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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十四章 合衆国 対 教国

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再編

別動隊と合流し、被害や人員の点検を行った第三艦隊が、支援艦隊と合流したのは翌日の早朝であった。

「お互い、眠れぬ夜を過ごしましたな」

第三艦隊司令のコルト・リキラーゼ提督の言葉に、支援艦隊指揮官のストキマス・レッドブル少将と、上陸部隊を指揮するトレッド・パットラ将軍は苦笑を浮かべる。

その顔には、疲労の色がとても強い。

もっとも、リキラーゼ提督の顔色も似たようなものであったが。

「助かりました。あのままでは全滅の可能性もありました」

そう言うレッドブル少将に、リキラーゼ提督はさっきまでの苦笑を浮かべた表情から真剣な表情になって頭を下げる。

「いや、こちらの方こそ遅くなり申し訳ない」

その謝罪に、レッドブル少将は驚き、顔を上げるように言う。

それに対して、頭を下げたままリキラーゼ提督は言葉を続けた。

「秘密裏に敵の動きに関する情報は掴んではいたんだ。だが、言い訳になるが、敵の動きが思った以上に早かった。本当にすまん」

真摯に謝罪するリキラーゼ提督。

その様子を困ったような表情で見た後、レッドブル少将はちらりと横に立っているパットラ将軍に視線を移した。

パットラ将軍は苦笑し、仕方ないといった顔をした後、口を開いた。

「だが、貴方は間に合った。それも事実だ。だから、もう謝罪ではなく、今後の事を話し合うべきではないかな」

それに合わせるようにレッドブル少将も言う。

「その通りだ。貴官のおかげで我々はまだ戦えるのだから」

その言葉に、リキラーゼ提督は顔を上げた。

その顔に浮かぶのは、ほっとしたような安堵の色だ。

「確かに、作戦は終わっていませんでしたな」

「その通りだ。そして、まだまだ貴官率いる第三艦隊には踏ん張ってもらわねばなりませんからな」

パットラ将軍は豪快に笑いつつそう言うと、レッドブル少将も笑った。

それに釣られ、リキラーゼ提督も笑ってしまっていた。

最初にあった、お互いに相手を窺うような辛気臭い雰囲気は、もう会議室にはない。

お互いにそれほど深く知りあってはいないものの、そこには同じ作戦を完遂するために力を合わせる、戦友同士の絆があった。

「上陸部隊は三割、物資が五割の被害といったところですか」

報告書を確認し、発言するパットラ将軍の言葉に、二人はうなづいていた。

もっとも、その表情は同じではない。

レッドブル少将は辛そうな表情であり、リキラーゼ提督は引き締めた表情だ。

それは、それぞれの思いが顔に出ていたというべきだろう。

レッドブル少将はその被害に責任を感じ、リキラーゼ提督はその被害なら確かに作戦継続が可能だと判断している。

パットラは二人の異なる表情を見て苦笑した後、言葉を続ける。

「それで、作戦はどのように進めるおつもりですかな?」

パットラ将軍の言葉に、リキラーゼ提督は返答する。

「第一、第七艦隊と連絡を取り合った結果、第一、第七艦隊の残存戦力が半日後に合流。その後、第三艦隊と混成艦隊を編成し、セントフィール軍港とアバーナ港へ攻撃を仕掛けます」

