第70話 アクアの歌声
翌日、午前中の授業を終え、昨日と同様にプリムたちがいる場所に向かった。
昨日と同じ場所に着くと、ロックを除くメンバーが、昨日と同じように座っていた。
「いらっしゃい」
「ミーちゃん、ラミちゃん、いらっしゃい~」
「ん」
先輩たちと挨拶を交わし、昨日と同じ場所に腰を下ろす。今日もまん丸のリクエストで海鮮丼を食べ始めた。
「海鮮丼、気に入ったの~?」
「ん~、まん丸が今日も食べたいってことで」
「なるなる~。昨日アクアちゃんを見てて思ったんだけど……」
アクア? なんで?
「アクアがどうしたんですか?」
「あのさ、アクアちゃんって歌、得意だったりするのかな?」
今まで一緒にいたけど、歌どころか鼻歌すら聞いたことがなかった。でも、どうなんだろう?
『もちろん得意ですよ』
「え、そうなんだ。得意みたいですよ」
「やっぱり~。良かったら、聞かせてもらえたりしないかな?」
やっぱり? 何か思い当たることでもあったのかな。
『いいですけど、今ですか?』
「良いみたいですけど、今でいいのか?って」
「うん、良かったら聞きたい」
食堂で歌わせても問題ないだろうか。
「ここで歌わせて大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
プリムがそう言うのなら、問題ないんだろう。
「じゃあアクア、どうする?」
『いいですよ。魔素、もらいますね』
そう言ってアクアは、私からごっそりと魔素を吸い取り、可視化した。
「ふふふ、歌うのは久しぶりですね」
「アクアちゃん、いらっしゃい」
「それでは皆様、よろしくお願いします」
アクアはそう言って、プリムとミアンにぺこりと頭を下げ、ミラとハンゾーのほうにも丁寧にお辞儀した。
少し発声練習をすると、目を閉じて大きく深呼吸し、ゆっくりと歌い始めた。
「ラ~ラ~ラ~♪」
その歌は、聞いたことのない言語で始まった。けれど、歌声が響いた瞬間、食堂の空気ががらりと変わった。
意味は分からない。でも、胸が締めつけられるほどの寂しさや切なさ──帰りたくても帰れない故郷や、会いたくても会えない家族への想いが痛いほど伝わってきて、自然と涙がこぼれた。
『良い歌だよな』
グレンがぼそりとつぶやいた。
「うん……」
『アクアの歌は、魔素と想いがこもってんねんで』
「そうなんだ……」
想いは確かに伝わってきた。魔素がこもっているということは、もはや魔法のようなものなんだろうか。
歌魔法と言われても、きっと信じてしまうくらいに、美しく、心を打つ歌だった。
そう思いながら聞いていると、第1節が終わり、第2節へと入っていった。今度は雰囲気が一転し、勇気や元気を与えてくれるような明るいメロディへと変わった。
第1節は、ホームシックになりそうな切ない歌。第2節は、一人でも頑張ろうと思えるような力強い歌だった。
やがて2節目が終わる。
「ふふふ、ご清聴ありがとうございました」
アクアはそう言って、全方向に丁寧にお辞儀した。
その直後、食堂内に大歓声が湧き上がった。
びっくりして後ろを振り返ると、私たちの机のまわりに、たくさんの人が集まっていた。
「「「「「アンコール! アンコール! アンコール!」」」」」
食堂のあちこちから、アンコールの声が飛んでいた。
「ふふふ、それではラストの曲ですよ」
アクアは、こうして大勢の前で歌うことが、まるで天職であるかのように見えた。
「では、皆さんが午後の授業を頑張れるように──」
そう言って、アクアはまた深く息を吸い込み、再び歌い始めた。
今度の曲は、ノリノリのアップテンポな楽曲だった。
アクアの歌声が軽快に跳ねるたび、机を囲んだ誰かがリズムに乗って手拍子を始める。肩を揺らす生徒、足でテンポを刻む子もいる。
気がつけば、食堂全体がアクアの歌と一体になっていた。
やがて歌が終わると、またもや大歓声が響き渡った。
「ふふふ、それでは皆さん、良い昼休みを……」
そう一言残し、アクアは可視化を解いた。
『久々に歌えて楽しかったですが、疲れましたね』
「おつかれさま」
アクアはぐったりとした様子で、私の左肩にふわりと停まり、そっと目を閉じた。
小さな気配が一つ、静かに余韻のように残っていた。
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