第68話 勉強会
ダンジョンから寮に戻り、軽くシャワーを浴びてからミアンの部屋に向かった。
扉をノックすると、ミアンのメイド、ツキが迎えてくれた。
「お待ちしていましたよ、どうぞ」
「おじゃまします~」
ツキに案内されて部屋へ入ると、見慣れないデザインのメイド服を着た女性がもう一人いた。
“だれだろう?”と少し不思議に思いながらミアンの元に行くと、同じクラスのミッシェルがいた。
「お嬢様、ラミナ様が見えましたよ」
「ラミナ、待っていたよ~」
ミッシェルは私に気づくと、微笑みながら言った。
「あら、ラミナさん、待っていましたよ。さっそくですけれど、復習しましょ」
「ラミナと私のやり取りを見ていて、参加したかったんだって」
「えぇ、それにあたくし、ラミナさんに興味があるんですの」
「あっ、そうなんだ」
この時、どのような返事をすれば良いのか、少し戸惑った。
『ラミナ、肉のお裾分け』
あっ、そうだった。
既にキッチンへ戻っていたツキを追いかけて、声をかけた。
「ツキさん、これを」
そう言って、鞄からオーク肉の塊を取り出す。
「これは……オークの肉ですか?」
「はい。一人じゃ食べきれないので」
「ありがとうございます。使わせてもらいますね」
ツキは笑顔で肉を受け取ってくれた。
「はい」
オーク肉を渡し終え、再びミアンたちの待っている部屋に戻る。
「何を渡していたんですか?」
「先週末、キラベルで狩ったオークのお肉」
「キラベルのオーク肉って、おいしいんですよね~」
ミアンの言葉を聞いて、“へぇ~、そうなんだ”と心の中で思っていると――。
「そうなんですの?」
「おいしいですよ~。もも肉とか、私は好きですね~。ミッシェルさんは食べたことないんですか?」
「ん~、無いですわね……」
「それなら夕食にオーク肉、使ってもらいましょう。ちょっと待っててくださいね」
ミアンが部屋を出ていき、ミッシェルと二人きりになる。
普段あまり会話しない間柄ということもあって、ちょっと気まずい。
「ところで、ラミナさん」
「はい」
「あなたの、いつも漂わせている香りって、ファントムフラワーじゃありませんの?」
ファントムフラワー……なんだか久しぶりに聞いた名前だった。
「そうです。ファントムフラワーの香料を混ぜた洗料を使っているので」
「へぇ、良いですわね」
「ファントムフラワーをご存じなんですか?」
「知っていますよ。あたくしの国の花ですの」
その言い方と表情に、ふと引っかかりを覚える。
国……って、ミネユニロントだったっけ?
「あれ? ミネユニロント?」
『ミッシェルは、ミネユニロントの第2王女ですよ』
まさかの王族だった。
「そうですわ」
「ごめんごめん、お待たせ」
ミッシェルの返事とほぼ同時に、ミアンが戻ってきた。
「お帰り」
「それじゃあ、今日やった世界史から始めましょ」
私は教科書とノートをカバンから取り出し、机の上に広げた。
「ラミナのノート、見せてもらっても良い?」
「ん、いいよ」
ミアンにノートを渡す。
「丁寧にまとめられていますわね」
二人は私のノートをもとに、復習を始めていた。
私はというと、手元に残っている教科書を読み進めていた。三大文明について書かれたページをめくると、次はファーラ文明の詳しい説明が続いていた。
次回の授業は、ノートの内容的にファーラ文明についてだろうか?
ファーラ文明のページを見ていると、
『ファーラ文明では、稲作、文字以外にも発展した技術があるんですよ』
アクアが教科書の上でうろうろし始め、先生モードに入った。
『建築技術と青銅の加工技術が発展するんです。鉄等の金属加工技術は倭国文明で発展していたのですが、歴史上はファーラ文明で表に出てくるんです』
「へぇ……」
「ラミナさんは、誰とお話しているんですの?」
無意識にアクアの発言に返事をしていた。
「精霊さんじゃないですか?」
「うん、アクアが……、精霊さんがファーラ文明について教えてくれているの」
「お昼みたいに姿を見せて、私たちに聞こえるようにしてほしいかな~」
「あ、うん、いいよ」
「精霊さんが見られるんですの?」
「うん。お昼、食堂で姿を見せてくれたよ」
「へぇ」
ミッシェルの視線がこちらに向いた。どうやらミッシェルも見てみたいらしい。
「アクア、いいかな?」
『構いませんよ』
そう言うと、私の手に乗り、魔素をごっそりと持っていった。
「わぁ、可愛いですわね」
「だよね~」
「ん、んん、では改めて予習部分を話していきますが、よろしいですか?」
「あっ、もう少しだけ、待って」
「わたくしも、もう少し時間がほしいですわ」
待っている間、アクアは二人のノートの様子を見ていた。
「この部分は大事な場所なので、線を引いておく等しておいた方が良いですよ」
「分かりましたわ」
アクアがミッシェルだけではなく、ミアンにもアドバイスをしていた。
「二人とも、大丈夫そうですね」
「はい!」
「えぇ」
「それでは、ファーラ文明について説明していきますね。ファーラ文明では青銅の加工技術や建築技術が発展していきます。ファーラ文明の地には、そっち方面が得意な多くのドワーフや獣人がいたからという理由があります。青銅の加工技術に関しては――」
アクアが丁寧に説明を続けていく。それを三人で真剣に聞いてノートを取っていた。聞き逃したら止めて、「今のところもう一度お願い」と伝えると、嫌な顔をせずにちゃんと教えてくれた。
そして、午後の授業だった魔物生物学もアクアのプチ授業を受け、三人で一緒に夕食となった。
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