第410話 移植の対価 と再会
正体不明の声が聞こえた。
「ぇ?」
驚いて周囲を見渡す。
フェアノールの肩の所から、精霊サイズになったフェアノールが出てきた。小さな姿、でも強い存在感。
『両親の命を助けるのは構わんが、お主の力も借りることになるが良いか?』
「ぇっと……」
言葉が出ない。
「彼は時の精霊クロノス、おそらくはフェアノールの亡き後の姿だと思いますよ」
アクアが説明する。
『さよう、わしはフェアノールの亡き後の姿』
「ぇ……」
人はいつか亡くなるものだとは思うけども……。
ノール、フェアノール、時の精霊クロノス……。なんというか……。
「ところでクロノス、ラミナの両親の命を救うと言ってもどうするのですか?」
言葉を失っている私の代わりに、アクアが質問していた。
『簡単な事だ、過去に戻り亡くなる前の両親に接触すれば良い』
「そんなことをしたら、今のラミナの存在が消えるのではないですか?」
私の存在が消えるってどういうことだろうか?心臓が跳ねる。
「ぇ?どういうこと?」
「ラミナは両親が亡くなったからこそ、この道に進みましたよね?両親が亡くならなかったらこの道を進んでいましたか?」
「あっ」
確かに、両親が亡くなったから知識や技術が無かったから救えなかったとならないようにアカデミーに進むことを決めた。だからこそ今の私がある。そうなると両親が生きていた場合、どんな自分になっていたんだろうか?
『その通りだ、だからラミナの力を使うのだ』
「というと?」
『そなたの両親が亡くなったという事実は変えん、そのため生きている両親と、そなたが作ることが出来るダミーをすり替えるのだ』
「なるほど、すり替えた両親の病を治せば良いと」
アクアが頷く。
『さよう』
「ですが、当時の時代にもどせませんよね?どうするのですか?」
私の代わりにアクアがクロノスとやりとりしてくれていた。
『当時の時代に戻すのではない、今の時代に戻し帝都で一緒に住めば良いのではないか?』
「ん、村の人全員助けて今の時代に全員戻すというのはだめですか?」
希望を込めて尋ねる。
『そなたがそれでいいなら構わんが?』
それが出来れば、おばあちゃんも一人寂しく過ごさなくても良いと思う。胸が温かくなる。
「じゃあ、それで」
『よかろう、そなたの実習が終わったあとに再び主の元に姿を現そう』
実習が終わった後ってなると当分先だけど、再び両親と会えるなら。
「お願いします」
深く頭を下げる。
『では、またな』
そう言うとクロノスが姿を消した。光が消えていく。
◇◇◇◇◇◇
心臓移植を行った約二年後
倭国、センターリタでの実習を終え、アカデミーの卒業式も終えた後、故郷のルヴァ村に向かっていた。
懐かしい道、変わらない景色。
「クロノスの姿見てないけど、村に行けば会えるのかな?」
『いえ、すぐ側に居ますよ』
『さよう』
目の前にいきなりクロノスが姿を現した。
「うわぁ!」
思わず飛び上がる。
『何故驚く』
「急に姿を現せば誰でも驚きますよ!」
『そうか、で何のようだ?』
「あ、準備とかしなくて良いのかなと」
『なるほど、すり替える時点での村人のダミーだな』
たしか両親以外に五人くらい亡くなっていたはずだが、十年以上昔の話でなくなった当時の姿なんて覚えていない。
「当時の姿なんてもう覚えてないよ……」
『かまわない、過去に戻ったときに確認してから作れば良い』
「ダミーを作った後どうするの?」
『息が有るうちに、本人とダミーを交換だな』
「交換ってどうやって?」
『私が時間を止め本物は私の空間に誘導する。そのすきにダミーにすり替えるのだ』
私の空間ってどこなんだろう?
時の精霊用の空間なんてあるのかな?
「なるほど……、その空間で治療と……」
『そういうことだな』
治療というと、毒素を抜けば良いし、アクアかエセリアかな?
「クリーンとか浄化で治療できるんだよね?」
『そうですね、原因が分っていますからね』
アクアが返事すると同時にエセリアもコクコクと頷いていた。
「じゃあ、大丈夫かな?」
『ラミナ、過去に戻る時は例のローブを使った方が良いでしょうね』
「隠密とかのやつ?」
『えぇ』
「了解」
夕方前にルヴァ村の入り口近くに到着した。夕日が、村を照らす。
『ここで良いだろう、過去に行くぞ』
「うん……」
深く息を吸う。緊張する。
隠密等の効果が付いたローブを身につけた。
「大丈夫だよ」
『念のため私達はラミナの体内に隠れますね』
「うん」
『では、ゆくぞ』
クロノスがそう言うと、周囲の光景が夕方だったはずだが、瞬時に昼間に変わった。世界が、歪む感覚。
「もしかしてもう戻った?」
『あぁ、既に戻っている。近くに父親が居るようだが?』
確か、狩りの途中でって言ってたっけ……。
「今回は服装とかのチェックでいいんだよね?」
『その通りだ』
あの日亡くなった人達が着ていた衣類などをチェックするために村を回った。
「あれ?全員同じ日に亡くなってたっけ?」
父と母の葬儀の時に村長宅でまとめてやっていたのは覚えているが、十人まとめてだったかどうかは覚えていなかった。
『せやな、葬儀はまとめてやってたで』
「そっか、クロノス全員の服装とか頭に入れたよ」
『一度戻ろう』
「うん」
元の時間軸に戻って来たらしく、日中の光景が夕方の光景に戻り村の入り口近くに立っていた。
「んじゃ、クゥの所でダミーを作ってくる」
『あぁ』
ささっと、クゥの所に行き両親を含む十人分のダミーを作って戻った。
「お待たせ、準備は出来たよ」
『それぞれのダミーを預かろう』
「うん」
クロノスにダミーを渡すと、どこかの空間に消していた。
「で、もう一度、過去に戻るんだよね?」
『いや、そちらは私が対応しよう』
「ぇ?」
『代わりに、ダミーと取り替えた者達をここに飛ばすから治療すると良い』
「ぇ、了解」
と言うことは待っていれば良いと言うことだろうか?
