芽吹く火花
よしよし。
このメンバーなら、エレキッテルの実験もきっと何かしら前に進む。
リュミエルの直感。
学術員たちの理屈。
ロットの職人勘。
これだけ考えが混ざれば、変な方向に行く事はない……はず。
「うん。大丈夫そうね?」
メイヤは一歩引いて、皆の様子を眺める。
誰か一人が突っ走る空気ではなく、ちゃんと意見が交わっている。
それを確認して、満足そうに小さく頷いた。
それなら――
私は、こっそり抜けても良いわよね?
エレキッテルの場は、今は「任せていい段階」だ。下手に口を出せば、芽が歪む。
そういうタイプの研究だと、メイヤはもう分かっていた。
それよりも。
……強襲揚陸艦
港の奥。
立入制限が張られた一角。
艦体だけなら、もう完成している。
そしてつい先程――
「自力航行、可能になりました」
その一報が、密かに上がってきたのだ。
まだ武装は無いし中側もまた工事中。
速度もただ動かしただけ。どこか中途半端な姿。
それでも――
「自分で動く」という一点だけで、意味は十分すぎた。
見に行かない訳、ないわよね!
メイヤは誰にも声を掛けず、そっと実験棟を後にする。
背後では、エレキッテルの箱が回され、小さな光と、乾いた音が弾けていた。
――火花は、もう生まれている。
あとは、どこへ飛ぶか。
メイヤは歩きながら、小さく息を吐いた。
「……本当に、忙しくなるわね」
その足取りは、港へ。
未来の“形”を確かめるために。
「うんうん!中々、見た目は良いわね!……うん、かっこいいわ!」
メイヤは桟橋から艦体を見上げ、素直に感嘆の声を漏らした。
装甲板の継ぎ目も整い、艦首のラインも無駄がない。
まだ塗装も仮段階だが、それでも「形」になった迫力は十分だった。
「さてさて……中は――」
タラップを上がり、艦内へ。
「……うん。確かに未だ建造中って感じだわ」
配管は剥き出し。
床板も一部仮止め。
資材と工具がそのまま置かれ、職人の匂いが残っている。
でも。
動く艦の「腹の中」だ。
「タルトさんは……どこかしら?やっぱり機関室かな?」
奥へ進むと、蒸気の音と低い金属音が響いてくる。
――いた。
「おー!来たな?」
煤だらけの顔で振り向いたタルトが、にっと笑う。
「どぉ?」
メイヤは機関部を一望し、目を細めた。
「……今現在、最大の蒸気機関ね」
「ああ!しかも二基だ!」
タルトは誇らしげに分厚いシリンダーを叩く。
「どっちも試運転した感じ、不具合どころか問題ねー!その内、全力航行やら舵の効きやら、細かく試験するがな!」
「いいわね!その時は必ず呼んでよ!」
「おう!楽しみにしてろ!」
蒸気の音が、ゆっくりと脈打つ。
まだ未完成。まだ試験段階。
それでも――
「艦が、自分で動く」
その事実だけで、メイヤの胸は少し高鳴っていた。
……技術って、本当に面白いわね!
エレキッテルの火花。空を舞った奇術師。
そして、港で目を覚ます鋼の塊。
この領地は、もう後戻り出来ない場所に来ている。
メイヤは機関の鼓動を背に、静かに微笑んだ。




