第54話 つかさどるもの
キラベルから戻ってきた翌日。
今日は実技のテストの日。結果によって、今後の実技授業の内容が変わるらしい。
朝食を終えて、アカデミーに行く準備をしていると、ふわっと精霊たちの気配が集まってきた。
『今日は実技のテストと座学やね』
あ……そういえば、サバイバル学習のときにミアンがそんなこと言ってたっけ。急に思い出した。
『そうですね。でもラミナとジョーイはフリーのようですよ』
「えっ? どういうこと?」
唐突な“フリー”の言葉に、思わず聞き返してしまう。
『ラミナは一人で四人を相手にできる実力がありますからね』
いや、それはミントとアクアが一緒にいてくれたからで……。
正直、自分の力だけじゃそこまでの自信はない。
「それじゃあ……今日、アカデミーに行っても意味ないんじゃ……」
『いえいえ。ヴィッシュの提案で、今日行われる騎士科の実技訓練への参加が認められているそうですよ』
「そうなんだ」
少しホッとした。でも、やっぱり授業に“参加させてもらう”という立場なんだなって、変な気恥ずかしさもあった。
『ちなみに、明日の魔法の授業も、実技も座学もオールパスになっていますよ』
「ええっ!?」
魔法についてはアクアという最高の先生がいるし、それはそれで構わない。
でも……それじゃあ、アカデミーに入学した意味って――。
「まさか、魔法科の訓練に参加するってこと?」
『ええ。いろんな魔法を見られるきっかけになりますし、参加してみるといいですよ』
『せやなぁ。リタも実技、魔法、座学、ぜんぶパスやったもんな』
『だな。騎士科にいる貴族の坊主どものプライドをへし折るために、魔法科に進級するまでずっと騎士科の授業に参加してたよな』
……うん? そこ、ちょっと怖い言い方じゃない……?
「貴族って、みんな貴族科にいるんじゃないの?」
『違いますよ。貴族科に進むのは、家を継ぐ可能性のある長男と次男くらいまで。三男以降は騎士科とか他の科に回されるのが一般的なんです』
「へぇ、そうなんだ……」
『男の場合は跡継ぎかどうかが関係するけど、女子は長女でも次女でも関係なく貴族科に行くんやで』
「なるほど……」
理由はよくわからないけど、でも……なんとなく、そういうものかもしれないって思った。
『貴族科って、他国の貴族たちと繋がる貴重な出会いの場でもあるんや』
「へぇ~……」
私には一生縁のない世界だなぁって、思わずぼんやりしてしまった。
『ラミナ、急がないと授業に遅れるぞ』
アクアの声に我に返り、慌てて支度を終えて教室に向かった。
教室に着くと、もうほとんどのクラスメイトが席に着いていた。
「ラミナ、おはよう~」
「ミアン、おはよ~」
「ラミナにしては、始業ギリギリに来るなんて珍しいですね」
「ちょっと……精霊たちと話してたら、つい」
「へぇ、どんな話してたんですか?」
さすがに、授業がパスになった話は言わない方がよさそう。きっと誤解される。
「今日と明日の授業のこと、かな?」
「実技と魔法実技の授業のことですか?」
「うん、そんな感じ」
そんなふうに話していると、クロエ先生が教室に入ってきた。
「よーし、全員席に着け~!」
教室のあちこちでおしゃべりしていたクラスメイトたちが、一斉に自分の席へと戻っていった。
「全員席に着いたな、今日から授業が始まる、始業時間に遅れないようにしろよ!」
「「「「「「はい」」」」」」
「ぇ?」
周囲のクラスメイトがみな返事をしたのに、私だけ返事をしそこねてしまった。
『安心しいや、返事したのは貴族のぼんぼん共や』
『あいつらは上下関係に厳しいからな、上の者に返事しなかったら怒られるのが常だからな』
『その習慣が無かったラミナとジョーイが返事しませんでしたね』
私以外にも返事してない人がいたなら良かった。
「ラミナ聞いていたか?」
きづけば、クロエ先生がこっちを見ていた。
「へ?」
「聞いてなかったな?」
「はい、すいません」
「ふぅ、もう一度言う、お前とジョーイは進学するまでの3年間は実技の授業は参加しなくて良い」
精霊たちから聞いていたとおりだった。
「えっと成績とかは……」
「そちらはSになるから気にしなくて良い」
「そうですか……」
「なお、二人には騎士科から実技訓練の参加要請が来ている。参加するかどうかは二人に任せる」
「っしゃ!」
クロエの話を聞き終えたジョーイがガッツポーズを決めていた。
あのクールなジョーイが、こんなにうれしそうにしているのは初めて見た。
「参加する場合は闘技場に行くように」
「「はい」」
今度はちゃんと返事ができた。でも……どうしよう。
適性のある武器とか知りたいんだけどな。騎士科の訓練を見ていれば何か感じることができるだろうか?
