第86話 第三者の意見
私は上着だけを脱ぎ、先ほどイリーナから受け取ったゴム手袋をはめた。
カブリトの麻痺薬をハンカチにしみこませ、分身の口元に当てた。
「イリーナさん、呼吸の支援お願いしても良いですか?」
「いいですよ、どうすればいいですか?」
「ちょっと待ってってください」
カバンからエリシュの種を取り出し、先ほどと同じようにミントがツタを渦状にさせて筒を作った。
「なるほど、渦状にすれば太さや長さを調整することができるんですね」
「はい」
「そろそろ意識がなくなりますよ」
筒状になったツタを口内に入れやすい位置に移動させる。
「カウントダウンしますよ、3・2・1、はい!」
アクアのカウントダウンに合わせて、筒状になったツタを口に入れていく。
そこからは練習時と同じ手順を踏みながら、開腹と患部の切除、ポーションを使って患部を再生させ、お腹を閉じ、穴の開いた針を刺し、最後にクリーンでカブリトの効果などの異物を取り除く工程を行った。
「以上ですかね」
「はぇ~、しっかり見られなかったですけど、手際がいいですね。何回も繰り返し練習したんですか?」
「それは私も思いましたね」
「まぁ、結構練習はしました」
「そうですか、私からいくつか思ったことがあるので、いいですか?」
何を言われるんだろうか?
「はい」
「技術的なことじゃないので安心してください」
「ん?」
「本番もその服装でやるんですか?」
何かまずいのだろうか?
「そのつもりですが……」
「そうですか、髪の毛が落ちないようにキャップをしたり、唾などが患者さんの体内に入らないようにマスクをしたり、服の埃を落とさないように専用の服装をした方が良いかと」
「そうですね、私もそれは思いました」
全く考えていなかった。専用の服装ってどうすればいいのだろうか?
「えっと、具体的にどんな服装なんでしょうか」
「ラミナさんは食堂を利用したことがありますか?」
食堂が関係するの?
「はい、何度か使っています」
「食堂の職員さんが使っている服装って覚えていますか?」
食堂の職員が使っていた服装……。
「三角巾に、マスクにエプロン?」
「えぇ、それに近い服装ですよ」
「そうですね、彼らも食品に埃や髪の毛が入らないようにするためにあの服装なんです」
「同じ目的……」
「えぇ、ですが、三角巾やエプロンではなく、ちゃんとした帽子に手首まで覆うガウンがいいでしょうね」
「なるほど……」
服装だとミントに依頼すれば良いのかな?
「私からもいいですか?」
「はい」
「ラミナさんは、自分の分身の裸をヴィッシュ先生に見られてもなんとも思いませんか?」
何かあるのかな?
「ん?」
「えっとですね、必要な箇所以外は何か布で覆った方が、患者側も恥ずかしくないかなと思うんです」
「あぁ、なるほど」
2人を招待するまで1人で延々とやっていたから何も考えていなかった。確かに下着を異性に、と思えばそうだった。
「わかりました。他に何かありますか?」
「そうですね、呼吸のほうは魔道具で出来そうですけどね」
「私もそれは思いました。単調作業ですが結構疲れました……」
「魔道具ですか?」
「えぇ、筒の先端につけるタイプにしてもらい、空気を定期的に出し入れする物なら、そう難しくないはずですよ」
「なるほど……、作ってくれる人いますかね……?」
肝心なところは作り手がいるかどうかだと思う。いなければきっとまん丸が作ってくれると思う。
「そうですね、錬金科の卒業生にセルジュってエルフの子がいるんですが、彼なら作ってくれると思いますよ。彼はときどき、錬金科の学生や研究所の職員がよく利用するお店にも顔を出すので、道具の相談もしやすいかと」
「大丈夫ですかね?腕は良いんですが性格が……」
「そうですね、特にラミナ君はエルフの血を引いていますからね……」
リタがハーフエルフというから、私の中にもエルフの血は混ざっている。5代前のリタがハーフなら、6代前にエルフがいたのだろう。
「ますます話を聞いてくれなさそうですが……」
「6代前でも関係あるんですか?」
エルフの血とか考えたことなかったけれど、6代も前のことだし関係ないと思う。
「エルフ純血主義の子からすると、人族や私たちリンクル族みたいに他の種族と交わるのは邪道とか禁忌と考えている子が多いんですよ。在学時代、2代前にエルフの先祖がいた子に対して強く当たっていましたからね……」
「それよりもヴィッシュ先生、ライラさんの方が良くないですかね?グリーサにいますし……」
「そうですね、今回はそうしますか。ラミナ君、この後時間ありますか?」
元々はキラベルで練習って思っていたので、週末の予定なんて皆無だ。
「大丈夫です」
「それでしたら、この後行きましょうか。先に呼吸の魔道具の相談で、グリーサにいるライラさんのところへ行きましょう」
「はい」
「それと、服装についてですが、ガウンやマスクといった道具も揃えておいた方がいいでしょう。錬金科の学生や研究所の職員がよく使っている道具店があるので、そこにも立ち寄りましょう」
「あっ、それなら私も一緒していいですか?」
「えぇ、かまいませんよ」
その後、分身を消し、錬金科の職員室へと足を運んだ。
改善点は多かったけれど、それでも前に進んでいる気がした。
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