「ふむ。二ヶ所同時かね?」

「ええ。それで本当なら二ヶ所同時に上陸する予定でした。しかし、今の現状では同時は無理です。兵力はともかく、物資が少なすぎる」

その言葉に、パットラは頷く。

それを確認し、リキラーゼ提督は言葉を続けた。

「ですから、どちらかを本命の上陸地点として、もう一か所は牽制という形にしたいと思っています」

「それで、本命はどちらに……」

その言葉を待っていましたとばかりにリキラーゼ提督は言う。

「アバーナ港を本命にしたいと思っております」

「その根拠を聞いても?」

そう言われ、リキラーゼ提督はうなづいて説明していく。

民間の港であり、駐在する戦力は少ないこと。

港の規模は、アバーナ港の方が大きいこと。

港で扱う物資はアバーナ港の方が多く、クレーンを始めとする機材も充実していること。

それらの利点を説明した後、リキラーゼ提督は確認するように問いかける。

「いかがなものでしょうか?」

その問いに、パットラ将軍は大きく頷く。

「確かにおっしゃる通りだ。それと、港占拠後の侵攻展開もアバーナ港の方がよさそうだな」

地図を確認しつつ、パットラ将軍は言う。

それを聞き、リキラーゼ提督は確認する。

「では、アバーナ港の方を本命とし、牽制としてセントフィール軍港を攻撃する形で、作戦を展開するということでよろしいですかな?」

「ああ、それでお願いする。それで、作戦開始に関してだが……」

その問いに、リキラーゼ提督は苦笑をした。

「我々第三艦隊は直ぐにでも動けますが、第一、第七艦隊の方がかなり混乱している有様で、現状としては向こうが落ち着かねば動けない状態です」

そう答えつつ、内心、嫌味の一つでも出るかなという気持ちがあったリキラーゼ提督だったが、パットラ将軍の反応は逆であった。

パットラ将軍は豪快に笑った。

「なるほど。ならばひと眠りできる時間はあるという事ですな」

予想しなかった言葉。

あっけらかんと、実に楽しげな態度。

それは嫌味ではなく、相手を気遣う気持ちが僅かに滲み出ていた。

恐らく本人としては、そういう風に思われないように仕向けたかったのだろう。

だが、それでもわかっていた。

だから、リキラーゼ提督もレッドブル少将も、唖然とした後、共に笑いあった。

「では、少し仮眠をいただこう」

「ええ。そうしましょう」

「もちろん、警戒は……」

「ええ。万全の体勢で」

こうして、第三艦隊と支援艦隊は、一連の戦闘を終え、しばらくの休息に入る。

まだ作戦は終わってはいない。

当初の作戦計画とは大きく違ってしまっていたが、それでも遂行できるうちはやらねばならない。

それが軍人という仕事なのだから。



教団防衛艦隊が戦線を離脱した後、第一艦隊と第七艦隊は合流こそしていたが、混乱の中にあった。

被害確認、救助作業、現状の報告。

それらが飛び交い、落ち着く暇がなかったのである。

特に、時間帯が深夜というのも混乱の大きな要因の一つとなっていた。

中でも、海に落ちた者の救助は至難を極めた。

被害を受けた艦艇は多い上に、暗闇の中での救助作業。

その上、どれだけの兵が海に落ちたかも把握できない有様だったからである。

艦艇は漂う兵達を巻き込まないように動きを止め、探照灯で海面を照らし、ボートやカッターで一人ずつ兵を救助していく。

昼間なら、視界がはっきりとしていて誰がどこにいるかわかる。

だが、夜はその視界が奪われてしまう。

その差は、どうしても救助の効率を悪くしてしまっていた。

「現状はどうなっている?」

第一艦隊の指揮を執るデモン・チャンスボート提督がそう聞くと、副官がボードを確認しつつ報告する。

「現状、まだ救助が継続中の有様です。恐らく、朝になって日が昇ってからではないと、どこまで救助できたかはわからないかと」

その報告に、チャンスボート提督は舌打ちをする。

