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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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白銀の蓄え

深々と雪が積もる中、氷室の中には白い塊がぎっしりと積み上がっていた。


「うん、いい感じね」


メイヤは中を確認しながら頷く。


これで今年分は十分。

あとは最後にもう一度、隙間を詰めれば――


「パンパンね。これなら夏まで持ってくれれば、相当便利だわ」


毎年のように頭を悩ませていたのが、冬の雪だった。

降る量は多い。捨て場に困る。道は塞がる。

処理するだけで人手も時間も取られる。


けれど今年は違う。


「氷室のお陰で、かなり吸収できてるわね」


雪は厄介者ではなく、資源として使える。

冷やすための“備蓄”になるのだから。


さらにもう一つ。


「それに……温室からの廃温泉水」


温室を温め終えた後のぬるい湯を、雪の多い場所へと流す。じわじわと雪を溶かし、溶けた水はそのまま川へ。


「中々いいアイデアだったわ」


急激に溶かさないから氾濫もしない。

雪かきの量も減る。

氷室用の雪も確保できる。


誰か一人の派手な発明ではない。

けれど――


「こういう積み重ねが、領地を楽にするのよね」


メイヤは白く染まった景色を見渡す。


相変わらず、今年も雪はよく降る。

けれど、それに振り回されるだけの冬ではなくなった。


白銀は、

ただの障害ではなく、次の季節を支える蓄えへと変わっていく。


メイヤは氷室の扉を閉め、静かに鍵を掛けた。


「さて……次は春の準備、かしら」


冬はまだ続く。けれど、この領地では――

もう、冬に負ける気はしなかった。



機構隊長の元へ、本部から一通の文が届けられていた。


机に置かれたそれを、隊長はすぐには開かない。まず目に入ったのは、封蝋の色。


「……来たか」


深い色合い。

通常の連絡ではまず使われない色だ。


さらに、印章の位置。

ほんの僅か――意図的に斜めへとずらされている。


隊長は、それを見た瞬間に確信していた。


「内容を読む前に、分かるようにしてある……」


暗号とは、文字だけに仕込まれるものではない。紙質、封蝋、折り方、印の向き。

それら全てが、読む者にだけ伝える情報になる。


この文は、

「優先度・極」

「記録は最小限」

「即断を要する」


そう告げていた。


隊長は周囲を一度だけ見回し、扉が閉まっている事を確認してから、ようやく封を切る。


蝋が割れる音は、やけに大きく響いた。


「……厄介な話になりそうだな」


文面を追う隊長の表情は、読み進めるにつれて、少しずつ硬くなっていく。


雪に覆われた静かな領地の裏で、

また一つ、水面下の歯車が動き始めていた。

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