名を与えるということ
「ねえ……」
港の図面を眺めていたセリアが、ふと思い出したように口を開いた。
「強襲揚陸艦って呼び方、どうにかならない?って」
「お母様に言われたのよね」
機能を示す名前。
間違ってはいない。けれど――
「流石に、そのまま過ぎるわよね」
少し考えて、メイヤは小さく笑った。
「……じゃあ、あきつ丸にしましょうか」
口に出してみると、不思議としっくり来る。
「物を運ぶ」「人を運ぶ」
「そして、必要な場所へ“渡す”船」
「名の通り、って感じよね」
艦の役割を思えば、悪くない。
少なくとも――今のところは。
ふと、別の事を思い出したように、メイヤは視線を上げる。
「それとね」
「お母様が、武装の一部も考えたいって言ってたわ」
……ああ、やっぱり。
胸の奥で、小さく何かが鳴った。
「輸送船として、頑張って欲しかったんだけどなぁ」
言葉は軽い。
でも、その裏にある意味は、決して軽くない。
船に名前を与えるというのは、ただの区別じゃない。
「役割を、決めてしまう事でもある」
港に停泊する艦体を見つめながら、
メイヤは小さく息を吐いた。
「……始まりそうね」
輸送のために生まれたはずの船。
けれど、時代はいつも、用途を選ばせてはくれない。
静かな波音の中で、
まだ何も積んでいない「あきつ丸」は、
その名を与えられ――
次に何を背負わされるのかを、ただ黙って待っていた。
一方その頃、領内でも動きは始まっていた。
リディア隊長の前には、簡素な名簿と配置図。
派手さの無い、だが確実に意味を持つ紙の束が並んでいる。
「……よし」
短く息を整え、彼女は顔を上げた。
今回の編成は二系統。
基本となる徴兵兵は、これまで通り領地防衛を最優先とする。巡回、警備、補助。
日常を守るための役目だ。
そして、もう一つ。
「こちらが、編成隊だ」
この領地“そのもの”の軍。
非常時に動くための、臨時の戦力。
総勢四十名。
数としては多くない。だが、選ばれている。
経験者。
状況判断が出来る者。
命令を待つだけでなく、動ける者。
「正式軍ではない」
「だからこそ、柔軟に使う」
編成隊は、名目上は臨時編成。
表に出る事は少なく、存在を誇る事もない。
だが――
「いざという時、ここが動く」
リディアは名簿を閉じる。
誰も声高に「戦い」を口にしない。
それでも、空気は確実に変わりつつあった。
領を守る準備は、静かに、着実に――
もう始まっている。




