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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十四章 合衆国 対 教国

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もう一つの戦い その1

「来ましたっ。『お客はパーティ会場に入った』。繰り返します。『お客はパーティ会場に入った』。以上です」

通信手からの報告。

それは大きな声ではなかったが、今か今かと待ちかねていた者たちのいる艦橋内に響いた。

その報告に、艦橋内から歓声に近い声が上がった。

そのどれもが、やってやるぞという意思に満ち満ちている。

よし、やれるぞ。

教国本国艦隊司令であるトラビス・パラマーゼ提督は、満足そうな表情になる。

そんなパラマーゼ提督に、副官が場の空気を壊さないためか、囁くように聞く。

「あまりにも展開が早すぎませんか?」

予想としては、まだまだ時間がかかると思われていたのだ。

だからこそ出た言葉なのだろう。

「確かにな。だが、戦いというものは相手がいる。恐らく、敵の動きが早すぎたのだろう」

「そうでしょうか……」

それでも、副官の表情は冴えない。

何か引っかかっている様子だ。

だが、そんな副官の肩を、パラマーゼ提督はポンポンと軽く叩く。

「それにだ。もう始まってしまったんだ。後は、こっちはこっちで全力を尽くすしかないという事だよ」

そう言った後、少しくだけた口調で続ける。

「それに、張り切りすぎて先を急いだお調子者は、今頃、熱烈な歓迎を受けているだろうからな」

その口調と言葉に、副官は笑った。

「そうですな。では、ご命令を」

改めて表情を引き締めて言う副官に、パラマーゼ提督はニヤリと笑い、艦橋全体に響くような声で命令を下す。

「よし。こっちもパーティを始めるぞ。この戦いに祖国の命運がかかっている。各員の奮闘を期待する。所定の位置にいる艦隊に命じろ。一隻たりとも祖国に近づけるな、と」

その命令に、艦橋内が一気に沸いた。

それは、溜まりに溜まって爆発寸前だった気持ちが、一気に爆発したかのようであった。

「おおおおおーーっ。やるぞーーっ」

「合衆国のやつらに目にものを見せてやるわ」

「祖国に勝利を!!」

それぞれが自分を、そして周りを鼓舞していく。

それを頼もしげに見ながら、しかし、パラマーゼ提督は心の中で気を引き締める。

この戦いは、決して楽なものにはならないだろうと予感しながら。

こうして教国本国艦隊は、後方で待機し、合衆国の三個艦隊が突破口を開くのを待っている支援艦隊へ向けて動き出した。



「今のペースですと、本格的な上陸作戦は明日以降になりそうですな」

海図を目の前にして最初に口を開いたのは、支援艦隊指揮官のストキマス・レッドブル少将である。

その言葉に、上陸部隊を指揮するトレッド・パットラ将軍は頷く。

「ですな。思った以上に、先行する艦隊の動きが早い」

そう言った後、海図に向けていた視線をレッドブル少将の方へ向けて聞く。

「対応は問題ないでしょうな?」

「勿論ですとも。何なら、今すぐにでも上陸作戦を展開することになっても、対応してみせますぞ」

パットラ将軍の言葉に、この人は相変わらずだと思いつつ、レッドブル少将は苦笑気味に答える。

その表情と言葉に、パットラ将軍は慌てて言う。

「いや、別に貴殿の能力を疑ったつもりではなく……」

「わかっております。万全を期して、という事なのでしょう?」

そう言われて、パットラ将軍は頷く。

軍内におけるパットラ将軍の完璧主義は、かなり有名である。

『何事においても、準備はいくらしてもしすぎるという事はない』

彼の口癖である。

その言葉からも、彼の几帳面すぎるほどの慎重さがわかるというものだ。

だからこそ、彼を安心させるため、レッドブル少将は口を開く。

「我々も万全を期しております。どんな事態になったとしても対応できるように。後は、全力を尽くすのみといったところですかな」

その物言いに、パットラ将軍は楽しげに笑う。

「いいですな。実にいい」

二人の間に流れる雰囲気が、少し穏やかなものになる。

だが、それは唐突に破られた。

部屋に飛び込んできた副官が報告する。

「大変です。敵艦隊と思しき艦影が、こちらに向かってきます」

その報告に、レッドブル少将は驚くが、すぐに表情を引き締める。

「初動はどうなっている?」

「はっ。第103護衛隊と第77護衛隊が、敵艦隊の迎撃に向かいました」

「わかった。すぐに艦橋へ向かうぞ」

レッドブル少将の言葉に、パットラ将軍も口を開く。

「私もご一緒してよろしいですかな?」

「勿論ですとも。我々の手際をお見せしましょう」

レッドブル少将はそう答える。

しかし、その額には汗がにじんでいた。



支援艦隊の前に出るように進む第103護衛隊と第77護衛隊。

その総数は、装甲巡洋艦六隻である。

「糞ったれっ。この戦力差の中、突っ込まなきゃならんとはな」

第103護衛隊の指揮を執っているリクシスト少佐は、愚痴を吐き捨てる。

その愚痴に、装甲巡洋艦アカンドラの艦長が苦笑しながら言い返す。

「まぁ、うちらの仕事のつらいところですな。ですが、やるしかないでしょう」

その言葉に、リクシスト少佐は苦笑した。