そんなチャンスボート提督に、副官が恐る恐るという感じで聞いた。

「それで……第七艦隊の方は……」

その言葉が言い終わらないうちに、チャンスボート提督はぶちまけるように言った。

「話にならん。何だあれは……。あの野郎は……」

怒りがぶり返したのだろう。

顔に怒気が滲み出ていた。

それだけ、第七艦隊で見聞きしたものが酷かったという事なのだろう。

副官は聞かなきゃよかったと思ったが、ここで話を止めるわけにはいかず言葉を続ける。

「そんなに……ですか?」

「ああ。あの野郎っ、無責任にもほどがある。気に入らないやつではあったが、あそこまで屑だったとはな。本当に、人として最悪だ」

一気にそうまくしたてるチャンスボート提督。

その表情と言葉に浮かぶのは、怒気だけではない。

侮蔑、嫌悪も交じっている。

「あの野郎、何やっていたと思う?」

そう強い口調で聞かれ、副官は思わず一歩後ずさった。

それほどの強い口調だったのだ。

それを気にせず、チャンスボート提督は吐き捨てるように言う。

「床に座り込んでやがったんだ」

「へ?! 座り込んでいた?!」

予想外の言葉に、副官の口からそんな言葉が漏れる。

その言葉に、チャンスボート提督が続ける。

「そうだっ。何もせず、ただ、床に座り込んでいやがった」

「えっと……、救助も指揮もせず?!」

「そうだっ。全ての指揮を放棄してな」

そう言われ、副官は納得する。

軍人としての義務を放棄し、味方も救助せず、何もしない。

精神的にダメージを受けたかどうかは知らんが、それで全てを放棄していいとはならない。

ましてや、責任の重い高位の階級にある者がそれでは駄目だ。

自分一人だけの問題ならまだいい。

だが、多数の人の命がかかわっているのだ。

だからこそ、チャンスボート提督は屑呼ばわりし、人として最低だと言い切ったのだろう。

わかる。

すごくわかる。

「それで、向こうの指揮をどうされたのですか?」

その問いに、チャンスボート提督はムカムカした感情を隠そうともせず言う。

「リカンドラを残してきた。臨時指揮官としてな」

そう言われて、ふと思い出す。

「それはそうと、トラフック提督の副官の方は?」

普通は副官に任せるという手もあるはずなのだ。

なのに、それをやらないというのは……。

そう言われ、チャンスボート提督の顔に不味いという感情が滲み出て来た。

あ、何かやらかしたんだ、この人は……。

そして、その予想は当たる。

「あいつの副官は……怪我をしてな。指揮を執れる状況ではなかったんだ」

「えっと……。詳しく聞いても?」

そう言われ、誤魔化せないとチャンスボート提督は開き直ったのだろう。

「あまりに頭にきてな、トラフックの野郎を殴ろうとして、副官が間に入り込み、怪我させちまった……」

あー、やっちゃったな。この人は……。

確かに毛嫌いしていたからなぁ。

その上、この有様だし。

でも、そのお陰で怒りがこの程度に収まっているともいえた。

恐らく、それがなければ、トラフック提督はサンドバッグみたいになっている可能性が高い。

まぁ、被害を被ったトラフック提督の副官には申し訳ないが、いい仕事をしたよ、君は……と心の中で擁護しておく。

もっとも、現実には何にもならないが。

「それで、今後はどういたしましょう?」

雰囲気を変える為に、副官がそう聞くとチャンスボート提督は言う。

「まずは被害確認と救助が優先だ。それと交代で休憩を入れろ。まずは朝までだな」

「朝になったらどうしましょう?」

「それまでには被害報告と救助にメドが付くだろう。それ以降は、艦隊を二つに分ける。被害のあった艦艇と負傷者や死者を乗せた艦艇を中心に編成し、そちらは本国に帰投。残りの艦艇で戦えそうなものは、混合で艦隊を臨時編成。作戦を継続する」

