第396話 応援要請
ロストン実習が終わり、ポートリタに無事に戻って来た。
懐かしい港、潮風、鴎の鳴き声。ただいま、という気持ちになる。
ロストンに向かう前と変わらず、診断と治療、休みはミアンとファラと三人で、リアナの町に行ったり、魔大陸探索をして過ごしていたが、欠損治療の診療報酬等が明確に決まり、治療許可が下りると、エクスヒールポーション作りと治療でかなり忙しい日々を送っていた。
ポートリタに来てから十ヶ月ほど経った日、スタッフルームにイリーナ、ライラ、ミアン、私と揃っていた。
「欠損患者の治療も落ち着いてきましたね」
イリーナが言った。
「そうですね、やっと落ち着いた日々が帰ってきそう~」
実際に朝から晩までずっと仕事をしていた気分だった。ため息が漏れる。
「だね~、毎日忙しかったもんね」
ミアンが頷く。
「そうですね、もうじき年度替わりと言うこともあるので、そろそろ次の場所に行こうと思います」
「次の場所?」
顔を上げる。
「えぇ、倭国です」
「分りました」
"またファラとお別れか~"とちょっと残念な気持ちになっていた。胸が少し重い。
「いつ出発するんですか?」
ミアンがイリーナに尋ねた。
「そうですね、準備ができ次第、今週末にでもと思っていますね」
「ずいぶん急ですね」
ここに来るときも急だったが、去るときも急だった。
「えぇ、実は薩摩薬理学研究所から応援要請が来ているんですよ」
「ぇ?何かあったんですか?」
「彼らが、ラミナさんの技術を元に色々やっているようなのですが、なかなか上手くいかないようで助けて欲しいとの事です」
「私の技術って、精霊達がいるから出来ていることも多いのですが……」
一年前に比べると、ライラが色々な物を作ってイリーナやミアンも同等の事が出来るようになっては来ているが、実際に手術中の視覚部分に関しては、基本グレンの目を頼っているし、明るさに関してはエセリアに頼るし、道具や薬品に関してはまん丸とミント、状況確認はアクアに頼る等、基本的に精霊達がいて、私の器用さが合わさって成り立っている手術がとても多い。
「そうですね、それらを踏まえて彼らに技術指導をしに行く感じですね」
「はぁ、分りました。準備しておきます」
「えぇ、お願いします」
仕事後、治癒院を出ると、ファラが待っていた。夕日を浴びて、壁に寄りかかっている。
「あ、先輩」
「よぉ、ご飯行こうぜ」
手を振る。
ちょうど良かった。私も倭国に行く話をしたかった。
「良いですよ、どこ行きます?」
「まん丸のおすすめにしようか」
「だってまん丸」
『ん~、ドラゴンステーキ!ミディアムで!』
いや、焼き加減じゃなくて場所なんだけれど……、まぁドラゴンステーキでまん丸おすすめのお店なら既に知っている。
「ドラゴンステーキだそうです」
「それじゃ、アークキラーか」
「ですね」
ファラと雑談をしながら、アークキラーの店に向かった。石畳の道を歩く。足音が響く。
お店に着くと、直ぐに席に通してもらい、注文をした。木のテーブル、暖かな照明。
「そういや、薩摩に行くんだってな」
ファラが言う。
「あれ?早くないです?」
私が、イリーナから聞いたのはつい先ほどなのに。首を傾げる。
「大分前からイリーナに言われていたからな」
「あっ、そうなんですか?」
「あぁ、まぁお前とは休みの度につるんでいるからな」
「確かにそうですね」
頷く。
休日=ファラと行動といっても間違いないレベルだった。
「それで、倭国に行くタイミングなんかを相談受けていたって訳だ」
「はぁ……、そうだったんですね」
ファラが知っているとなると、それしか無いよね……。
「あぁ、リアナの町も一段落したし、こっちはいつでも良かったんだがな」
「あぁ、じゃあ治癒院での業務が片付くの待ちだったんだ」
「そういう事だ、薩摩に行ったら倭国のアカデミーに顔を出してやれ」
「ぇ?」
驚いて顔を上げる。
「ミラがいるからな、あいつもお前に会いたがっているんだよ」
「ぇ?ミラ先輩は倭国にいるんですか?」
「なんだ知らなかったのか?ハンゾーと結婚しているんだぞ」
結婚に関しては大して驚かなかった。会った頃から良く一緒に行動しているのを見ていたし、ただ倭国にあるアカデミー居るとは思っていなかった。
「そうなんだ……」
「あぁ、元気な姿を見せてやれよ」
「はい!」
力強く頷く。
「それから、卒業したらここに来いよ、大陸制覇するぞ」
「約束ですもんね」
何度目か探索に出た時の夜に交わした約束だった。焚き火の光、星空、あの夜の会話。
「あぁ」
「分りました。卒業後のこととか考えてないけど……」
「四月から五年だろ?あと二年じゃねぇか」
「だけど、決めてないですよほんと」
実際に何をやりたいかに関しては昔から決まっている。
知識や技術不足で助けられない命がないようにすること、これが私の行動の元となっている部分だ。精霊達が居れば、どこででも出来るし、わざわざ治癒院に所属する必要が無い、むしろ所属すると組織のしがらみがあって動きにくさを感じる。
そうなると、"就職より冒険者兼流れの医者がいいのかな?"というのが、この実習が始まってからずっと思っていることだ。
「そうか、私が五年になる頃には決めていたけどな」
「人それぞれって事ですよ」
「そうだな」
ファラが笑う。
「お待たせしました~、ドラゴンステーキセットです~」
雑談が一区切りするのを見計らっていたかのように、ステーキが運ばれてきた。ジュウジュウと、肉が音を立てる。香ばしい匂いが広がる。
その後も雑談をしながら夜遅くまで過ごした。
笑い声、温かな時間。
ファラとの、大切な夜だった。
また会えるかな。
そう思いながら、私はグラスを傾けた。
別れが、近づいている。
でも、また会える。
そう信じて。
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