笑ってた資料が笑えなくなる時
「うーん……」
メイヤは椅子に深く座り直し、資料をめくり続けていた。
「確かに……何に使うんだ?ってのが殆どね」
図面、簡単な説明、用途不明。
実験結果だけが淡々と書かれている。
「まあ、だから“不要”判定なんだろうなぁ〜」
そんな軽い感想で、次の頁。
「……ん?」
目が止まる。
「箱型構造……側面にハンドル?」
説明文を読む。
『付属の回転把手を回し、上部に露出した金属線に触れると、微弱な刺激を感じる』
「……」
「ぷっ!」
思わず吹き出した。
「なにそれ」
指で文章をなぞりながら笑う。
「箱に付いてるハンドルを回して、上に出てる鉄線を触るとピリッとする?」
「どんな仕組みよ、これ」
絵を見る。歯車。内部に謎の円盤。巻かれた細い線。
「謎仕組みだね?」
「一体、なんの為よこれ」
そのまま読み進める。
『通称:エレキッテル(仮)』
「……は?」
メイヤの笑いが止まった。
「え?」
もう一度、文字を追う。
「エ……レ……キッテル?」
「……」
「……エレキッテル?」
脳裏に、前世の記憶が一気に浮かぶ。
静電気。摩擦。回転。感電ごっこ。
「……」
メイヤは、ゆっくり資料を机に置いた。
「これ……」
声が、少し低くなる。
「まさか……」
指で、図面の構造を辿る。
「エレキテル……じゃない?」
笑いは、もう無かった。
「……だから“不要”?」
「だから“使われなかった”?」
メイヤは息を吸い、吐く。
「……冗談じゃないわよ」
雪の降る音が、妙に大きく聞こえた。
不要指定。未使用。忘れられた箱。
――だがそれは、本当に「不要」だったのか。
メイヤの目が、静かに細められた。
「ちょ、ちょっと待ってよ……!」
メイヤは資料をばさっと戻し、別の束を引き寄せた。
「さっき……確か……」
頁を繰る指が止まる。
『ガラス瓶内部の空気を排出し、内部を空に近い状態にする実験』
「……あった」
さらに読み進める。
『封止後、蓋を外すと“ポン”という音を立てて破損する例あり』
「……」
メイヤの背筋に、ぞわりと寒気が走った。
「真空……」
「ガラス瓶……」
「ポン、って……」
頭の中で、別の映像が重なる。
「……裸電球」
ぽつりと呟く。
「確か……中、真空じゃなかった?」
机に肘をつき、記憶を掘り起こす。
「中の空気を抜かないと、熱でフィラメントが燃えちゃうから……」
「だから真空、もしくは不活性ガス……」
資料を睨みつける。
「しかも……光る部分」
別の記憶が浮かぶ。
「最初期は……日本の竹を炭化させたフィラメント……」
「エジソンが使った……」
喉が、ひくりと鳴る。
「……ねえ」
誰もいない部屋で、思わず声に出す。
「これ……偶然?」
机の上には、
・回転で“ピリッ”とする箱
・真空ガラス瓶の実験
・用途不明で放置された資料
「いや……」
メイヤは、ゆっくり首を振った。
「理屈として……繋がりすぎでしょ」
笑えなくなっていた。
「……この世界」
「“電気”に、もう手をかけてるじゃない」
ページの端を、強く押さえる。
「問題は――」
小さく、息を吸う。
「この理論……合ってるかどうか、よね」




