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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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早すぎる準備

「たったいちょー!!」


背後からの大声に、隊長は思わず肩を跳ねさせた。


「うわっ!?パナーか……久々だな、その入り方。何だよ、何かあったか?」


息を切らしたパナーは、少し声を潜めて言った。


「奥様が……近衛にクロスボウを渡して、ここの近衛隊を王都へ返しました!」


「――は?」


間の抜けた声が出る。


「ま、まじかよ。何か起きるのか?」


「……じゃないでしょうか?」


隊長は腕を組み、眉をひそめた。


「いや……こっちには、何の情報も回ってきてないぞ?」


「そうなんですか?」


「おう」


少し考えてから、首を傾げる。


「まあ、雪で情報が遅れてるって線はあるかもな。街道も鈍ってるし」


「んー……」


二人の間に、短い沈黙。

やがて隊長が、ふっと息を吐いた。


「……とはいえ、だ」


「はい?」


「あの奥様の事だ。“起きてから動く”ってタイプじゃねぇ」


パナーは、はっとした顔をする。


「確かに……」


「早めに動かして、何も無けりゃそれでいい。準備だけして、終わるならそれが一番だって考えてても不思議じゃない」


「……ですね」


パナーは苦笑した。


「逆に、何も無いって言い切れないからこそ、ですよね」


「そういう事だ」


隊長は窓の外、降り積もる雪を見た。


「動いたって事は……」


「はい」


「表に出てねぇだけで、どっかで“歯車”が回り始めてるかもしれねー」


パナーは背筋を正す。


「……こちらは、どうします?」


「いつも通りだ」


隊長は即答した。


「警戒は緩めるな。でも騒ぐな!何も起きなけりゃ、それでいい」


そして、ぽつりと付け加えた。


「……起きた時に、慌てないためにな」


雪は静かに降り続いている。


だがその下で、見えない音を立てて――何かが、確実に動き始めていた。



執務棟の一室に呼び出された瞬間、リディアは嫌な予感しかしなかった。


……まただ。


後ろに並ぶ警備隊の数名も、無言で顔を見合わせている。


今度は何だ……雪中強行軍か?

それとも新しい罠の実地試験か?


セリアは、いつもの穏やかな笑みで彼らを迎えた。


「来たわね。ちょっと時間いいかしら?」


その一言で、胃がきゅっと縮む。


「……はい」


リディアは警戒を解かない。


「あなた方に――」


一拍、間。


「新規の装備をお渡ししまーす!」


「……へ?」


間の抜けた声が、思わず出た。

警備隊の一人が小さく聞き返す。


「……装備、ですか?」


「ええ」


セリアが合図すると、控えていた者達が布を外した。


そこに並んでいたのは――

見慣れた軍服とは明らかに違う装備一式だった。


「……なに、これ」


リディアは思わず一歩近づく。


軍服は雪中でも動きやすいよう再設計され、

肩・肘・膝には最低限の防護。

背負い装備は体に密着し、重量が分散される構造。


水筒、火薬、クロスボウ用具、簡易食料。

すべてが「取り出す動作」を前提に配置されている。


「前回までの訓練と、実地の反応を全部反映してるわ」


セリアはさらりと言った。


「……冗談、じゃないですよね?」


警備隊の一人が恐る恐る聞く。


「冗談で、こんなに作り込まないでしょ?」


にこり。


リディアは額を押さえた。


「……つまり」


「ええ」


セリアは頷く。


「“次”を想定した正式装備よ」


空気が、一段重くなる。


「無茶振りは?」


「今回は無し」


「……本当に?」


「ええ。今回は、ね」


その「ね」が妙に引っかかる。


警備隊の一人が小声で呟いた。


「……逆に怖い」


セリアは聞こえていないふりをして続ける。


「着用感を確認して、細かい意見を出してちょうだい。これは、あなた達が生き残る為の装備なんだから」


リディアは、装備を手に取った。


その重さと、収まりの良さを感じて――

はっきり理解する。


これは……“遊び”じゃない。胸の奥が、静かにざわついた。


「……了解しました」


リディアは、真剣な顔で答えた。

セリアは満足そうに微笑む。


「ええ。お願いするわ」


雪はまだ降っている。


だが、装備はもう――

春を、そしてその先を見据えていた。

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