第55話 ハンゾーの刀と精霊達
闘技場の中に入ると、リング上では、すでに騎士科の実技授業が始まっていた。
「久しいな、参加しないのか?」
闘技場の観客席から騎士科の実技の授業を見ていると、後ろから声をかけられた。
後ろを振り返ると、入試試験以来のハンゾーがいた。
「ハンゾー先輩?」
「どうした?」
「先輩は騎士科なんですか?」
「そうだ、今日は後輩の指導を手伝いに来たら、君がいたってとこだな」
そういえば、ハンゾーの剣を直さないとだ。
「ハンゾー先輩、剣を預かっても良いですか?」
「ん?精霊を仲間に出来たのか?」
「はい」
そういうと腰に挿していた剣を取り、私の前に差し出した。よく見ると、紐で抜けないように固定している?
「そうか、出来たら修理するところを見たいのだが」
「そうですか、まん丸?」
『いつもの所で寝てんで』
って事は首の後ろか、そう思っているとグレンが私の後ろへ回った。
『おい!まん丸!起きろ!』
『ん……』
『俺らが作った刀が折れたんだと』
ん?
俺らが作った刀?
『え~?』
まだ寝ぼけているのか、まん丸はふらふらとした様子で目の前に飛んできた。
『その刀抜いて床に置いてもらって』
また刀って、その変わった剣の名称なんだろうか?
「ハンゾー先輩、精霊がその刀を抜いて下に置いてって」
「わかった」
ハンゾーは、紐を切ると先の無い刀を抜き床に置いた。
「これでいいか?」
『いいよ~』
「良いみたいです」
「そうか」
まん丸とグレンが刀を観察していると、まん丸がアクアの方を見た。
そして、当のアクアはまん丸から視線をそらした。
『これ、アクアがやったの……?』
『こんなことを出来るのはアクア位しかいねぇよな……』
『ラミナを勝たせるためですよ』
『そういってもな、これ部分的に絶対零度でも使っただろ……』
『そこまでやっていませんけど、私達が協力して作った刀ですからね、それ位しないと……』
『やり過ぎだと思うな~』
アクアも「私達」ということは、皆が関わっているって事だろうか?
「ハンゾー先輩、この刀ってなんなんですか?」
「さぁ、詳しい話はしらないが、銘は精霊丸、先祖がとある恩師から餞別に渡されたそうだ」
精霊達が知っている刀、そして恩師というのはもしかして……。
「ねぇ、この刀ってもしかして先祖が渡したのかな?」
『せやで、リタが倭国の薩摩ちゅう国に居た頃の話や』
「ぇ、それじゃあ、もしかしてこの刀皆で作ったの?」
『そうだよ~、僕ら四人で作ったんだ』
まさかの制作者だったとは思わなかった。
入学試験の時にミントとアクアが気になる反応をしていたけど、そういうことか。
「修理はまん丸だけで出来るの?」
『うん~、出来るけど、刀身部分は作り直そうかなぁって思ってるの~。グレンもいいかなぁ~?』
『いいぜ』
「んで、先輩が見たいって……」
『いいよ~、今日授業が終わったら北部の海岸に行こうか~』
「先輩、修理じゃなく、作り直すっぽいです」
「いいのか?」
『長く大事に使ってくれていたみたいだからね~。何度も研ぎ直しているみたいだし、せっかくだからね~』
「長く大事に使ってくれたからだって。んで、授業が終わったら北部の海岸だって言っています」
「わかった。とりあえずその刀は預ける。自分は指導に行く」
「わかりました」
ハンゾーは背を向け、リングの方に向かっていった。
精霊達はハンゾーの刀に何かしていたが、私はそのまま見学を再開していた。
一人一人の動きを見ていると。
『どうだ、何か思う事はあるか?』
「ん~、ハンゾー先輩の動きって何?」
気になるのはそこだった。剣や槍を持った相手に対して、瞬時に間合いに入って剣を取ったりしていた。しかも複数の相手でも無傷で対処しているのは、素直にすごいって思って見ていた。
『倭国に伝わる瞬歩と柔術だな。応用すれば剣や槍、杖なんかにも応用できるぞ。打撃系の技はなく、絞め技、関節技が多く基本的に受け身型だが、極めれば強いぞ』
倭国ってどこにあるんだろうか?
「私にも出来る?」
『出来るだろうが、あいつの動きは身体能力とか鍛錬の賜だぞ』
『ラミナならいけるんちゃう?』
『そうですね、私も良いと思いますよ』
身を守る術として教わっておきたいと思った。
『そうか?他には気になる事はあるか?』
「ん~」
先輩方の動きを見ていると、剣や槍が主流といった中、双剣や棍や短剣等を使っている人がいた。
ジョーイはハンゾーに狙いを定めた瞬間、間合いを一瞬で詰められて突き飛ばされていた。
「今のって縮地ってやつ?」
『いや、あれやただのダッシュだ』
ダッシュ?
さっき出てきた瞬歩とか縮地とは違ってダッシュ?
「ぇ?一瞬で詰め寄っていたよね?」
『体を鍛え、体の動きを覚えて強化すればあれくらいは出来るぞ』
「ぇ~?」
どんなに鍛えてもあそこまで出来るとは思えなかった。
『ラミナの場合は瞬発力より持久力を活かすほうがええと思うで』
『ここからキラベルまで走っても問題ないくらいやからね』
『持久力を活かした武術か……戦い方になるが、走って逃げて、追いついて来た奴を叩くというのがあるが……』
『ラミナの場合はそのまま逃げ切れそうですね……』
『やな、そんなんなら、うちらが追ってくる奴やればええやん』
『それならラミナが武術を身につける意味が無くないか?』
確かにグレンの言うとおりな気がした。
「ハンゾー先輩からも逃げ切れる?」
『どうやろ、縮地って相応の体力奪われるからな、ある程度距離があればなんとかなるんちゃう?』
『無理だろ、あの動きを見ている限り1キロ位は縮地で移動できそうだぞ……』
『ならハンゾーを迎え撃てる技術を身につければ良さそうですね』
いやいやいや、アクアは何を言っているの!?
指導中のハンゾーの動きを見ているけど、どうやっても勝てるビジョンが見えない……。
「とりあえず、ハンゾー先輩の武術に興味があるかも」
『それでは授業後、本人に師事してもらえるよう頼んでみては?』
放課後本人に聞いてみよう。
「そうだね、ところで薩摩ってどこにあるの?」
『ここからずっと東のほうに行った所に島国があるんだ、その国名は倭国というのだが、その一部の地方が薩摩だな』
『ですね、倭国は、日の昇る国や神国等色々な呼ばれ方をしているんですよ』
『せやな、この世界で一番最初に1日が始まるとこなんやで』
「へぇ~」
一度は先祖も行った国だし見てみたいかも。
『ここら辺とは全く違う文化だからな、新鮮だと思うぞ』
『ですね』
その後は騎士科の授業見学をしながら先輩方の動きを見て過ごし、適当なところで切り上げて寮に戻りポーション作りをした。
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