「わかりました。では、そのように手配します」

「ああ。頼む」

そして少し間があり、副官が聞いた。

「トラフック提督はどうなるのでしょうか?」

「さぁな。ただ、下手な事が出来ないように軟禁してはいる。後は、軍事裁判次第だが……」

そこで一瞬間が空き、チャンスボート提督は吐き捨てるように言った。

「どうせ、ろくなことにはならんとは思うがな」

その言葉には、先ほどまでの怒気はなく、やるせなさが漂っていた。



将校用の個室のベッドの上で、パラマハンゼ・トラフック提督は膝を抱え、うずくまっていた。

血の気の引いた青白い顔色、焦点の合っていない虚ろな目で虚空を見つめ、口からはボソボソと言葉が漏れている。

今の彼にとって、世界は全て敵だった。

今までは思い通りになって来た。

なのに、ほんの半日前から一気に、それまでの日々が嘘だったと言わんばかりに、全てが自分の思いとは違う方向へ流れていく。

全てが、全てが崩れ去っていく。

ガラガラと……。

容赦なく。

全てを壊していく。

ガタガタと身体が震えた。

恐怖、不安が心を蝕んでいく。

それは、まるで恐怖を知らずに育った小さな子供が、初めて知る恐怖に震えているようだ。

いや、もうそれに近いのかもしれない。

今まで挫折を味わってこなかったのだ。

そして、初めての挫折が、全てをひっくり返すかのような挫折である。

今まで生きてきた全てを壊し、マイナスにしてしまう様な……。

いやだ……。

絶対に嫌だ……。

こんなのは嫌だ……。

冷たい汗が止まらない。

まるで高熱を出したかのように体が震え続ける。

まさに、悪夢と言ってよかった。

そして、追い詰められた思考は、逃走へと走り出す。

辛いことにすぐ立ち向かえる者は、そう多くはない。

ましてや、今までの人生を失う様な辛いことなのだ。

今までの自分を否定するかのような辛さ。

それが、挫折を知らず育った脆い心を蝕んでいく。

そして、行きついた。


あ、これ……夢だ。


夢なんだ。

そう思考した瞬間、苦しかったものから一気に解き放たれたような気がした。

ふわりと心が安らかになる。

さっきまでの苦痛が、不安が、恐怖が嘘のように消え去っていく。

まるで天国にいるようだ。

全てから解放され、身も心も軽くなった。

そんな感じだ。

ああ、そうか。

そうなんだ。

これは悪夢なんだ。

私の恐れが生んだ悪夢。

そして、こうならない為の警告。

つまり、そういう事だ。

だから、私は目を覚まさねばならない。

現実に戻らなければならないのだ。

そして、より高みを目指していかなければならないのだ。

ああ、実に素晴らしい。

だが、どうすれば悪夢から解放される?

強く願えば解放される、というわけではなかろう。

ここまで嫌な思いをしたのだ。

だから、解放されるなら、もう解放されていなければならない。

だが、まだ悪夢の中のままだ。

ならば、より強い刺激が必要という事か……。

強い刺激……。

生半可に怪我をするのは嫌だ。

もし、うまくいかなかったら、痛い思いをするだけになってしまう。

ならば、死ぬのはどうだろうか。

死んでしまえば、悪夢は覚める。

絶対に覚めるはずだ。

こんな、私の理想でない世界。

私が望んでいない悪夢。

そうだ。

そうしよう。

痛いのは一度きりだけでいい。

そうすれば、悪夢は終わる。

そして、素晴らしい現実に戻るのだ。

その思考に支配され、トラフック提督は行動に移った。

そして、迷いはなかった。

最初は苦痛の表情だった。

もがき苦しみ、引き攣っていく表情。

普通なら、その苦悶の表情をそのまま残すはずだった。

しかし、その表情は次第に穏やかなものになっていく。

まるで何もかも捨て去ったかのように。

いや、それは責任という重荷を捨てきった故の表情だったのかもしれない。

こうして、パラマハンゼ・トラフック提督は死亡した。

全てを投げ出し、無責任に。

そして翌朝、様子を見に来た兵士によって、トラフック提督の自殺は発見される。

しかし、その独りよがりの自殺に、悲しむ者は誰一人としていなかった。

ただ、誰もが吐き捨てる。

「逃げたか。無責任め……」と。





いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今回の話はどうだったでしょうか?

楽しんでいだければ幸いです。

後、よければ、感想、いいね等の反応などをよろしくお願いいたします。

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よろしくお願いいたします。

最近、減る事はあってもなかなか増えることはないので、なかなか辛いのですよ。

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