第405話 漂流者
心筋治療をして数ヶ月後
いつものように治癒院での実習が終わった後。
夕日が窓から差し込み、廊下をオレンジ色に染める。
「今日も終わったね~」
ミアンが伸びをする。
「だね~おつかれさま」
ミアンといつものように一日の終りの挨拶をして、イリーナの居る研究所に向かっていた。
研究所に戻ってくると、ロビーに一人の高齢エルフが小さな男の子を抱え、イリーナと会話をしていた。長い銀髪、鋭い目つき。
「あ、ちょうどよかった、ラミナさん、ミアンさん、こちらに」
ん?
なにかあるのだろうか?首を傾げる。
ミアンと一緒にイリーナの横に移動すると。
『あっ』
『こいつは……』
『懐かしい方ですね……、それに……』
『同一人物だね~』
精霊達はエルフの男を知っているようだった。
「フェアノールさん、こちらの二人でお間違いありませんか?」
「あぁ、間違いない、この子等だ」
男性が私たちを見つめる。深い瞳。
「ん?」
私から見ると、初対面な気がするけれど……?
ミアンの方を見ると、首を横に振っていた。ミアンも知らないと言うことだろうか?
「そうですか、わかりました、お子さんをこちらでお預かりします」
「あの~、何があったんですか?」
『子どもの心臓が良くないんですよ』
イリーナに尋ねたが、アクアが先に答えてくれた。
また心臓?
またこの前みたいに削れば良い奴なのかな?
「お子さんの心臓の調子が良くないみたいなので診てほしいと」
アクアの言うとおりだが、どうやって判断したのだろうか?
「そうなんだ……」
イリーナが病室に案内するので、私とミアンもついて行った。足音が、廊下に響く。
「では、こちらで……」
四人部屋だが、使用している人が居ないので、実質個室だ。白いシーツ、静かな部屋。
「ありがとうございます」
フェアノールと呼ばれた男性が、子どもをベッドの上に寝かせた。優しい手つき。
「ところで先生方」
「はい?」
イリーナが応えた。
「治療方針や手術をする際には私も同席させて貰えないかな?」
「いいですよ」
あっさり答えるイリーナ。
「それは助かります。治療が終わるまでは薩摩北門の姶良の宿に居ますので、何かありましたらそちらまで」
「わかりました、姶良の宿ですね、一応明日の十時にこちらに来て貰ってもよろしいですか?」
「わかりました。それではその子をお願いします」
「はい」
イリーナが返事をすると、フェアノールは去って行った。扉が閉まる音。
男の子を見て見ると、苦しんでいるような感じはなく寝ているだけのように見えた。穏やかな寝顔。
「ごめんなさいね、実習お疲れ様でした」
「「はい」」
イリーナが謝ったのはおそらく、時間外なのにと言うことだろうか?
「ところで、イリーナ先生、さっきの男性は私達のことを知ってたんですか?」
「えぇ、私の事も、ライラの事も知ってました」
「知り合いなんですか?」
「いいえ、初対面だと思います」
ん……?
何で私達の名前を知っているの?困惑する。
『彼がリタにラミナの事を教えた本人なんです』
『そして、そいつの成長した姿でもあるな』
グレンが男の子の方を見て言った。
「ぇ?」
意味が分らなかった。目を見開く。
「ラミナさん?」
『ちょっとややこしいので、ミーティングルームで私が説明しましょうか』
「うん、お願い、先生ミーティングルームでアクアが説明してくれるって」
「ん?分りました」
その後、三人でミーティングルームに移動した。
「えっと、何か分ったことがあるんですか?」
ミーティングルームでそれぞれが席に着くとイリーナが質問した。
「アクア」
『貰いますね』
私から魔素を受け取ると、イリーナとミアンに見えるようにと姿を現した。青い光が集まり、人の形になる。
「えっと、今回は結構重要な病気なの?」
姿を現したアクアに対して、質問したのはミアンだった。
「病に関しては、フェアノール自身が言っていたように心臓に問題を抱えていますが、今回はそこじゃないんです」
「ぇ?」
「イリーナ、男の子の名前はなんと言ってたんですか?」
「ノール君だそうです」
「そうですか、彼の本当の名はフェアノールという名です」
「「ぇ?」」
驚いて声が揃う。
「男の子の未来の姿がフェアノールなんです」
「ぇっと……、アクアさんの話をそのまま信じると、同じ時間に同じ人物が二人居るってことですよね?」
「その通りです」
イリーナの質問に対してアクアが答えた。
「そんなこと可能なの?」
今度はミアンが質問していた。
「えぇ、彼のスキルは漂流者なんです」
「漂流者……、初めて聞きますね、どんなスキルなんですか?」
「私達も詳しい詳細が良くわからないという珍しいスキルなのですが、確実に分ったことは、時間を漂流する事が出来ると言うことですね」
「ぇ……」
言葉を失う。
「まず、リタがこの国に居た頃に、彼と会っているんです。その時は、まだ二百歳にも満たないくらいでしたが、先ほどの彼の年齢は七百五十を越えていました」
「ぇ?おかしくないですか?リタさんが倭国に居たのは今から約四百前ですよね」
ミアンが首を傾げる。
「えぇ、その通りです。年齢の違う本人が二人居ると言うことも踏まえると、時間を漂流していると考えられるんです」
「確かにそうですね、リタさんと会った時はどんな状態だったんですか?」
イリーナの質問は、私も気になっていた。身を乗り出す。
「リタが倭国を去る数日前に孤児院に訪れたんです。そしていくつかの予言とお願いをして去って行ったんです」
予言というのが、私の存在のことだろう。
「予言とお願いですか?」
「えぇ、予言は遠い未来にラミナという子孫が現れることを細かく話していました。そして依頼というのが、百年に一度咲く百年の氷華の採取依頼でした」
「百年の氷華ですか、初めて聞きますね」
「当然でしょうね、百年に一度しか咲かない上に、この世界に三株しか存在しない花ですからね」
そんな花があるんだ、何かの薬だったんだろうか?
「お薬の材料なんですか?」
「いえ、病を治す薬にはなりませんよ、そして、その花は今そこに入っているんです」
アクアが見たのは私のカバンだった。
「ぇ?鞄に入っているの?」
驚いてカバンを見る。
「えぇ、ラミナが将来必要になるから採取しておくようにと依頼されていましたからね」
私が将来必要になる?
何に使うんだろうか?胸が高鳴る。
「そうなんだ……」
「そうでしたか、とりあえず、フェアノールさんの話はこれまでにしましょう。男の子の病の話を聞かせて貰うことは可能ですか?」
「えぇ、もちろん」
その後はアクアから、男の子の心臓の状態を聞いた。
不思議な出会い。
時間を越えた縁。
運命の歯車が、動き始めた気がした。
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