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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十四章 合衆国 対 教国

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読みの先にあるもの

一緒に動いていた第一、第三艦隊がゆっくりと離れていく。

作戦海域に入ったからだ。

ここから艦隊は大きく四つに分かれて行動する。

第一、第三、第七艦隊がそれぞれ三方から目標であるセントフィール軍港とアバーナ港を目指して進むのだ。

そして、後方に下がった上陸部隊満載の支援艦隊は、突破口が開いた方に艦隊を向け、上陸作戦を開始する。

そういう作戦であった。

作戦名は『目覚めの(ディタイテスエブァフアン)』作戦。

すべて順調な滑り出しであった。

挿絵(By みてみん)

あれほど非協力的で渋っていた第一、第三艦隊の二人の指揮官は、大統領の宣戦布告後は作戦通りに動いているし、サムラーナ地区情報統括部からは、敵艦隊の誘導工作に問題はないという返事が返ってきている。

そう。全く問題ない。

このままいけば、作戦通りになるはずだ。

敵の二つの本国防衛艦隊、教団防衛艦隊と教国海軍本国艦隊は、それぞれ第一、第三艦隊に向かい、我ら第七艦隊はバンダルチ海のスペラーリーゼ諸島を無傷で抜けてセントフィール軍港へ攻撃を仕掛け、上陸地点を確保する。

