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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十四章 合衆国 対 教国

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フソウ連合海軍本部第三会議室にて

フソウ連合海軍本部第三会議室。

そこでは、月に二回行われる定例報告会が行われていた。

勿論、必ず月に二回行われるわけではない。

世界情勢や大きな作戦時には、緊急で行われることもある。

特にここ最近は、開催される頻度が高い。

それは仕方ないのかもしれない。

合衆国による宣戦布告と、教国との戦争の開始。

混迷するサネホーンの状況。

そして、サムラーナ地区戦線の小休止がそろそろ終わりそうだという事。

それ以外にも、戦争による世界情勢の急変など、話し合い、情報を共有する必要性がより高くなっていた。

「以上がサムラーナ地区戦線の状況です。王国、共和国も共に準備が整いつつあり、恐らくですが、まもなく大きな艦隊戦が行われると思います」

その報告に、鍋島長官はふうっとため息を吐き出す。

その顔には、少しうんざりした感情が混じっていた。

その様子に気が付き、山本大将が声をかける。

「どうされましたか?」

そう聞かれて、鍋島長官は苦笑を浮かべた。

不味いところを見られたという感じだ。

「いやね、また多くの人が死ぬかと思うとね……」

「しかし、ここで終わらせることは出来ますまい。ここまでやられている以上、取り返して終わりでは済まないかと」

山本大将も複雑そうな表情でそう言って苦笑した。

戦争というのは、人と人の喧嘩と違って、殴って「ごめん」と謝れば済む問題ではない。

特に今回の場合、今までの植民地での争いではなく、本国での争いだ。

面子も、憎しみも、怒りも、全てが桁違いだ。

その為、今回の海戦の後は連盟への上陸、そして連盟内地での戦争へと移るだろう。

その上、合衆国が参戦してきた為に、戦争を率先して仲裁する中立国はない。

その結果、どちらかが完全に降伏するまで続くデスマッチとなるだろう。

そして、そうなるとより多くの人の命が奪われ、そこで生活している人々の幸福が踏みにじられていく事になる。

鍋島長官としては、それが気になっているのだろう。

勿論、彼とてわかっている。

全てが何とかなるとは限らないと。

だが、それでも良い気がしないのは事実である。

「何とかならないものか……」

ぼそりと長官の口から言葉が漏れる。

その呟きともとれる言葉に、会議室が静まり返る。

多くの者が思っている。

うちの長官は相変わらずだと。

だが、それだからこそ、今のフソウ連合の安定があるのだとも。

「まだ作戦が正式に知らされたわけではありません。それに我々も小休止状態とはいえ、サネホーンの件があります。ですから、現状は支援を行っていく事しかできないのではないでしょうか」