「その通りだな。それに、金槌野郎どもに俺らの雄姿を見せつけてやる機会だと思えばいいか」

金槌野郎。

それは、泳ぐことが必須な海軍とは違い、泳げない者でも軍人になれる陸軍の連中を揶揄した言葉だ。

その言葉を聞き、艦橋内が沸く。

「そりゃいい。俺らに守られているおこちゃまに、見せつけてやりましょうや」

「おおっ。いいね」

「よっしゃーっ。やる気が出てきたぞ」

そんな声が艦橋内に響く。

気持ちだけは負けていない。

それが実によくわかる。

だが、戦力差は圧倒的だった。

こちらの砲撃が届かない距離から、敵の砲撃が始まる。

次々と周囲に立つ水柱。

至近弾こそないものの、自分たちが狙われているという圧力は、ひしひしと伝わってくる。

誰もが、いつの間にか無口になっていく。

それは自分の役割に集中しているのと同時に、死への恐怖と戦っているという事でもあった。

「間もなく射程距離に入ります」

横一列になって突き進む第103護衛隊と第77護衛隊。

「いいかっ。混戦に持ち込めっ。数ではこっちが不利だが、混戦に持ち込めば時間が稼げる。ともかく時間を稼げっ」

リクシスト少佐が、そう檄を飛ばす。

海賊との戦いとは違う。

今回は、正規艦隊同士の本気のぶつかり合いだ。

誰もが、ただでは済まないとわかっている。

だが、それでも彼らは引かない。

いや、引けないのだ。

そして、それは教国本国艦隊も同じであった。

迫り来る護衛隊を見て、教国本国艦隊司令のパラマーゼ提督はニヤリと笑みを浮かべた。

教国本国艦隊の布陣は、三層に分かれた横陣である。

第一層と第二層は装甲巡洋艦を中心に構成され、第三層には戦艦と重戦艦が配置されている。

そんな布陣を目にしながらも、敵は真正面から突撃してくる。

その動きは勇猛果敢でもあり、無謀とも取れた。

だからこそ、その動きを見たパラマーゼ提督の口から言葉が漏れる。

「いい気合いだ。実にいい。だが、通らせてもらおう」

そう呟くように言うと、パラマーゼ提督は命令を下す。

「敵の護衛隊は、混戦を狙うはずだ。先行する装甲巡洋艦は、そのまま突っ切って進み、敵の支援艦隊に肉薄しろ。勇猛な敵護衛隊は、後方に位置する戦艦と重戦艦で始末する。いいな」

「はっ。了解しました」

圧迫するかのように距離を詰めていく教国本国艦隊。

その圧力に屈することなく向かってくる、護衛隊の六隻の装甲巡洋艦。

「撃ち方始めーっ」

リクシスト少佐の掛け声と同時に、護衛隊の主砲も火を噴き始める。

勿論、距離を詰めながらだ。

ここで少しでも敵の動きに迷いが出れば……。

だが、敵はどっしりと構え、そのまま突き進んでくる。

「ちっ。しっかりしてやがんな。少しぐらいブレてくれれば可愛げもあるというのによ」

リクシスト少佐はそう言いつつも、それだけこの艦隊が統制の取れた連中であると再確認した。

やりづれぇ……。

これが海賊なら、動揺したり、回避したりといった反応があるのだが、それがない。

ならば、超至近距離まで接近し、ひっかき回すだけだ。

次々と艦の周囲に水柱が立つ。

怯えたような声が、艦橋スタッフの中から漏れる。

だが、それだけだ。

誰もが必死になって戦っている。

敵と、そして自分自身と。

いい部下たちだ。

自慢できるぜ。

リクシスト少佐は内心そう思いつつ、それでも命令を下す。

「速力を上げろ。敵艦隊に突っ込み、ひっかき回すぞ」

段々と距離が近づいてくる。

それぞれの艦影が、よりはっきりと見えるようになる。

それは主砲だけではなく、中口径砲や小口径砲の射程にも入ったという事だ。

主砲だけでなく、副砲を始めとするあらゆる砲が火を噴く。

そして、遂に命中弾が出た。

第77護衛隊の装甲巡洋艦に、戦艦の主砲弾が命中したのである。

どんっ、という爆発音。

弾薬庫に引火したのだろう。

装甲巡洋艦は、呆気ないほど簡単に沈んでいく。

「くそっ。まだだっ。混戦になればっ」

リクシスト少佐は悔しそうに舌打ちし、そう呟く。

「あと少し。あと少しで……」

だが、その願いは叶いそうになかった。

一隻が沈んだことで、ただでさえ不利だった戦況は一気に崩れていく。

圧倒的な火力と数の差は、接近して混戦に持ち込む前に、二つの護衛隊の命運を断ち切る事になったのだ。

幾つもの命中弾を受け、大きく傾くアカンドラ。

艦橋にも砲弾が命中し、内部は瓦礫の山と化していた。

血みどろになりながら、ゆっくりと立ち上がるリクシスト少佐。

すでに周囲には、味方の艦影はなかった。

そして艦橋内にも、動く人影はない。

そこにあるのは、かつて人であったものばかりだった。

血と肉と、赤く染まった布切れ。

ふらつきながら周囲を見回し、リクシスト少佐は叫ぶ。

声にならない声を。

それは、魂の叫びのようだった。

悲しみと怒りと虚しさ。

そして、とてつもなく大きな喪失感。

全てがごちゃ混ぜになった慟哭。

だが、それも長くは続かなかった。

次の砲弾がアカンドラを捉え、艦は轟沈したからである。

挿絵(By みてみん)

こうして、第103護衛隊と第77護衛隊の奮戦も空しく、教国本国艦隊は合衆国支援艦隊に食らいついたのであった。



読んでいただきありがとうございます。

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