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第87話 魔道具技師

 ヴィッシュ、イリーナと共にアカデミーへ戻ってきた。


「ヴィッシュ先生、このまま向かわれますよね?」


「えぇ、そのつもりですが」


「それじゃあライラさんのところで落ち合う感じで良いですかね。研究所のほうで直してもらう予定の物を持ってから行きます」


「分かりました」


 ヴィッシュがそう返事をすると、イリーナは職員室を出て行った。


「では、私たちも向かいましょうか」


 ヴィッシュはそう言って職員室を出ていき、私も後に続いた。


 アカデミーを出て町へと移動する。


 町中まで来ると、川港方面の大通りから一本裏通りに入った場所に目的地があった。


「ここです」


 ヴィッシュがそう言って扉をノックする。


「はいはいはい~、居ますよ~」


 中から明るい女性の声が聞こえ、扉が開いた。


 姿を見せたのは、金髪のストレートヘアでスラリとした体格のエルフ族の女性だった。彼女の周囲には、緑色の光の球がふわふわと浮いていた。


 錬金科の卒業生で、卒業時に授与されるバッジとして植物の精霊ドライアドを選んだのだろう。


「やや、ヴィッシュ先生と……?」


 女性はヴィッシュから私に視線を移し、頭に疑問を浮かべた。


「こんにちは、元気にしていますか? こちらは今年の新入生、ラミナ君ですよ」


「元気していますよ~。ライラです、よろしくねっ。散らかっていますが、どうぞ上がって」


 ライラは私に軽く挨拶をすると、奥へと移動していった。


「私たちも入りましょうか」


「はい」


 ヴィッシュに続いて中に入ると、そこは作業場になっていた。


 あちらこちらにいろいろな工具が散らばり、木でできた膝下や腕の先といった義肢が所狭しと置かれていた。


 木製の手や足が気になる。


「これって……」


「義肢ですよ。彼女は病気や闘いで失った腕や足を作っているんです」


「はぁ……」


 足首から先のものもあれば、指先だけのものもある。


 ライラは周囲を見回し、作業台の上にあった工具をさっと脇に避けながら、空いている椅子を指差した。


「空いているところに座ってください~」


 空いている所……?


 木製の板の上には工具や材料が散乱し、もはやテーブルとは思えない状態だった。


「ラミナ君はそこに座ってください」


 ヴィッシュが作業台前の椅子を指し示してくれたので、お言葉に甘えてそこに腰掛けた。


 ヴィッシュは周囲にある作品を手に取って眺めていた。


 私も作業台の上に目を向けると、そこには目玉のような球体が置かれていた。


 それはまるで人間の目玉を模したような、木材と半透明何かで出来た球体だった。光が当たるとわずかに反射して、不思議な輝きを見せていた。


 触っても良いのか分からなかったので、そっと見つめていると──


「その目、気になりますか~?」


「わっ」


 驚いて後ろを振り返ると、ライラがいつの間にか足音も気配もなく背後に立っていた。


 その表情は相変わらず明るく、どこか無邪気な雰囲気をまとっている。


「はい、お茶どうぞ。触ってみても良いですよ~」


 ライラからお茶を受け取った。


 彼女はそのままヴィッシュの方へもお茶を運んでいった。


 触っても良いと言われたので、作業台の上にある目玉をそっと手に取ってみた。


 ひんやりとした感触で、予想よりもずっしりとしていた。


 まだ色づけの途中なのだろうか、黒目の部分がまだ木目のままだった。


『魔法陣が不完全やね』


『そうですね、それでも独学なんでしょうかね? もうちょっとって所ですね』


『そうだな、失明しても目が見える時代か、リタの時代から大分進歩したな』


『そうだね~あの頃は義足なんてただの棒だったもんね~』


 精霊達が、私の持っている目玉の模型の周りに集まっていた。


 ミントが魔法陣と言っていたけど、どこに魔法陣があるんだろうか?