的場少将がそう意見する。

「ああ、その通りだな。すまないね、気を使わせて」

「いえ」

的場少将は短くそれだけ言うと頭を下げる。

それを合図に、進行役の東郷大尉が口を開く。

「それでは、サムラーナ地区戦線に関しては、現状維持という事でよろしいでしょうか?」

誰もがうなずく。

遠く離れた地という事もあり、フソウ連合本国としては、外洋艦隊の派遣と支援をしていくことしかできないのだ。

どちらかというと、重苦しい空気が会議室を満たしている。

そんな空気を感じたのだろう。

空気を変えようと、鍋島長官が藤堂少佐に聞く。

「そう言えば、戻って来た毛利艦隊の方はどうなっている?」

その問いに、藤堂少佐は楽しげに笑って言う。

「今の所、大きな改修も修理もありませんからな。おかげで毛利艦隊は現在、全艦修理点検に入っており、一ヶ月は全く動けないかと」

「そうか。まぁ、頑張ってくれたからね」

「ええ。各艦ともよく頑張ってくれたみたいです」

そして、ふと思い出したのだろう。

「あ、そうそう。毛利中将の娘さんから『お父さんのお船を点検してくれる人、いつもありがとう』って手紙が来てたな……」

その鍋島長官の言葉に、藤堂少佐の顔が大きく変化する。

勿論、驚きと嬉しさからだ。

「ほほう。そんな手紙が……」

「ああ、僕宛に昨日届いてね。後で君の事務所に持っていくように手配しておくよ」

「そうですか。それはうれしいですな」

豪快に笑ってそう言う藤堂少佐。

その笑いに、会議室の雰囲気が少し柔らかいものになる。

その雰囲気の中、「本当に出来た娘さんだな。将来いい女になるぞ」と南雲少将が言うと、苦笑しつつ的場少将が笑った。

「おいおい。今から狙っているのか?」

それは間違いなく、同期を揶揄う言葉だ。

その言葉に、南雲少将が少しムッとして言い返す。

「そんな訳あるかっ。それにな、今付き合ってる雪ちゃんは、すごくいい子で、結婚さえ考えているんだぞ」

その発言に、会議に集まっている人々から驚きの声と苦笑が漏れる。

どう考えても、この前まで付き合っていた軍楽隊の女性ではないと判ったし、プレイボーイとしてかなり有名な南雲少将の口から結婚なんて言葉が出てくるとは思っていなかったためである。

「本気か?」

「悪いかっ。お前が結婚して幸せそうにしてるからな。結婚も悪くはないと思ってさ……」

会議室がわっと湧く。

遂にあの男も年貢の納め時か、という皆の気持ちがそうさせたのである。

だが、流石に流れが変な方向に行き過ぎたと思ったのだろう。

新見中将が咳払いをして、苦笑しつつ口を開いた。

「みなさん、今は会議中ですぞ。そういった話は、会議後の飲み会ででもすべき議題ではないかな?」

その言葉に、沸き上がっていた皆の声が落ち着く。

「では、次の議題に移ろうか」

鍋島長官も笑いつつそう言う。

まさか、自分が振った話でここまで盛り上がって脱線するとは思っていなかったのだ。

東郷大尉も苦笑しつつ、会議を進めていく。

次の議題は、『合衆国と教国との戦い』について。

「現状、スペラーリーゼ諸島海戦後の合衆国の進撃は止まっており、アバーナ港と周辺地域の占領で落ち着いております。また、教国側も防衛ラインを急遽構築し、守りに入って動いておりません」

東郷大尉の報告に、鍋島長官は考え込んでいる。

彼にしてみれば、この戦いは予想外と言っていいだろう。

合衆国は今まで、中立を保ち、戦いを調停することで利を得てきた。

しかし、今回はそれまでの路線から逸脱している。

つまり、それまでの路線を捨ててもいいと思えるほどの何かがあったという事だ。

だが、それと同時に、現状は思った通りの展開ではないとも思う。

時間が経てば経つほど、敵はより守りを固めていくからだ。

そして、間違いなく被害が増える。

「泥沼ですな……」

ぼそりと、そんな言葉が山本大将の口から洩れる。

鍋島長官も同じ意見なのだろう。

ゆっくりと頷く。

宗教というものが深くかかわると、とんでもない事態になりやすいのだ。

それも、信仰心が強ければ強いほど厄介になっていく。

だが、そんな意見に反対する者がいた。

情報部を仕切る川見大佐である。

「私は、そこまでにはならない可能性もあると思っております」

その意見に、山本大将は面白そうな表情を浮かべ、鍋島長官は少し驚いた顔になった。

「ほほう。貴官の意見を聞かせてくれ」

山本大将にそう言われ、川見大佐が言葉を続ける。

「教国は、確かにドクトルト教の総本山です。ですから、熱心な信者は多いと思います。ですが、政府の圧政によって、政府に対する不満は積もり積もっているのが現状です」

山本大将が確認するように聞く。

「つまり、合衆国の宣言通り、政府と宗教を別物として国民が動く可能性があると見ているのかね?」

「ええ。その傾向は強いと思います。実際、アバーナ港では、住民の抵抗はほとんどなかったと聞いています」

その言葉に、今度は鍋島長官が感心したように言う。

「確かに、その通りだ。だが、全部が全部というわけではないだろう。注意は必要だな」

「はい。より情報収集に努めたいと思っております」

「ああ、頼むよ。しかし、距離が離れているため、どうしても後手後手になるのがきついな……」

鍋島長官がそう言って苦笑した。

時間が経てば経つほど、選択肢は狭まり、出来る事も限られていくからだ。

どんなことでも、初動が大事というのは変わらない。

それを改めて噛みしめているのだろう。

そして、最後にサネホーンの現状についての報告が入る。

「サネホーンの件は私から……」

そう言って報告を始めたのは、川見大佐だ。

リンダ女史がサネホーンに戻ってからというもの、情報部が主体となってサネホーンとコンタクトを取っている。

その為である。

「サネホーンは、現状、旧政権派と中立派、それに革新派の三つに分かれております。その比率は常に変動しているため、おおよそではありますが、2対2対6といったところでしょうか。現状、我々が支持する旧政権派は、かなりジリ貧と言えるでしょう」