「それじゃ、他の者はグランドに出ろ!」
「「「「「「はい」」」」」」
ミアンをはじめクラスメイトたちが次々と教室を出て行った。
……よし、とりあえず闘技場に行ってみよう。
『そういや、ラミナは何を使って戦ってんだ?』
『何も使ってませんよ、そもそも試験の時は私とミントで対処しましたし』
『せやなぁ』
『村にいた頃はどうしてたんだ?』
『私たちで魔物を追い払っていましたから』
精霊たちの話を聞きながら闘技場へ向かった。
二人と出会ってから魔物に遭遇することが無かったけど、そんなことしてたんだな……
『あぁ、それで適性武器が書けなかったのか』
『まともな実戦やってませんからね』
『なるほどな、ラミナは「これだ!」って思う武器はあるのか?』
今まで見たことがある武器といえば、剣、槍、弓、拳、それに村の生活で使う斗や鋤、鎌らだろうか。
「んー、無いかなぁ……」
『そうか、俺が見たところ剣や槍に弓といった一般的な武器の適性はなさそうだがなぁ』
「え?グレンはわかるの?」
『ある程度はな。今日は騎士科の連中の動きを観察してみろ、「これだ!」って動きが見えてくるはずだからな』
そういうものなのだろうか?
「そっか、わかった。教えてくれてありがとう」
『いや、気にするな』
『武術に関しては、グレンに任せれば間違いありませんよ』
「そうなの?」
『せやで、うちらの中で戦いに一番関係する奴やからね』
「ん? 戦いに関係するってどういうこと?」
『そういえば、精霊信仰の話をしていませんでしたね』
「ん?」
精霊信仰と関わりがあるのかな?
『昨日話した事を覚えていますか?』
「メフォス教から精霊信仰に改宗したとか言う話?」
『そうです。信仰対象は、この世界すべてという話をしましたよね』
「うん」
『そして代表的な信仰対象が私達なんですよ』
そういえば村の大木のところにあった祠にはたしか……。
「そうなんだ、もしかして村にあった祠って」
『えぇ、ミント、まん丸、私を象った像がありましたね』
『どこの農村もそんなもんやで』
『鍛冶場等の作業場には、グレンやミント、まん丸の像等があるんですよ』
「へぇ~、村のことは麦とか関係してくるのはわかるんだけど、鍛冶場とかはどういうこと?」
『鍛冶場は常に火を使うからな。鉄を使えばまん丸の領域、それに俺らにはそれぞれ司るもんがあるんだよ』
確かに鍛冶場は火を使って金属加工してるんだっけ。
「司るもの?」
『えぇ、例えばミントなら植物と豊穣と生命、私なら健康と水や氷、まん丸なら大地と金属や鉱石等と物作り、そしてグレンは火と戦い。他にも風の大精霊は風と旅路の安全、光の大精霊は光と平和、闇の大精霊は闇と死者の守護者を司っているんです』
ミントは植物と豊穣に生命。これはわかる。自分の属性と関係してくるし、植物自体が命を持っている。アクアの場合も、自分の属性と人体の8割が水分だからというのも納得できる。まん丸もキラベルのことを思えば物作りというのも頷ける。
でも、グレンと戦いってどう関わっているんだろうか?
「グレンと戦いってどういう意味が?」
『火と戦いは切っても切りきれぬもんなんだよ』
『そうですね、魔法が存在しない時代は戦いに火はつきものでしたからね』
「へぇ、それでなんだ」
『そろそろ闘技場につくで~』
精霊達との会話に夢中で気づかなかったが、いつの間にか闘技場前まで歩いていた。
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