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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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静かに積まれるもの

港は、まだ朝の冷気を残していた。


木箱が規則正しく積み上げられ、

確認の声と、帳簿をめくる音だけが淡々と響く。


その中心で、アステリアは最後の指示を飛ばしていた。


「……よし。これで最初の分は全部だな」


軍需物資。

名目は補充、実態は備え。


誰も大声では語らない。

だが、全員が“何のためか”は理解していた。


岸壁で見送るセリアが、少しだけ声を落とす。


「無理しちゃダメよ?」


「解ってるよ、姉御!」


アステリアは、いつも通りの笑いを見せる。


「何かあったら、直ぐに知らせなさい」


「あゝ、勿論だ!」


軽い返事。

けれど、その目は真剣だった。


「後から完成した物も、準備でき次第すぐ送るからね」


「助かる。王都も今は、何でも欲しがる時期だ」


舷側に渡された板が外され、船は、ゆっくりと岸を離れていった。


港に残ったセリアは、しばらくその背中を見つめてから、小さく息を吐く。


「……始まったわね」


戦ではない。

まだ、剣も振るわれていない。


けれど、

“積み込まれた”という事実だけが、

確かに、次の季節を告げていた。


船影が小さくなる頃、港はまた、いつもの静けさを取り戻す。


誰も口には出さないまま、それぞれが、自分の持ち場へ戻っていった。


静かに。確実に。


春へ向かう準備は、もう動き出していた。


船影が完全に霧の向こうへ消えた頃。

セリアは踵を返し、そのまま港の奥へと歩き出した。

向かう先は、立入制限が張られた一角。


――強襲揚陸艦。


艦体はすでに形を成し、蒸気機関も安定稼働の段階に入っている。


だが、まだ“完成”ではない。


「進捗の確認をするわ」


集められたのは、造船担当、機関技師、そして武装担当の責任者たち。

打合せは、無駄な前置きなしに始まった。


「艦体と機関は問題なし。自力航行も確認済み」

「問題は――武装ね」


地図と設計図の上に、指が落ちる。


「未搭載の武装。積める余地はある」


「でも、何を積むかで役割が変わる」


上陸支援。制圧。威圧。


どれを選ぶかで、この艦の“意味”が決まる。


「急がないわ。でも、後回しにはしない」


セリアの声は、静かだが揺るがない。


「“動く器”が出来たなら、中身も決めなきゃいけない」


誰かが、小さく頷いた。


春は、もう遠くない。

選択の猶予も、そう長くはない。


港の奥で、まだ武装を持たない艦が、静かに波を受けていた。


それは今、

“何にでもなれる”状態のまま――

次の指示を、待っていた。

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