その説明に、誰もが頷く。

「ですが、近々大きく動き、流れを変えるつもりのようです」

そう説明され、鍋島長官が聞く。

「リンダ女史が本格的に矢面に立つという事か……」

「はい。彼女としては、そうしなければ腹の虫がおさまらないと言っていましたよ」

その言葉に、鍋島長官が苦笑する。

「豪胆だな、彼女は……」

そして、表情を引き締めて言葉を続けた。

「だが、益々危険になる」

「わかっております。旧政権派も、ここでリンダ女史が暗殺されれば、自分達の逆転の芽が摘まれかねません。ですから、かなり厳重な警護体制で臨むという事です。それに、我々もただ黙って見ているだけではありません」

そう言い切って、川見大佐がニヤリと笑みを浮かべる。

その言葉と表情に、鍋島長官だけでなく、その場にいた大半の者が苦笑していた。

恐らく、誰もが似たようなことを思っていた。

ああ、川見大佐が実に楽しそうだ。

こりゃ、とんでもない事になりかねない。

だが、それと同時に、彼ならやり切るだろうという思いもあった。

鍋島長官も同じ思いだったが、それでも釘を刺す。

「一応、限度は考えてね」

その言葉に、川見大佐は実に楽しげに答える。

「勿論ですとも」

その笑顔に、皆の顔はますます苦笑に歪んでいた。

絶対、何かやらかすぞと。


本当なら、会議はこの議題を最後に終わるはずであった。

そしてこの後は、夕方からの飲み会へと流れ込む。

それがいつものパターンである。

しかし、今回は違った。

会議が終わろうとした時、慌てた様子で報告を持って来た連絡員が現れたのである。

ドアの向こうで報告書を挟んだボードを東郷大尉は受け取り、それを鍋島長官へ手渡す。

少しうんざりした表情を浮かべる鍋島長官。

それは、やっと終わったという安堵から緊張感が解けた瞬間に、残業を言い渡されてしまったような感覚だろうか。

ともかく、鍋島長官はそんな表情のまま、手渡された報告を読む。

まず怪訝そうな表情を浮かべ、一度ボードから視線を外して天井を見上げる。

そして、再び報告書へ目を落とす。

何度か目を通した後、ため息を吐き出した。

「どうやら、予想外の事が起こったようだ」

そう告げた後、鍋島長官が報告書の内容を読み上げる。

「アルンカス王国に、連盟の使者が潜水艦で到着したらしい。そして、秘密裏にフソウ連合と会談したいと申し入れてきたそうだ」

その言葉に、会議室がざわつく。

それはそうだ。

連盟は、敵である。

現在、共和国、王国が主体となってはいるが戦っている相手だ。

その敵から、使者が来た。

それも潜水艦で……。

「長官……」

深刻そうな表情で新見中将が何とかそれだけを口にする。

それを受けて、鍋島長官も険しい顔で答える。

「ああ。わかってるよ。今日の飲み会は中止だな」

あまりにも予想外の言葉に、その場にいた者達が唖然とする。

「あ、冗談だよ。冗談」

恐らく、皆を落ち着かせようという意図なのだろう。

笑ってそう言う鍋島長官だが、鍋島長官のジョークはタイミングが悪すぎると皆が思ってしまう。

アルンカス王国の時といい、今回といい、この人は意外なところで空気を読めないというか、冗談の質が悪いというか……。

それは、鍋島長官自身が自分の一言の重さを今一つ理解していないという事でもあった。

そんな微妙な空気を換える為だろうか。

咳払いをして、鍋島長官は言葉を続ける。

「ともかくだ。相手がどのような意図で接触してきたのかはわからないが、会わなきゃならんだろうな」

そう言われ、新見中将は渋々といった様子で言う。

「そう言われると思いました。ですが、絶対に危険な事はなさらないでくださいよ」

まるで初めてのお使いに出る子供へ言い聞かせているかのような物言いだ。

「わかっているさ。それに、まだ死にたくないからね」

その軽い物言いに、新見中将は深いため息を吐き出し、山本大将は苦笑したのであった。




今回も読んでいただきありがとうございます。

今回で、第四十四章終了となります。

次回から新章がスタートですのでお楽しみに。

それと、いつものお願いを。

よければ、感想、いいね等の反応などをよろしくお願いいたします。

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