 探しても魔法陣らしい魔法陣なんて見当たらない。


「これどこに魔法陣があるの?」


『ここですよ』


 そう言ってアクアが教えてくれたのは、黒目の真裏の部分だった。


「ぇ? 何もなくない?」


 指で触ってみると、ちょっと傷が付いている感触があるが魔法陣らしいものなんて書かれてない。


『触った感じ何か感じませんか?』


「傷が付いている事?」


『そうです、小さな魔法陣が掘られているんですよ』


『目を閉じて魔素流してみ』


「ん?」


 ミントに言われたとおり、目を閉じて魔素を流してみると、頭の中に目玉模型が見ていると思われる作業台が浮かび上がった。


 ただ画質が悪い平面の絵のように見える。両目が健康的な私からみたらいまいちという印象だが、目が見えない人が使うのであれば画期的のように思えた。


 目玉をいろいろな方向に向けてみたりした。私自身を映してみたり、手を上に伸ばして全方向を見たりしていると、ライラとヴィッシュが何やら小言で話をしているようだった。


 精霊達との会話で何か変に思われたかな?


 いつものことなので、あまり気にしないことにした。


「これ、不完全とか、もうちょっとと言っていたけど、なにがなの?」


『使ってみてどうでした?』


「ん~平面みたいな感じだったとか、もうちょっと鮮明に見られたら良いなぁって思った」


『そうです、魔法陣を少しいじれば立体的に見えるようになりますし、鮮明になりますよ』


 あれ?


 以前アクアとミントから右目と左目の差で奥行き判断するとか言って居たような気がするけれど?


「片目で立体的に見えるの?」


『えぇ、それを2つ用意するのであれば今のままでも、ある程度分かるようになると思いますが、魔法陣の内容を変えれば片目だけでも立体的に見えるようになりますよ』


 ちょっとどういった魔法陣が彫られていて、どのように改善すれば立体的で綺麗な映像が見えるのか気になった。


「今どんな魔法陣が彫られているの?」


『紙とインクを出して貰って良いですか?』


 カバンから紙とインクを取り出し、言われる前に紙をなでると五重の円に様々な読めない文字が並び、中央に六角の星があった。


「あれ? 五角の星じゃなくて六角?」


『えぇ、五角の星は属性の魔法陣で使われますが、今回は無属性ですからね』


 魔法陣についてあまり勉強したことが無かったが、そういった事でも変わってくるんだなんて思っていた。


『そして、この辺りが映り具合に関する場所ですね』


 アクアがそう言うと、一番外側に書かれた五つの文字を指さした。


 魔法陣に使われている文字の一つ一つが普段使う文字じゃないからどういう意味があるのかが全く分からない。


「これをどうするの?」


『この辺りをなでてください』


 アクアに言われたようにインクを持ちながら指定された場所をなでると、魔法陣の外側の五つの文字が変わった。


『こうすると立体的で綺麗に見えるようになりますよ』


「へぇ……」


 アクアの言葉に感心していると。


「あ~なるほど、その文字を入れるべきだったのか~」


 頭上から声が聞こえ、声がした方を見るとライラとヴィッシュが魔法陣が書かれた紙をのぞき込んでいた。


「えっと……、すいません……」


「ん~ん~、そのまま続けて」


 ぇ、このまま続けるの?


『ミント、修正できそうですか?』


『出来んで』


 そういうと、ミントが目の模型によっていき、魔法陣が彫られていた場所をなで始めた。


『ええよ、つこてみて』


 ミントが私を見て言うので、改めて目を閉じ魔素を流してみると、先ほどとは比べものにならないくらい鮮明な画質で頭の中に浮かんだ。


「すごい! さっきと全然違う! おまけに範囲まで広がってる気がする!」


 先ほどより見えている範囲が広がっている気がする。


 試しに自分の目で見える範囲と比べてもやっぱり広がっている気がする。


『綺麗に映るようにすると、どうしても少し範囲が広がってしまうんですよ』


 綺麗に映るようになった代償が、それなら別にいい気もする。


「ラミナちゃん、それ借りて良い?」


「あっ、はい」


 ライラに目の模型を渡した。


 そして次の瞬間。


「うわっ、比べものにならない位綺麗になってる!」


『暗いところでも明るく見えるようになっていますよ』


 そんな所も修正されているんだ。


「精霊さんが暗いところでも明るく見えるようになってるって」


「まじで!? ちょっと外に行ってきます!」


「ぇ!?」


 こちらが何か言う前に、ライラは外に行ってしまった。


 家主が居なくなってどうするのだろうか……。


「まぁ、直ぐに戻ってくるでしょ。それまでゆっくり待ちましょうか」


 ヴィッシュの反応を見るに、何度もそういうことがあったのだろうか。ライラが帰ってくるまで少し待たせて貰うことになった。



「面白い」「続きが気になる」「応援する!」と思っていただけたら、


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