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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十三章 合衆国、参戦

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宣戦布告

「大丈夫か?」

デービット・ハートマン副大統領が思わずそう声をかける。

その表情に浮かぶのは、心底心配しているという感情だった。

その顔を見て、アルフォード・フォックス大統領は苦笑を漏らす。

それは仕方ない事なのかもしれない。

なんせ、今朝鏡を見た自分自身が驚くほどだったからな。

昨日以上に目の下には黒々とした隈があり、顔色には生気がなく、疲れ切った表情をしていたからだ。

だが、それでもフォックス大統領の気分は落ち着いていた。

「大丈夫だ。もっとも、このままでは不味いからな。少しぐらいは誤魔化そう。メイク担当の者を呼んでくれ」

そう言うとニヤリと笑った。

その笑みを見て、ハートマン副大統領はため息を吐き出し、ほっとした表情になった。

「ああ。そうした方がいいみたいだな」

少し安心した顔でハートマン副大統領はそう言うと、すっと耳元に顔を寄せ、囁くように聞く。

「何があった?」

その言葉と表情から、心底心配してくれていた事がわかる。

「ああ、サミーに発破をかけられてな」

そう言ってフォックス大統領はポケットから何かを取り出して見せた。

それはドクトルト教の御守である。

もっとも、木製で手作りらしく、市販品のようにきちんとしているものではない。

どうやら彼の奥さんであるサマンサ・フォックスの手作りのようだった。

「お、おい……」

一瞬、まさかという感情がハートマン副大統領の顔に浮かぶ。

サマンサは教国の司祭にも知り合いがいるほど、ドクトルト教に深く関わっている信者でもあったからだ。

だが、ハートマン副大統領の顔を見てフォックス大統領は笑った。

屈託のない笑いだ。

「心配するな。別に宗教に逃避したわけでも、今日の布告をぶっ壊すつもりもない」

そして、表情が屈託のない笑みから力を抜いた微笑みに変わる。

「サミーが私も側にいるって言ってな。渡してくれたんだ」

「そうか……」

ホッとしたような顔でそう言うハートマン副大統領に、フォックス大統領は少し申し訳ないような表情になった。

「心配をかけたな」

「ああ。お前さんは大丈夫だと思っていたが、それでもな……」

「確かに。心配されても仕方ないくらいだったからな。だがな。サミーに言われたんだよ。『私の知っているアルフォード・フォックスは、やられたら倍返しで返す人だ。後悔するくらいなら、どうやってやり返すか考えなさいよ』って涙が浮かんだ目でこっちを見つめて、それでいてえらい剣幕でさ」