そう思っていると、クロノスの姿が消え、代わりにあの日亡くなった人達が次々と姿を現した。光が集まり、人が現れる。
「エセリア、アクアお願い」
私がお願いすると、二人が淡く光った。柔らかな光が、人々を包む。
「ありがとう」
『いいえ』
エセリアはニコニコしながら頷いていた。
『これで対価の支払いは終わったな?』
「うん、確かに受け取りました」
涙が、頬を伝う。
『それではまた会おう』
「あっ、契約とかはしてくれないの?」
『ふむ、する必要は無い私は常に側に居る、ではな』
そう言ってクロノスが姿を消した。
契約したところで何かして貰うことは無いといえば無い気もする。おまけに私にとってはこの対価は受け取りすぎな気がする位だったりする。
そんなことを思っていると、過去から現在にとばされた人達が意識を取り戻し始めた。
「……ここは……?村の入り口か?」
父親が辺りを見渡しそう言った。懐かしい父親の声に少し涙が出てきた。声が震える。
「はい、そうです」
「君は……」
「ラミナです」
父親に問われ、応えた。
「ラミナ……?」
久々に聞く母親の声。温かい声。
「うん……、ちょっと話したいことがあるの」
両親を含む十人が身体を起こした事を確認し現状を伝えた。あの日から約十二年の月日が流れていること、そしてここに居る人達が全員、スネークイーターという鳥の毒素によって死んでいる事になっていることを伝えた。
「それではここに居る我々は……」
「精霊達の力を使って死ぬ直前にこの時代に飛んできたとでも思って貰えれば……」
「……にわかに信じがたいが……」
いきなりそんなことを告げられても信じられない気持ちは分る。私が逆の立場だったら"何を言っているの?"ってなる。
「一応、本当のことです。そのことを理解した上で村に戻って貰えれば……」
「そうか、分ったとりあえず帰ろう、君の名は?」
「ラミナです」
私が改めて名乗ると、皆が驚いていた。皆にとってのラミナは六歳のラミナであって、今目の前に居るのは十八歳のラミナだ。
「確かに面影があるが……」
「まぁ、村に戻って確認して貰えれば……」
「そうか、ありがとうよ」
一人がそう言うと、皆が私のお礼を伝え村に戻っていった。足音が遠ざかる。
「あなた本当にラミナなのね」
母が優しく微笑む。
「うん……」
「大きくなったわねぇ」
「うん」
両親は今どんな気持ちなんだろうか?
「母さん、とりあえず帰ろうか」
「そうね」
両親が先に歩き、私は後に続くようにして帰った。
「家が新しくなったか?」
父が家を見上げる。
「うん、三年前だったかな、建て替えたよ」
夏休みで帰省したら、少し雨漏りをしていたので、ミントとまん丸にお願いして家を建て直している。その際に、村のいくつかの建物も同様に建て直した。
「そうか」
両親が家の中に入ると、祖母が驚いたような顔を見せていた。目を見開き、立ち尽くす。
そりゃそうだ、死んだはずの両親が目の前に居るのだ。
『ラミナ、村長さんに事のあらましを伝えた方が良かったかも知れませんね』
確かに、死者が戻ってきたとなると、アンデットと間違われてもおかしくない。
「ただいま母さん」
父が言う。
「お義母さんもどりました」
母が続く。
「あんた達……」
祖母の声が震える。
「おばあちゃんただいま」
「ラミナかい、あんたのしわざかい?」
「うん、時の精霊さんの力を借りたの」
「そうかい……」
涙が、祖母の頬を伝う。
その後、村のあちらこちらで、死んだはずの旦那や奥さん子どもが帰ってきた事で少しパニックが起こったが、死んだはずの人達が帰ってきた祝いとして村総出で宴会をすることになった。
空白の十二年間を埋めるように両親に色々な話を聞かせた。
笑い声、温かな時間。
そして数日後、帝都グリーサに戻る日がやってきた。
朝日が昇る。新しい一日。
「忘れ物は無い?」
母が尋ねる。
「うん、大丈夫」
「気をつけてな」
父が手を振る。
「うん」
「おばあちゃんも、お父さんも、お母さんも元気でね」
「あんたもねぇ」
「うん、じゃあ行ってきます!」
私は晴れ晴れとした気持ちで帝都グリーサに戻った。
帝都に向かっていると、
『ラミナ、ミアンから至急帝都に戻ってきてほしいと』
「ぇ?なんで?」
『胃の摘出が必要な患者が来院したようでしょ』
「そっか、急いで帰ろっか」
『えぇ』
帝都の治癒院に就職したミアンから緊急手術の依頼が入り急いで帝都に戻った。
新しい命を救うために。
また、走り出す。
これからも、この道を歩み続ける。
そう心に誓いながら、私は前を向いた。
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