第67話 ダンジョンの秘密と帰還
ダンジョン内に限りちぎれた腕が戻ると聞いて驚いていると、アクアが私たちに問いかけてきた。
「そうですね。ダンジョン内に限定する理由ですが……、ダンジョンが何でできているか知っていますか?」
アクアの真剣な口調に、私は思わず背筋を伸ばした。
水の大精霊として、私たちを導いている――そんな確かな気配があった。
「ダンジョンコアが作ってるってのは知ってるよ~」
「そうだな。学園ではそう教わるな」
「では、ダンジョンコアとは何でしょうか?」
また問が返ってきた。
「巨大な魔石だと聞いている」
「その通りです。ダンジョンコアとは、意思を持った巨大な魔石なんです」
この時、なんとなくわかった気がした。
「もしかして……精霊?」
「ふふふ、その通りです」
過去に、精霊は意思を持った魔素の塊だと聞いたことがある。
そして、その魔素の密が高くなると、魔石となるというのは知っていた。
「ダンジョンを作っているのは、空間を司る精霊です」
「え、それじゃあ魔物たちも……魔素でできてるの?」
「ミラの言うとおりですよ。外にいる一部の魔物たちと同じような存在なんです」
「でもさ、それだけ魔素を使って魔物とか魔石を出してたら、魔素がなくなって道中の魔石みたいに粉々になったりしないの?」
「なりませんよ。なぜなら、ダンジョンコアの近くには地脈が流れているからなんです」
「あ~、魔素の無限供給ができるってことか……」
「その通りです」
ここでふと思った。ダンジョンコアが精霊なら……契約できたりするんだろうか?
「ねね、アクア。もしかして契約できたりするの?」
「できますよ。現にリタは契約していましたしね」
先祖がダンジョンと契約……? 何をしたんだろう。
「そうなんだ……。先祖は契約して、何をしたの?」
『薬草園や』
「だな。十層までは世界各地の薬草を集めて薬草園にして、残りの階層は普通のダンジョンになってるな」
“なってる”ってことは、現在進行形?
「ん? 今もそうってこと?」
「そうですよ。機会があれば、センターリタのダンジョンに行ってみると良いですよ」
世界各地の薬草……。一度は見てみたい。長期休暇中とかに行けるといいな、と思った。
テントからぞろぞろと人が出てきた。
「ありがとう、本当にありがとう」
対応したのはアクア、ミント、グレン、まん丸の四人だったのに、なぜか私まで感謝された。
「そろそろ地上に戻るぞ」
ハンゾーがそう言って扉のほうへ歩き始める。
「あれ? 戻らないんです?」
「ボスを倒すと、そこから地上に戻る魔方陣が出現するんだよ」
横にいたミラが教えてくれた。
「はぁ、なるほど……」
これまでグレンやアクアがボスを倒していたけど、魔方陣が現れた記憶なんてなかった気がする。
「うっし、最後に一暴れしてやるか」
グレンがそう言い出した直後――。
「最後は自分にやらせてもらえないか? あなた方に作ってもらった刀を試したい」
「あぁ、いいぜ。後ろで見学させてもらおう」
「そうですね。では私は先に」
そう言って、アクアは普段の小さな姿に戻った。
「良かったの?」
『えぇ、構いませんよ』
個人的に、アクアの等身大の姿はどこかお姉ちゃんのような雰囲気があって好きだったので、少し残念に感じた。
ハンゾー、ミラ、要救助パーティのメンバーとともにボスの部屋に入ると、そこには巨大なアイアンゴーレムが待ち構えていた。
そのゴーレムに、ハンゾーが真っ先に切り込んでいく。
グレンはといえば、部屋に入ってすぐの壁にもたれかかりながら、余裕の表情で戦いを見ていた。
「まぁまぁだな」
グレンの口から出た評価に、どこが“まぁまぁ”なのかと少し疑問に思いつつ、私もハンゾーの戦いぶりを見守った。
数分後、アイアンゴーレムはミンチ状にされて床に崩れ落ちていた。
「いい刀だ」
「そりゃそうだよ~、僕らが作ったんだから~」
久々にまん丸の声を聞いたと思ったら、気がつくと私たちはダンジョンの入り口前に戻っていた。
「なんか一瞬で戻ってきた!?」
「初めてだとびっくりするよね~。ラミちゃん、ありがとうね! すごいもの見せてもらって楽しかった!」
こういうとき、なんて返すのが正解なんだろう?
「あ、うん。こちらこそ誘ってくれてありがとうございます」
「ん~ん。ハンゾー、報告行く~?」
「あぁ、行くか。ラミナはどうする?」
「えっと、今って何時ですかね……」
「入ってから三十分くらいじゃない?」
「だな。疲れてるなら寮に戻っても構わないぞ。報酬は明日にでも渡すが」
三十分?
ダンジョン内では休憩したり、ご飯食べたり、寝たりもしたのに……。
『この世界の一時間が、ダンジョン内では一週間なんですよ』
「ぇ、そうなんだ……」
『もうすぐミアンと勉強の時間だろ』
あっ、そうだった。
グレンが言わなければ、完全に忘れてた。
「寮に戻ります」
「わかった、じゃあ明日渡そう。その前に――」
ハンゾーが私に近づき、冒険者カードを手渡してきた。
「あっ、私も」
私もギルドから支給されたものと、ダンジョン内でのドロップ品を差し出した。
「ギルドのは受け取るが、ドロップ品はラミナが持っていって構わない」
「ぇ? いいんですか?」
「全部、精霊さんたちがやってたしね~」
ナイフ、槍、盾など、戦いに使うような品が中心で、私にはあまり縁のないものばかりだった。
「わかりました。ありがとうございます」
「気をつけて帰れよ」
「ラミちゃん、また明日ね~」
そう言ってミラは軽く手を振り、救助されたメンバーたちとともに冒険者ギルドへと向かっていった。
「じゃあ、帰ろうか」
『せやな』
「ところで、なんで死体を綺麗にしたの?」
『メフォス教の教えが関わってくるんですよ』
「ぇ?」
『せやな』
『メフォス教ではな~、綺麗な魂で綺麗な身体のまま死んだら、次の生がもらえるって教えてるんや』
「次の生って?」
『輪廻転生って言葉、聞いたことないか?』
「あ~、闇日学級のときに神父さんがそんなこと言ってた気がする」
『その転生をするには、綺麗な身体であることが条件なんだよ。だから、ミントはあの人の身体を修復したんだよ』
「はぁ、なるほど……」
“かわいそうやろ”って言ってたのは、そういう意味だったのか。
植物魔法にも回復系があるのかな?
「生きてる人の傷も治せたりするの?」
『ヒールみたいな魔法はできへんけどな。うちができるのは、自然治癒力を強化するくらいや』
でも死体の傷を治せるなら、もしかして――。
「ねぇねぇ、死者蘇生もできたりしないの?」
『多分やけど、できると思うで』
多分……ということは、確定ではない?
「ぇ?」
『せやけどな、それは“摂理”に反するから、うちはやらへんねん』
『生きとるものはいずれ死ぬ。それが世の理や』
『死霊術とか反魂術でアンデッドにすることは出来ますけど、死んだものが生き返ることはないっていうのが、この世界の摂理なんですよ』
「そうだよね……」
私はアクアとミントの話に深く頷きながら、寮へと足を向けた。
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