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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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雪の下で燻る者たち

丁度その頃。

王都より西方、いくつかの領地の境に位置する、名も知られぬ屋敷の一室。


外では雪が静かに降り積もる中、その部屋には数十名の人影が集まっていた。

灯されたランプの光は弱く、顔の半分は影に沈んでいる。


集まっているのは、いずれも“かつて”の伝統貴族たちだった。


中には、すでに爵位を失った者もいる。

反乱に加わるほどの覚悟は無く、しかし鎮圧に尽力する勇気も無かった者たち。

どちらにも賭けきれず、結果として――何も得られなかった者たちだ。


王政は彼らに最後の機会を与えていた。

「復旧で結果を出せ」と。


だが彼らは、それすら活かせなかった。


港は新興の若手貴族が立て直し、東地区は別の者が指揮を執り、彼らの領地には、仕事も名誉も回って来なかった。


「……結局、我々は切り捨てられたのだ」


誰かが、低く呟いた。


「王は我らを見ていない」


「いや、見ているからこそ使わなかったのだ」


苦々しい笑いが漏れる。

彼らの多くは、代々続く名門を誇りにしてきた。だが今や、その“伝統”は、何の力も持たなかった。


「若造どもが、結果だの数字だの……」


「血筋を軽んじ、能力だけで選ぶなど……」


誰かが拳を握り締める。


「我々は間違っていない。間違っているのは、時代の方だ」


同意の声が、静かに広がっていった。


この場に集まった者たちは、まだ“反逆者”ではない。だが同時に、“忠臣”でもなかった。


彼らは、待っている。


王都が油断する時を。雪が溶け、人々が平和に慣れきった、その瞬間を。


「春だ」


誰かが、ぽつりと言った。


「雪解けの時が、一番足元が崩れやすい」


ランプの炎が、揺れた。


誰も声を荒げることはない。

だがその沈黙こそが、何よりも危険だった。


雪の下で、何かが確実に蠢いている。

それはまだ形を持たないが――

やがて“意志”となって、表に現れるだろう。


嵐は、静かに準備を終えつつあった。


部屋の奥。

沈黙を支配していた男が、静かに口を開いた。


「――回りくどい言い方はやめよう」


その一言で、場の空気が変わる。


「我々は、王政に刃向かう」


誰かが息を呑んだ。

だが、誰も立ち上がらない。


男は元・伯爵。

肩書きこそ残っているが、実権は奪われ、今は“用済み”とされた存在だ。

だが、この場に集められた者たちは知っていた。

この男だけが――金と物資、人の流れを、未だに握っていることを。


「不満を言うだけの集まりなら、ここに来る意味は無い」


「復旧の機会も、名誉を取り戻す道も、我々には与えられなかった」


机に置かれた帳簿を、男は開く。


「資金はある」


ざわり、と空気が揺れた。


「王都復旧予算の“死金”だ」


「港と東は新興貴族が押さえた。西は切り捨てられた」


「本来、我々が扱う筈だった資金と物資が、宙に浮いたまま残った」


男は淡々と続ける。


「帳簿上は消えている。だが、実在している」


「武具、保存食、鉄材……」


「反乱を起こすには、十分すぎる量だ」


誰かが、かすれた声で言った。


「……反乱は、勝てない」


男は否定しない。


「正面からならな」


そして、はっきりと言い切った。


「だが――勝つ必要はない」


視線が集まる。


「我々の目的は、王都を奪う事ではない!“王政が完全ではない”と、知らしめる事だ」


男は帳簿を閉じ、指で机を叩く。


「雪解けと共に、物流が再開する!その瞬間を狙い、各地で同時に火を上げる」


「規模は問わない!橋、倉庫、街道、補給線。小さな反乱を、点ではなく“線”で起こす」


「鎮圧されるのでは?」


「される」


即答だった。


「だが、同時多発なら話は別だ」


男の声が低くなる。


「王都は、まだ復旧直後だ!軍は再編中、近衛も動きが鈍い!全てを同時に抑える余力は無い」


「必ず、取りこぼしが出る」


「……その先は?」


男は、初めて感情を滲ませた。


「交渉だ」


「我々を切り捨てた代償を、支払わせる」


「領地、権限、地位」


「最低でも、“新興貴族だけでは回らない”と認めさせる」


誰かが呟く。


「それは……賭けだ」


「そうだ」


男は頷いた。


「だが、何もしなければ我々は確実に消える。なら、刃を取るしかない」


沈黙。


だが、今度は恐怖の沈黙ではなかった。

覚悟を量る沈黙だ。


「反乱に名を連ねる覚悟がある者だけ、残れ!今なら、まだ引き返せる」


誰一人、立たなかった。


男は満足そうに目を細める。


「よろしい」


「では、我々は“敗者”ではなくなる」


「春になれば、王国は知る事になるだろう。切り捨てた伝統貴族が、どれだけの“火種”だったかを」


外では、雪が静かに降り続いていた。


だがその下では――

確実に、戦の準備が進んでいた。

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