その後は、支援艦隊と上陸部隊の仕事だ。

我々は、返す刀で、第一、第三艦隊の支援に入って彼らの援護をして恩を売る、或いは二つの艦隊によって疲弊した敵艦隊を潰せばいい。

まぁ、敵艦隊とのガチの艦隊戦が出来ないのは残念だが、今回は仕方ないというべきだろう。

結社(うえ)からの指示だ。

点数稼ぎをしておく必要があるし、ここで手柄を立てて、他の派閥にも恩を売っておけば、連中を切り崩すきっかけにもなる。

うまくいけば、合衆国海軍総司令官の椅子さえ手に入るかもしれんからな。

そこまで思考し、第七艦隊のパラマハンゼ・トラフック提督は、表面上は渋い表情のまま、内心でほくそ笑む。

彼にとって、合衆国海軍総司令官の座は、長年の夢であった。

そして、退役後は大統領を狙うのもいいかもしれん。

そんな風に夢が広がっていく。

彼にとって、結社も軍も自分の満足を得るための手段であり、足がかりでしかない。

そこには、祖国の為、自国民の為という思いは余りにもおざなりになっていた。

それ故に彼は合衆国海軍最年少提督と言われるほどのスピードで出世してきたのだ。

だが、その貪欲すぎる思考は、時として足元を掬われる要因になるのであった。


「作戦海域に入りました」

その報告を受け、第一艦隊のデモン・チャンスボート提督は腕を組み、前方を睨んでいた。

そして、その姿勢のまま、振り向かずに後方にいる副長に声をかける。

「情報は間違いないのだな?」

「はっ。サムラーナ地区情報統括部からの提督宛の連絡であります。何せあのドルスハンテ・ドバーチェン大佐の作り上げた組織ですから、間違いないかと」

そう言われ、チャンスボート提督は黙り込む。

彼にとってこの作戦は余りにも胡散臭いものであった。

一部の派閥の独断専行。

確かに言われた通り、大統領の宣戦布告はあった。

だが、宣戦布告を聞いた限りでは、大統領の苦しい胸の内が感じられる。

恐らくハメられたとみるべきだろう。

本当にあの男は、詰めが甘いというか、大統領になって丸くなりすぎたというべきか。

そう思考し、かつての部下の顔を思い出す。

そう、大統領であるアルフォード・フォックスは軍に在籍していた一時期、チャンスボート提督の部下であったのだ。

だが、親友であるハートマンと共に軍を辞めて、政治の世界に所属し、今や大統領と副大統領だ。

かつては怒鳴りつけていた相手が今や上官である。

実に面白いとチャンスボート提督は心の中でニヤついた。

いいだろう。

かつての部下の為に一肌脱いでやろうじゃないか。

そう思考して渋い表情を崩し、ニヤリと笑みを浮かべて命令を下す。

「我らはこれより『目覚めの(ディタイテスエブァフアン)』作戦を変更し、独自の作戦を展開する。無線封鎖し、情報が外に漏れないようにしろ」

その命令を受け、副官もニヤリと笑う。

「了解しました。最後に第三艦隊宛に無線を送り次第、無線封鎖に入ります」

そして、第三艦隊に無線を送る。

『天候に大きな変化なし。お互いの武運を祈る』

その無線の後、第一艦隊は作戦海域を大きく迂回していく。

それは、まるでこれから起こることがわかっているかのような動きであった。


「無線来ましたっ。『天候に大きな変化なし。お互いの武運を祈る』です」

副官からの報告を聞き、第三艦隊の指揮官であるコルト・リキラーゼ提督はニタニタした表情を浮かべていた。

「そうか来たか」

その言葉と表情からは楽しくて仕方ないという感情が溢れ出していた。

そんな指揮官を見かねたのだろう。

副官がため息まじりに口を開く。

「楽しそうですね、提督」

その言葉に、リキラーゼ提督は即答した。

「応よ。あの糞生意気な連中の鼻を明かしてやれると思うとな」

その言葉に、艦橋スタッフの間から苦笑が漏れる。

「あの野郎に、あの時の恨みを晴らす機会が得られたんだ。こんなに楽しいことはないぞ」

嬉々としてそう答える上官に、副官が苦笑交じりで言う。

「まだ根に持っていたんですか」

「応よ。あの時の思いを、俺はずっと我慢してきたんだ。やっとだ。やっと仕返しできるんだ。こんなに楽しい事は他にはないぞ」

しかし、十年前に必死になって口説いていた好きな女をトラフック提督にかっさらわれた事を、ここまで根に持っているとは……。

相変わらずだな。

そう副官は思考する。

でも、そう思うのは無理のない事なのかもしれない。

妻として迎えたいと思うほど大好きだった女性が、他の男にかっさらわれたのだ。

面白いはずもないし、それで結婚でもすればまだ納得できたのかもしれない。

だが、トラフック提督はその女性を散々もて遊んだあと、使い捨ての玩具のように捨てたのだ。

その後、女性は心身ともに疲れ果て、田舎に帰って当時の知り合いや友人とは連絡も取れなくなったと聞く。

それ程の心の傷を負わされたのだろう。

それがわかっていたからこそ、いつかはと狙っていたのだが、階級が上がり、派閥が関係するようになり、時間が経つにつれて簡単に手出しが出来なくなっていった。

その鬱憤が、今、晴らされようとしているのだ。

テンションが上がるのは致し方ないのかもしれない。

だが、それはそれだ。

副官は、苦笑を引っ込めると口を開いた。

「しかし、提督、作戦は作戦です。私利私欲はほどほどにお願いいたします」

そう釘を刺され、リキラーゼ提督は渋い顔をする。

「わかっている」

そう言った後、リキラーゼ提督は苦笑して言葉を続けた。

「しかし、少しぐらいはいいだろう?」

まるで母親に許しを請う子供のような物言いに、艦橋内は爆笑に包まれた。

そして、そんな爆笑に驚いたものの、リキラーゼ提督も笑っていた。

もっとも、苦笑気味ではあったが。

そんなひと悶着があった後、第三艦隊も第一艦隊と同じように無線封鎖を行い、作戦針路を変える。

ゆっくりと転身し、後方の支援艦隊の方に向かって動き始める。

こうして第七艦隊の知らないところで作戦は大きく変更されようとしていた。



「敵艦隊がバンダルチ海に入ったとの報告が来ております」

その報告を受け、教団防衛艦隊の指揮官であるアンデサラーラ・リングルトス軍属大司祭はニタリと笑みを浮かべる。

「どうやら、うまくいったようだな」

「はっ。諜報部がうまくやったようですな」

「ああ、おかげでこっちはやりやすいというものよ。精々暴れて敵の目を引きつけるとするか」

そのリングルトス軍属大司祭の言葉に、副官は笑った。

「そうですな。我らがいる限り、教国へ無事に行けると思うなと見せつけてやりましょう」

「うむ。その通りだ」

そう返事をした後、リングルトス軍属大司祭は表情を引き締めて聞く。

「それで、教国本国艦隊のパラマーゼ提督は?」

「はっ。『こちらも位置についた。派手な花火が上がり次第、喰いかかる』と」

その言葉に、リングルトス軍属大司祭の引き締まっていた表情が崩れ、笑みが浮かぶ。

「そうかそうか。実に楽しい限りだ」

「我々の目的は、敵の上陸阻止だ。その為にも彼らには頑張ってもらわねばならん」

「そうですな。そして、その為には……」

「我々が派手に暴れるだけよ」

「各艦艇、すでに位置についております」

「ああ。各艦に伝えろ。『よく引き付けてからだ。焦りすぎるな』とな」

「はっ」

副官はそう言うと、指示を伝える為、無線手の所に歩いていく。

それをちらりと見た後、リングルトス軍属大司祭は浮かべていた笑みを抑え込む。

苦しい戦いになるのは予想できる。

恐らく敵は、二個艦隊以上の戦力で来る。

互角か、あるいは不利といったところだろうか。

だからこそ、地形を利用した最初の一手が重要になる。

焦るなよ。

そう願いつつ、リングルトス軍属大司祭は島陰に隠れ、戦場となる海域を見ていたのであった。



「セントパーナラ島の味方から無線です。『かなり大掛かりな艦隊がこっちに向かってくる』と」

その報告を聞き、トラビス・パラマーゼ提督はほっとした表情になった。

奇襲をかける為に大掛かりな艦艇による索敵展開をするわけにはいかない以上、各海域に点々とある島々に人員を派遣して警戒に当たらせるしかない。

だが、警戒できる範囲は限られており、もし発見できなかった場合はどうすべきか。

そんな心配があったためである。

「どうやら第一の賭けには勝ったようだな」

思わず出た言葉に、副官が同意を示す。

「はい。これで敵の支援艦隊の位置が把握できました」

「ああ。これでリングルトス軍属大司祭にも顔向けできるというものよ」

苦笑気味でそう言うパラマーゼ提督に、副官は微笑んだ。

「ええ。あの方の協力に報いなければなりませんな」

「その通りだ。それと教団防衛艦隊に連絡だ。『獲物を発見。タイミングは任せる』とな」

「はっ。ただちに」



こうして、合衆国と教国との戦いの準備は今まさに整いつつあった。

お互いに相手の動きを把握し、戦いに臨む。

そして、予想通りに進むはずだと思っていた。

そのはずであった。

しかし、現実は、そうとはならなかったのである。



読んでいただきありがとうございます。

今回から新章『合衆国 対 教国』編に突入です。

しょっぱなから艦隊戦の開始です。

艦隊戦を待っていた皆さま、お待たせいたしました。

待っていた分、楽しんでいただければ幸いです。

後、よければ、感想、いいね等の反応などをよろしくお願いいたします。

また、まだブックマークされていない方は、ブックマークもお願いいたします。

あとレビューなんかもうれしいかも。

よろしくお願いいたします。

最近、減る事はあってもなかなか増えることはないので、なかなか辛いのですよ。

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