退屈の正体
メイヤは自室で、見事にだらけていた。
冬だ。
領都は雪まつりのお陰で人の気配も多く、表向きは賑やかだが――
どうしても動きは鈍る。
寒いし……
窓の外を眺めつつ、毛布に包まる。
出歩く気力、ゼロ!
とは言え、ただ寝転がっているのも長くは続かない。
「……暇」
口に出した瞬間、自分でも呆れた。
本があるわけでもない。
仕事を持ち込まれているわけでもない。
この世界には、前世で当たり前だった“ながら時間”を埋める物が無い。
ラジオでもあればなぁ……
音だけで世界と繋がれる、あの便利な代物。
もちろん、そんなものは無い。
ごろり、と寝返りを打つ。
……ネタが無いのが一番キツい!
メイヤは天井を見つめながら、ふと思い出した。
そう言えば……
「機構の支店、か」
婆ちゃん――“観閲しても良い”という許可は、確かに貰っていた。
王都では色々あって、結局まともに見られなかった。だが、支店なら話は別だ。
あそこ、今どうなってるんだろ?
表向きは、何の変哲もない技術組織。
だが中身は、相変わらず一筋縄ではいかないはず。
展示とか、資料とか……見れる様になってるのかな?
考え始めると、少しだけ気分が上向いた。
「……まあ」
メイヤは毛布を跳ね除け、起き上がる。
「考えてても仕方ないし」
許可はある。暇はある。
雪道だが、行けない距離でもない。
「行ってみるか」
独り言を言いながら、上着を手に取った。
この時、メイヤはまだ知らない。
“退屈”が、一番危険な入口になる事を。
「たのもー!!」
扉を開け放つ声が、機構支店の中に響いた。
「げっ!?」
反射的に声を上げたのは、詰所に居た機構隊長だった。
「お、お嬢ちゃん!?どうした!?何しに来た!?」
その慌てぶりに、メイヤはむっと眉を寄せる。
「何よ。誰でも来ていい場所でしょ?ここ」
「そ、そうだが……」
隊長は視線を泳がせながら、咳払いを一つ。
いきなり来るなよ……心臓に悪い!
そんな心の声が透けて見える。
「王都の本部と同じ様に、ここにも資料見れる様になってるの?」
メイヤはずいっと一歩踏み込んだ。
「いや……全部じゃないなぁ」
隊長は頭を掻きながら答える。
「規模も違うし、置いてあるのは一部だ。技術資料とか、公開許可が出てるやつだけって感じだな」
「ふーん」
メイヤは少し考え込む様に顎に指を当てる。
「じゃあ、それでいいから見せて」
即答だった。
「……あー」
隊長は一瞬だけ間を置いた。止める理由、無いよな……
「……良いぞ?」
「よし!」
ぱっと表情を明るくして、メイヤは中へと進む。
「案内よろしくね、隊長さん」
「はいはい……」
隊長は内心ため息をつきながら、棚の並ぶ区画へと歩き出した。
よりにもよって、このタイミングで来るかね……
書類棚には、整然と並んだ技術報告書、構造図、運用記録。
王都本部ほどではないが、それでも一般人には過剰な量だ。
「へぇ……」
メイヤは目を輝かせながら、一つ一つ眺めていく。
「思ったより、ちゃんとしてる」
「ちゃんとしてるって何だ……」
隊長は苦笑する。
だが次の瞬間、メイヤの足が、ぴたりと止まった。
「……ねえ」
「ん?」
「これ、何?」
指差したのは、他の資料とは明らかに違う、
簡素な表紙の束だった。
隊長の表情が、一瞬だけ曇る。
「……それは」
メイヤは、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「これ、何の資料?」
静かな問いかけだったが――




