第66話 ミントの秘技
忙しなく動き回る、水と火の子達をよそにまん丸の後について行くと、扉のある大きな部屋にたどり着いた。
そこには複数のテントや焚き火が並び、野営ができるよう整えられていた。中はやや騒がしく、救援を出した冒険者たちの気配が漂っていた。
ちょうどそのとき、アクアが一つのテントから姿を現した。
「ラミナ、こっちに来てください」
アクアに呼ばれて向かうと、予想外に深刻そうな表情をしていた。対処済みならもう落ち着いているはずなのに――。
ハンゾー、ミラと共にアクアが居たテントへ入ると、床一面に血痕が広がっており、二人の女性が看病している横で三人の男女が横たわっていた。
その中の一人に見覚えがあった。先週、ヴィッシュのもとへ行ったとき、胃に穴が開いた患者を連れていた人物だ。
男の一人はすでに呼吸が止まっているのか、胸が上下しておらず、見るも無惨な姿になっていた。
「救援依頼を受けた三人を連れてきました」
アクアは看病している女性たちに声をかけた。
「助けに来てくれてありがとう」
「いや、いい。それより状況を」
「五十九層でリビングアーマーが横湧きして、この有様よ」
横湧き? それってどういうこと?
そのとき――。
「ファラ!」
ミラが叫ぶように声をあげ、重傷を負っている女性のもとに駆け寄った。
ミラの反応に、私は思わず驚きの声を飲み込んだ。騎士科と錬金科の子が混ざってるって話だったけど、ミラのこの様子……もしかして、知り合いなのかな?
「他の者は?」
「火の精霊と周辺で狩りをしています」
狩り……なにかの対策なんだろうか?
「一応、私が来たときには処置は済んでいましたが、二人は出血量が多くて……」
かろうじて命をつないでいるということだろうか。
「うちの出番やな。ラミナ、鞄からブラッドベリーとヒール草、薬研をたくさん出しぃ」
「うん」
ミントに言われたとおり、鞄から薬研と大量のブラッドベリー、それにヒール草を取り出した。
ブラッドベリーは先祖が集めたのだろう、小さな木いちごのような赤い実だった。
「どうするの?」
「血の元になる薬を作るんや」
「そんな物もあるんだ」
「魔素の調整はうちがやるから、言うとおりにな。薬研にブラッドベリーを三十個入れるんや……」
その後、ミントの指示どおりに、アクアと三人で薬を作った。
「これでええ。あとは半分ずつ飲ませてや」
使っていないポーション瓶に薬を移し、看病している女性たちに渡した。
「次はこいつやなぁ……」
ミントが立ち上がり、呼吸の止まった男の前に進む。
「その人……生きているの?」
「いや、死んでんで」
「えっ? どうするの?」
「このままボロボロの身体やと可哀想やろ。せやから綺麗な身体にしてやるんや。アクア、手伝ってや」
「はい」
私を含め、周囲の人々が一斉に素っ頓狂な声を上げた。
「お、ちょうどええタイミングやな」
「せやなぁ。魔石をその辺にばらまいて」
男たちが持っていた魔石を、死体の周りに撒いた。
ミントは一体なにをする気なんだろう。
準備が整うと、ミントは大きく息を吐き、目を閉じた。
「よく見ておいてください。生命を司るミントにしか使えない生命魔法です」
アクアが言ったその瞬間、辺りがスッと暗くなり、静寂に包まれた。
そして暗闇の中、ミントから小さな光が溢れ出すと、それはふわりと舞い上がり、空中で何重にも重なる巨大な魔方陣を形作っていった。まるで光の花が夜空に咲いていくかのようだった。
――植物の子たちが魔方陣を構築している?
いつもの精霊魔法とは違う……?
普段の精霊魔法なら、こんなふうに魔方陣なんて現れないのに。
幻想的な光景に、ただただ目を奪われていた。
そして、一番上にあった魔方陣が弾けると、いくつもの魔方陣の中央を貫くように、白い光の柱が空から伸びてきて、死体となっている男の胸を貫いた。
そして最後に、魔方陣と光の柱は光の粒子となって砕け、消えていった。
「成功のようですね」
服こそボロボロのままだったが、男の身体にあった傷口はすべて綺麗に塞がっていた。
『せやなぁ』
あれ?
目の前に居た大人と同じ身長のミントの姿はなくなり、いつものミントの姿に戻っていた。
「ミント、大丈夫なの?」
『大丈夫や。ただ、ちょっと疲れてもた』
ミントはそう言って、ふらふらと飛びながら私の肩に戻ってきた。
「お疲れ様」
まるで眠っているかのように穏やかな表情の男の姿は、死者には見えなかった。まるでただ、少し長く寝ているだけのようだった。
その後、昏睡状態だった二人が目を覚ましたことで、テントの中はちょっとした騒ぎになった。私たち救助組は、場所を空けるためにテントの外へ出ることにした。
「ミントちゃんの魔法、すごかったね~」
「だな。あの魔法はどうやったら使えるんだ?」
「使えませんよ。あれはミントだからできる魔法ですから」
「死体を綺麗にするだけの魔法だよね?」
「今回はそうですね。ただ、ダンジョン内限定にはなりますが、あの魔法は――ちぎれた腕を元に戻すこともできるんですよ」
「ええっ!?」
確か、死体にはポーションが効かないって聞いていたし、生きていてもポーションなどの薬では千切れた腕は戻らないって話だった気がする。
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