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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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点と点のあいだ

メイヤは、自室の机に広げた書面をじっと見つめていた。

機構に登録されていた、例の「不要物」一覧。その中でも、あの猫族の奇術師――リュミエル・フェーンが残した記録だ。


「……本当に、変な人ね」


そう呟きながらも、指は止まらない。


まずは落下傘。

登録時の実験内容が、やけに詳細だ。


布の種類、縫製方法、想定風速。

そして――重石十キロを付けて投下。


「自分で飛ぶ前に、重石……」


常識的に考えれば、理論検証で終わらせるか、小動物程度で済ませる。

それを、実際に重量をかけて試す。


「しかも、生きてる」


理論値だけで傘の大きさを割り出し、恐らく修正も一度きり。

失敗すれば、怪我では済まない。


「無茶、というより……覚悟ね」


次に目を通したのは、紙飛行機。


折り方、重心、投げる角度。

こちらは落下傘ほど危険ではないが、異様に試行回数が多い。


「空に、随分と興味があるのね」


商売にはならない。機構としても評価しづらい。


だから、不要。


「でも」


メイヤは、エレキッテルの項目へと視線を移す。


箱に付いたハンドル。回すと、内部で何かが溜まり、金属線に触れるとピリッと来る。


「理屈は、まだ分かってない」


恐らく本人も、完全には理解していない。

それでも、現象を切り取って残している。


さらに、真空瓶の記述。


瓶の中の空気を抜き、蓋を開けると「ポン」と音が鳴る。目的不明、用途なし。


「……点は、全部ある」


一つ一つは、意味がない。

だから評価されない。


だが――


「繋げば、線になる」


電気という概念は、この世界にはまだない。

光を安定して生む方法も、知られていない。


けれど。


「最初の一歩は、確実に踏み出してる」


静電気を溜める。放出する。

真空という状態を作る。


どれも、途中で止まっているだけだ。


「環境が無かったのね」


資金も、人手も、理解者も。

そして、何より――時間。


メイヤは書面を閉じ、椅子の背にもたれた。


「奇術師、か」


自分をそう名乗る理由も、分からなくはない。

人に見せる形でしか、生きられなかったのだろう。


「でも……」


小さく、確信を込めて言う。


「これは発明家よ」


しかも、危なっかしくて、放っておけば自滅するタイプ。けれど、条件さえ整えば――


「化ける」


点と点は、もう揃っている。

足りないのは、それを線にする場所だけ。


メイヤは、机の端に置かれた実験棟の設計図へと視線を移した。


「……拾ったのは、私だもの」


どう育つかは、これから次第。

そう結論付けると、メイヤは次の書類へと手を伸ばした。


「ミュネ。あの変人さんは?」


書面から顔を上げ、メイヤが問いかける。


「はぁ……」


ミュネは少し疲れたように息を吐いた。


「私にも色々と聞かれましたよ。特に……あの蒸気機関ってやつを、やたらと熱心に」


「ああ……」


即座に察するメイヤ。


「恐らく、タルトさんの所ですね。『何で動く』『何で止まる』『力はどこから来る』って、止まらなくて」


「でしょうね」


メイヤは小さく笑った。


「まず船で、次に蒸気機関車。順番としては、実に素直」


水に浮かぶもの。陸を走るもの。

どちらも、人の力ではない何かで動いている。


「あの変人さんの事ですから」


ミュネが肩をすくめる。


「根掘り葉掘り聞いているはずですし……理解するのも、恐らく早いかと」


「ええ」


メイヤは窓の外――港の方角へ視線を向けた。


「理屈が分からなくても、現象を掴むのが上手なタイプだもの」


エレキッテルも、落下傘も。全てそうだった。


「さて……」


机に肘をつき、指を組む。


「どんな反応をするかしら?」


驚くか。興奮するか。

それとも、もう次の実験を考え始めているか。


「……どれでも、面白いわね」


そう呟いたメイヤの口元には、期待を隠しきれない微笑みが浮かんでいた。

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