていた。


力を失いつつある伝統貴族。

だが、“失いつつある”に過ぎない。


かつて抱えていた私兵。

名目上は解散、あるいは縮小されていた者たちが、再び寄せ集められていく。


完全な正規兵ではない。

練度も、統制もまちまち。


それでも数だけは――

それなりに、膨らんでいた。


さらに。


金さえ出せば集まる者も混じっている。

盗賊とも、野盗とも、傭兵とも区別のつかない連中。


「使えるかどうかは、始まってから考えればいい」


そんな声が、当たり前のように出る。


そこにあったのは、理想でも信念でもない。

ただ、失ったものを取り戻したいという焦り。


秩序は無く。統一した目的も曖昧。


けれど――

暴れる理由だけは、十分だった。


西で集まりつつある影は、まだ表に出る事なく、静かに、しかし確実に形を成し始めていた。



王都にある港の一角。

荷揚げを終えたばかりの倉庫で、アステリアは腕を組み、積み下ろされた荷の前に立っていた。


「……よし。数量、もう一度だ」


帳簿を手に、淡々と確認していく。


「あねさん!食料品……かなり積み込んでますね。籠城戦になるって読みですか? それとも……」


「さてね。備え過ぎて困る事は無いだろ?」


軽く流すが、視線は帳簿から離れない。


その時。


「あねさん……ちょっと良いですかい」


部下の一人が、首を傾げながら声を掛けた。


「書類と、積荷の数が合いませんな」


「……何?」


帳簿を取り上げ、もう一度数を追う。


「そんな筈は無いと思うが?姉御が、そんな初歩的なミスする筈ねーし」


「いえ……ですが、実際に荷物の方が多いですぜ?」


アステリアの目が、すっと細くなる。


「……その“余分”ってのは、どれだ」


「こいつです」


指差された木箱。外見は、食料品と同じ梱包。


「……開けてみろ」


短く、はっきりと。


「へい!」


釘を外し、蓋が開く。


「――え?」


中に詰められていたのは、乾物でも穀物でもない。


「……クロスボウ?」


思わず、誰かが声を漏らす。


「へ?」


矢束も、丁寧に油紙で包まれている。


アステリアは一歩近づき、中を覗き込んだ。


「……なるほどね」


表情は変えない。

だが、その意味はすぐ理解した。


「食料品の“ついで”って顔して、混ぜ込んだか」


帳簿を閉じる。


「……あねさん?」


「慌てるな。これは“間違い”じゃない」


そう言って、静かに息を吐いた。


「“始まる前提”で、動いてる奴が居るってだけだ」


港の喧騒の中。

木箱一つ分の重さが、妙に重く感じられた。

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