不必要とされた才能
「メイヤ様。機構経由で、今日の王都行き一番船にて依頼を出しました。順調なら、明日中には相手と接触出来ると思われます」
「良かったわ」
メイヤはほっと息を吐いた。
「後は……こっちに来てくれるか、ね。来てくれると嬉しいんだけど」
「そればかりは、相手次第ですね」
パナーはいつも通り淡々としていた。
――翌日。
王都からの一番船に乗せられた文が、機構経由で届いた。
メイヤはそれを受け取り、ぱっと表情を明るくする。
早い……!
だが、次の瞬間。
「……は?」
メイヤの口から、素の声が漏れた。
パナーが、言いにくそうに文の内容を読み上げる。
「相手は、王都の端にある下町に住んでいましたが……機構の担当者が訪ねたところ、床に倒れており……」
一拍。
「『メシ……』と、そう書かれていたそうです」
「……は?」
一瞬、理解が追いつかない。
「どうやら、反乱の影響で興行が出来なくなり、収入源を完全に失っていた模様で……」
パナーは静かに続けた。
「食事も、数日まともに取れていなかったようです。機構の担当が慌てて食事を奢り、医師も呼んだと」
「…………」
言葉が、出ない。
「体力が著しく落ちていた為、数日休ませてから、こちらへ送るとの事です」
「……そう」
メイヤは、ゆっくりと息を吐いた。
期待していた未来図が、音もなく崩れる。
天才発明家。時代を先取りした異端者。
――その実態は、誰にも顧みられず、餓えて倒れていた一人の女性だった。
「……分かったわ」
メイヤは、静かに言った。
「その間に……」
机の上に置かれた二枚の登録書類を見る。
「この“登録された物”。一度、私たちで再現してみましょう」
「再現、ですか?」
「ええ」
メイヤの瞳に、迷いは無かった。
「彼女が“無駄”だと言われた物が、本当に無駄だったのか――確かめる」
それは、好奇心ではない。同情でもない。
「価値が無かったんじゃない。ただ、“見る目が無かった”だけかもしれない」
パナーは、小さく息を飲んだ。
「……承知しました」
雪は、静かに降り続いている。
そして王都の片隅で、“時代を早過ぎた才能”が、ようやく息を整え始めていた。
――それから、さらに数日後。
執務室に、控えめなノック音が響いた。
「メイヤ様」
「入って」
扉を開けたパナーの表情は、どこかいつもより柔らい。
「王都の機構から連絡がありました。明日の王都を出る一番船に乗せるそうです」
メイヤは、ぱっと顔を上げた。
「本当?」
「はい。なので、こちらへの到着は明日になります」
一瞬、言葉が詰まる。
そして次の瞬間、メイヤは思わず笑った。
「……やっと、来てくれるのね」
胸の奥に溜まっていたものが、すっと抜けていく。
「来てくれるだけで、もう嬉しいわ」
パナーは少し意外そうに目を細めた。
「随分、肩入れされますね」
「だって」
メイヤは、机の上に置かれた例の登録書類に視線を落とす。
「誰にも使われず、誰にも理解されず、それでも“登録”だけはされて残っていたのよ?」
そう言って、顔を上げた。
「会ってみたいじゃない。どんな人なのか」
「……そうですね」
パナーも、静かに頷いた。
「明日が楽しみだわ」
窓の外では、雪がゆっくりと溶け始めていた。
冬の終わりと共に、また一つ――
この領地に、新しい“歯車”が運ばれて来ようとしていた。




