ピリッとの正体
……確かに、静電気ね。
メイヤは顎に指を当て、二つの箱を交互に見た。
さて――
どうやって、ここに居る人達に伝えるか。
「ねえ、リュミエルさん」
呼ばれた本人は、既に箱の周りをぐるぐる回っている。
「ん?」
「この“ピリッと来る”現象、何だと思ってる?」
リュミエルは即答だった。
「ふっ。そりゃ簡単だろ」
得意げに笑う。
「冬場に、たまに来るだろ?鉄のドアノブ触った瞬間に、バチッて来るやつ」
「……」
「それだ」
メイヤの目が、僅かに見開かれた。
「……そこまで理解してるの?」
「? まあな」
首を傾げる。
「違うのか?」
「……いえ、合ってるわ」
むしろ、合いすぎている。
「それを、夏場でも再現出来るようにしたのが、これ?」
「ああ」
箱をぽん、と叩く。
「大した事はしてない。溜めて、放出する。それだけだ」
それだけ――
その言葉の軽さに、メイヤは一瞬、遠い目をした。
「……じゃあ」
視線を、もう一つの箱へ向ける。
「こっち。四倍サイズの方」
ロットを見る。
「ロットさん。こっちは触ってないわよね?」
「んー」
ロットは、腕を組んで考えた。
「回すのが大変でな。途中でやめた」
「……やったのね?」
「少しだけじゃ」
メイヤは、深くため息をついた。
「……まあいいわ」
気を取り直して、リュミエルを見る。
「この大きさでやったら、どうなると思う?」
リュミエルは少し考え、にやりと笑う。
「そうだな」
「多分――」
指を立てる。
「回す回数は少なくて済む」
「で?」
「ピリッと来るまでが、早い」
その場の空気が、わずかに張りつめた。
「……」
メイヤは、ゆっくり頷いた。
「じゃあ」
一歩、箱に近づく。
「やってみましょう」
ロットが、思わず一歩下がる。
「お、おい。本当にやるのか?」
「ええ」
メイヤの目は、完全に研究者のそれだった。
「ここからが、本番よ」
箱の上で、針金が――
静かに、しかし確実に、何かを待っているように揺れていた。
「さーって……」
メイヤは袖をまくった。
「回してみますか!ここは――私がやるわ!」
「え、メイヤ様!?」「ちょっ――」
制止の声を振り切り、ハンドルを掴む。
ぎ……ぎぎ……!
重い。だが回る。次の瞬間――
バチッ、バチバチッ!
針金の先で、青白い光が弾けた。
「おお……」
誰かが息を呑む。
暗がりの中、火でも煙でもない、一瞬で消える、鋭い光。
「はぁ……はぁ……」
メイヤは息を整えながら、目を細めた。
「……光が見えた」
「って事は――」
顎に指を当てる。
「何かしらの“燃料”がある……?」
中々、良い線!
リュミエルが口元を歪める。
「じゃあ、もう一度いくか?」
「ええ」
再びハンドルに手を伸ばそうとした、その時。
「あ、あの!」
控えめに、だが確かな声。学術員の一人が手を上げた。
「蒸気機関と……接続させれば」
「?」
「人が回さなくても、ずっと回り続けるのでは……?」
「……」
一瞬の沈黙。
そして――
「た、確かに!」
メイヤの顔が、ぱっと明るくなる。
「そうよ!回転が必要なら、回し続ければいい」
「……」
ロットが嫌な予感を覚え、後ずさる。
リュミエルは、楽しそうに笑った。
「ははっ!」
「面白くなってきたな」
その場に居た全員が理解した。
――この瞬間、取り返しのつかない扉が、音もなく開いたことを。




