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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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来訪者、到着せず

今日、その方がやって来る。


どんな人なのかしら?

奇術師?発明家?変人?天才?


――考えるだけで、ワクワクが止まらない。


だがしかし。昼過ぎ。


「……ミュネ?」


「はい?」


「王都からの一番船、とっくに着いてる時間よね?」


「はい。予定では……九時過ぎには」


「…………」


メイヤは、時計を見る。もうとっくに昼だ。


「……船が、沈んだ?」


「いえ、沈没の報は入っておりませんが……」


「じゃあ何で来てないのよ!」


「……?」


一拍置いて。


「ミュネ。港に行くわよ!」


「はいっ!」



港にて。


「あれ?」


メイヤは目を細めた。


「……あれ、一番船よね?」


王都へ向かう準備なのか、甲板では荷の積み込みが始まっている。


「おかしいわね……」


船員を捕まえる。


「すみません。一番船で来た“猫族の女性”降りてません?」


「あー……あいつか!」


船員は、盛大に顔をしかめた。


「困った客だったよ!なんで帆が無いのに進むんだ、とか!あの煙は何だ、とか!

仕組みを見せろって!」


「……」


「客を機関室に入れられる訳ねーだろ?って言ったら大暴れしてな!」


「……」


「だから縛って大人しくさせた!」


「はぃ???」


メイヤの声が裏返る。


「で!?ここには到着してるのよね!?」


「そりゃーな!港に着いたら縄は解いたぜ?

まさかメイヤ様の客だったとはなぁ」


「……その人、どこへ?」


その時。


――シュウウゥゥゥ……!


蒸気の音と共に、蒸気機関車が港へ滑り込んできた。


「……あ」


見覚えのある人物が降りてくる。


「ナータさん!」


「何よ!予定より遅れて忙しいんだけど!」


「猫族の三十代くらいの女性、見ませんでした!?」


「……あぁ?……あんたの知り合い?」


「いえ!まだ知り合ってませんけど!」


「じゃあ多分、そいつね」


「……?」


「蒸気機関車に乗ってたんだけどさ」


ナータは、こめかみを押さえた。


「急に“なんでこれが動く?”“燃料はこの石?”“出てる煙は船と同じ?”とか聞き始めて」


「……」


「挙句に“私に操作させろ”って言い出して!」


「……」


「運転の邪魔はするわ、制止したら暴れるわで!」


「……」


「緊急停止して、縛り上げて、警備隊に引き渡したわよ!全く!!」


「…………」


メイヤは、静かに顔を覆った。


「……げっ」


今日、来る予定の天才?どうやら――

既に二つの交通機関を制圧しかけているらしい。


「ミュネ!警備隊本部へ行くわよ!」


「はい!向かいます!」


二人は足早に通りを抜け、警備隊本部へ向かった。


……が。


「ん?」


本部の前が、妙に騒がしい。

警備兵が集まり、誰かが身振り手振りで説明している。


「……ちょっと?」


メイヤがその場に居た人に声をかける。


「何かあったの?」


「あっ、メイヤ様!」


「いや、その、警備隊が……猫族の女性を縛っていたんですが……」


「……縛って“いた”?過去形?」


「ええ」


なぜか遠い目をする。


「急にその女性がですね……“みなさーん、ご注目〜!”って、大声を出しまして……」


「……は?」


「皆が反射的に見た瞬間ですよ!――スルスルッ、と」


「……」


「縄を、抜けたんです」


「…………」


「いやもう!凄かったですよ!指がどうなってるのか分からない速さで!」


「…………」


「警備隊も全員、呆気に取られまして!」


「…………」


「気が付いたら、姿が無くなってました!」


「…………」


メイヤは、静かに呟いた。


「……げっ」


「どっちに逃げたの!?」


「あ、あっちです!警備隊があとを追って中央にある……塔の方へ……」


「……」


メイヤの脳裏に、嫌な予感しか浮かばない。

よりにもよって……ミュネが、恐る恐る聞く。


「メ、メイヤ様……」


「……行くわよ」


メイヤは、深く息を吸った。


「“好奇心の塊”が、一番危険な場所に向かっただけよ」


中央の塔。領都の中でも、最も“仕組みが詰まった場所”へ――。

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