第69話 夕食会
今日やった授業の復習・予習が終わると、アクアは可視化を解いて元の姿に戻った。
「精霊さんの教え方、わかりやすくて良かったですね」
「そうですわね。わたくしたちのノートを見て、アドバイスもくれましたし」
『喜んでもらえたなら、良かったです』
机の上を片付けていると、ちょうど良いタイミングでツキが入ってきた。
「夕食にして構いませんか?」
「うん」
「それでは、お持ちしますね」
ツキがキッチンへ戻り、ミシェルのメイドと思われる女性と二人で食事を並べていった。
肉汁が滲むステーキと、シャキッとした彩り野菜が白い皿を華やかに染めていた。
とてもおいしそうだ。自炊をすると、どうしても適当に済ませてしまうから、こんな見栄えの良い料理はなかなか口にしない。お昼の海鮮丼ですら、久々のごちそうだった。
「それでは、食べましょうか」
「ミアンさん、ラミナさん、二人は夏休みの予定入っているんですの?」
「私は帝都の自宅で過ごす予定ですよ~」
「私は特に予定はないので、村に帰るかも?」
実際、ミアンのための練習を続けたいと思っているし、適当なタイミングで村に帰ろうかと考えていた。
「そう。二人とも、良かったらミネユニロントに来ませんこと?」
「「ぇ」」
ミシェルから招待を受けるとは思っていなかった。
ファントムフラワーを実際に見てみたいし、機会があれば風の精霊とも出会えるかもしれない。
「ハィウェン風穴洞って知っている?」
「えぇ。王都から半日〜一日ほど歩いた場所にありますの」
遠くないし、行ってみるのもいいかもしれない。
「それなら、ファントムフラワーも見てみたいし、行こうかな……」
「ラミナ、ファントムフラワーって何なんですか?」
「ラミナさんが漂わせている香りが、ファントムフラワーの香りなんですの」
「お姉ちゃんも同じ香りがするんだよね。良い香りだよね、私も行こうかな~」
そりゃ、プリムにファントムフラワーの洗料を渡したし、同じ香りを漂わせていても不思議じゃない。
「私と同じ洗料を使っていると思う」
「どこで売っているんですか~?」
プリムからは何も聞いていないのだろうか?
「ぇ、自分で作っているんだよ」
「「ぇ? 作れるの(んですの)!?」」
「うん」
カバンから未使用の洗料が入った瓶を一本取り出した。
「これがそうだよ」
「酒瓶じゃないんです?」
「うん。入れる物がなくて、これに入れたの」
「良い香りですわね」
「まだいっぱいあるし、あげようか?」
「いいんですの!?」
ミシェルの食いつきがすごかった。もしかして、ずっと気にしていたのかもしれない。
「私もほしいかも」
カバンから追加で一本取り出して、二人に渡した。
「ありがとうございます」
「ありがと~」
二人が瓶を受け取り、ミアンとミシェルはそれぞれ自分の横に洗料を置いていた。
「ラミナさんは、どんな香りでも洗料にできるんですか?」
『植物、鉱石由来なら出来るんちゃう?』
ミントがそう言うということは、確実に出来るというわけではないのかもしれない。
そもそも鉱石に香りなんてあるのかな?
「植物とか鉱石由来の物なら、出来るかもです」
「“かもです”?」
「やってみないと分からない、といったところかな?」
「なるほど……。例えばなんですけど、ブルーローズなら出来るんでしょうか?」
ブルーローズ……どんな花なんだろう?
『ブルーローズなら簡単に出来るで』
「出来るみたいですよ」
「何があれば作ってもらえるのかしら?」
聞かれたときから、もしやとは思っていたけど、やっぱり作ってほしいのか。
『ブルーローズの種でも苗でも香水でも、なんでもええよ。あとは洗料の素材やな』
洗料の素材ならたんまり確保してあるし、ブルーローズさえあれば大丈夫かな?
「ブルーローズの種でも苗でも、香水とかあれば……」
「それくらいでしたら、後日お持ちしますわ」
「分かりました」
ブルーローズの洗料を作ることが決まった。
そんなやりとりをしていると、ふとミアンの視線に気づいた。
「話、終わりました~?」
ミアンそっちのけで話をしていた。
「ごめんごめん」
「いえ。二人が仲良くなってくれるなら、良いんですよ」
何の話だろうか?
「ラミナさん、先の話に戻るのですが」
「先の話?」
「えぇ。ミネユニロントの話です。最初の一週目は王都ミネットで、二、三週目はティロンクの別荘でと思っていますの」
『ええんちゃう? そのくらいの時期のティロンクなら、ファントムフラワー見れるで』
生のファントムフラワーを見てみたい。
「是非に!」
「決まりですわね」
夏期休暇はミネユニロント王国と……。夏期休暇が楽しみになった。
その後も雑談しながらオーク肉を三人で楽しみ、そろそろお開きの時間となった頃、カタン、と控えめなノック音がして、ツキが静かに部屋へ入ってきた。そしてそのまま私の元へ来た。
「ラミナ様、こちらを」
「ん?」
手渡されたのは、折りたたまれた一枚の紙だった。
「先ほどクロエ先生がお見えになり、町で通り魔事件が起こっているので注意するように、とのことでした」
受け取った紙を開くと、ツキが言った内容が書かれていた。
ここ三日間連続で、死者が出ているんだとか……。
「物騒ですわね」
「しばらくは町に行かない方がいいかもしれませんね」
うーん……ポーションの納品、明日行こうと思っていたけど……。まあ、私にはミントたちがいるし、大丈夫だろうと考えていた。
この日、私たちはまだ気づいていなかった。あれが全ての始まりだったということに──。
「そうだね」
その後は軽く雑談をして、お開きとなった。
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