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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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不必要とされた才能

「メイヤ様。機構経由で、今日の王都行き一番船にて依頼を出しました。順調なら、明日中には相手と接触出来ると思われます」


「良かったわ」


メイヤはほっと息を吐いた。


「後は……こっちに来てくれるか、ね。来てくれると嬉しいんだけど」


「そればかりは、相手次第ですね」


パナーはいつも通り淡々としていた。


――翌日。


王都からの一番船に乗せられた文が、機構経由で届いた。

メイヤはそれを受け取り、ぱっと表情を明るくする。


早い……!


だが、次の瞬間。


「……は?」


メイヤの口から、素の声が漏れた。

パナーが、言いにくそうに文の内容を読み上げる。


「相手は、王都の端にある下町に住んでいましたが……機構の担当者が訪ねたところ、床に倒れており……」


一拍。


「『メシ……』と、そう書かれていたそうです」


「……は?」


一瞬、理解が追いつかない。


「どうやら、反乱の影響で興行が出来なくなり、収入源を完全に失っていた模様で……」


パナーは静かに続けた。


「食事も、数日まともに取れていなかったようです。機構の担当が慌てて食事を奢り、医師も呼んだと」


「…………」


言葉が、出ない。


「体力が著しく落ちていた為、数日休ませてから、こちらへ送るとの事です」


「……そう」


メイヤは、ゆっくりと息を吐いた。

期待していた未来図が、音もなく崩れる。

天才発明家。時代を先取りした異端者。


――その実態は、誰にも顧みられず、餓えて倒れていた一人の女性だった。


「……分かったわ」


メイヤは、静かに言った。


「その間に……」


机の上に置かれた二枚の登録書類を見る。


「この“登録された物”。一度、私たちで再現してみましょう」


「再現、ですか?」


「ええ」


メイヤの瞳に、迷いは無かった。


「彼女が“無駄”だと言われた物が、本当に無駄だったのか――確かめる」


それは、好奇心ではない。同情でもない。


「価値が無かったんじゃない。ただ、“見る目が無かった”だけかもしれない」


パナーは、小さく息を飲んだ。


「……承知しました」


雪は、静かに降り続いている。

そして王都の片隅で、“時代を早過ぎた才能”が、ようやく息を整え始めていた。


――それから、さらに数日後。


執務室に、控えめなノック音が響いた。


「メイヤ様」


「入って」


扉を開けたパナーの表情は、どこかいつもより柔らい。


「王都の機構から連絡がありました。明日の王都を出る一番船に乗せるそうです」


メイヤは、ぱっと顔を上げた。


「本当?」


「はい。なので、こちらへの到着は明日になります」


一瞬、言葉が詰まる。

そして次の瞬間、メイヤは思わず笑った。


「……やっと、来てくれるのね」


胸の奥に溜まっていたものが、すっと抜けていく。


「来てくれるだけで、もう嬉しいわ」


パナーは少し意外そうに目を細めた。


「随分、肩入れされますね」


「だって」


メイヤは、机の上に置かれた例の登録書類に視線を落とす。


「誰にも使われず、誰にも理解されず、それでも“登録”だけはされて残っていたのよ?」


そう言って、顔を上げた。


「会ってみたいじゃない。どんな人なのか」


「……そうですね」


パナーも、静かに頷いた。


「明日が楽しみだわ」


窓の外では、雪がゆっくりと溶け始めていた。


冬の終わりと共に、また一つ――

この領地に、新しい“歯車”が運ばれて来ようとしていた。

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