その様子を想像したのだろう。

ハートマン副大統領が苦笑する。

「ああ、彼女なら言いそうだ」

「だろう?」

そう言ってフォックス大統領は笑った。

確かに顔色は悪いし、隈も酷い。

だが、よく見ればその目はギラギラとしており、野獣のような獰猛さと、燃え上がるような活力の光があった。

久しく見ていない目だ。

「じゃあ、やるんだな?」

「ああ。もう後には引けない状況だからな。だが、このままで済ますほど、俺は落ちぶれてはいない」

そう言い切った後、ニヤリと笑って言葉を続ける。

「だから、手を貸してくれ」

その言葉に、ハートマン副大統領が笑う。

「勿論だとも」

その返事を受けて、二人は互いの拳を軽くぶつけ合う。

そして、そのタイミングを見計らったかのようにメイク担当者が入室してきた。

それを横目で見つつ、フォックス大統領は口を開く。

「じゃあ、少しでもマシに見えるようにしておくよ。だから……」

「わかってる。会場の準備はしておく。それと……」

「ああ。軍の方にも連絡だ。癪だけどな」

そう言うと、フォックス大統領は、メイク担当者と一緒にテーブルの方に歩き出した。

その前日とは違う自信のある態度と言葉に、ハートマン副大統領は目を細めてドアに向かって歩き出す。

やっと、以前のアルらしくなってきたなと思いながら。



二時間後、執務室から出てきたフォックス大統領は普段と変わらない様子を取り戻していた。

少し疲労感は残っていたものの、化粧で隈と顔色の悪さは誤魔化されている。

「どうだ?」

フォックス大統領が笑ってそう聞いてくる。

「まさに、ビフォーアフターって感じだな」

ハートマン副大統領は驚いた表情でそう呟くように言う。

その表情と言葉に、フォックス大統領はますます楽しげに笑う。

「そうか。それは良かった。で、準備は?」

「終わっている」

「なら始めようか」

そう言うと、フォックス大統領は歩き出す。

その歩みは、力強く、意志の力に満ち満ちていた。

だが、ハートマン副大統領はふと思う。

確かに愛妻家であるアルなら、サマンサから発破をかけられたのは大きいかもしれない。

だが、それでもここまで変わるだろうか。

もしかしたら、それ以外にも何かあったのではないかと。

だが、その思考を頭の隅に押しやる。

何があってもアルを支えると誓ったのだ。

だから、今はまだ考えなくていいと。

そして、思う。

やはり、アーサーときちんと話しておく必要があると。



会見場に向かいつつある大統領の後ろ姿を見つつ、クラバルンテ補佐官は内心ニヤついていた。

これでいい。

思った通りに進んでいる。

この会見、教国への宣戦布告によって、中間選挙は間違いなく大統領側の勝利になる。

それも大勝利だ。

そうなれば、今までのように色々手を回さなくてもスムーズに政策が動くし、より機動的に動けるという事だ。

それに宣戦布告する事で合衆国は中立という立場を失うものの、勝者側につく事が出来るし、教国解体を進められる。

もう中立という事に拘らず、合衆国の利益のために、もっと貪欲に動くべきなのだ。

中立の地位や調停者という地位は、フソウ連合に任せてしまえばいい。

合衆国は、もっと上を目指していかなければならない。

そうしなければ、合衆国は衰退していくだけだ。

だが、そんな思考の中、引っ掛かるものが二つあった。

まず一つ目はフォックスの態度である。

あれだけ渋っていた男が、一晩でこうまで変わるか?

開き直りともとれるが、それだけではない気がする。

それにもう一つは、アーサーの動きだ。

今、奴は何を狙って動いている?

秘密結社の幹部とはいえ、奴の思考は秘密結社のものではない。

つまり、結社の中では異質なのだ。

それ故に警戒が必要かもしれない。

いや、必要だろう。

このまま進めなければならない。

全ては、より良き合衆国の未来のために。




九月一日十一時。

合衆国政府は会見を行った。

多くの報道機関や関係者の前で、挨拶の後、合衆国大統領アルフォード・フォックスの会見が始まった。

その口調は実に淡々としたもので、感情に乏しいものだった。

ラジオでその会見を聞いていた者はそう感じただろう。

それに内容も、今までの合衆国の役割を説明したものだ。

それは誰もが知っている事ばかりであり、新しい事は何もない。

だから、その場にいた者、ラジオで聞いていた者達の多くが、教国への姿勢を説明する会見とばかり思っていただけに、肩透かしを食らったような感じになっている。

誰もが淡々とした口調での説明にうんざりした気持ちになっていた。

それは、裏方で話を聞いていた者達も同じだった。

だが、十分ほど過ぎた頃からだろうか。

口調が変わって来た。

感情が少しずつ籠ってきたと言ったらいいだろうか。

言葉に熱がこもってくる。

それは、合衆国の現状についての説明だ。

不況、クーデター未遂など。

それは合衆国にとってマイナスといっていい部分。

目を背けたい部分だ。

しかし、その部分から少しずつ少しずつ空気が変わっていく。

背けるな。

そう言わんばかりに。

そして遂に、話は客船リベラカート撃沈事件へと移る。

その頃になると、怒りにも似た感情が言葉の節々に滲み出ていた。

その熱気と感情の渦に、最初こそ面白くなさそうに聞いていた人々も話に引きずり込まれていく。

「確かに、この事件は、教国が実行したという確証はありません。しかし、教国の国旗を掲げた軍艦によって沈められたことは間違いありません。もちろん、我々はそれが間違いであると信じたかった。だが、今の教国の有様を見て、教国によるものではないと信じられるでしょうか? 国民や信者を暴力で弾圧し、人々を苦しめている現状で。もちろん、ドクトルト教そのものが悪ではありません。ドクトルト教は、人々に救済と安らぎを与えるものであるはずです。では、なぜ、こうなってしまったのか。それは全て、今の教国の上層部が腐敗してしまったからです。だからこそ、多くの人々の苦しみを救済しなくてはなりません。しかし、それは今の教国では無理です。なぜなら、常識ある人々が追い詰められてしまっているからです。もはや、外からの力で改革するしかないのです。そして、教国の常識ある人々が我々に助けを求めています。そして、我が国民の多くもそれを受け、手を貸すべきだと思っています。だから私は決心しました。教国を改革すべきだと。宗教は、政治権力を握っては駄目だと」

そこまで一気に言って、一旦ふーと息を吐き出すフォックス大統領。

その表情は、真剣であり、鬼気迫るものがあった。

そして、顔をより引き締めて宣言する。

「よって、我々合衆国は、教国へ宣戦布告し、現教国体制の解体を進めることを決定しました」

この演説でもっとも訴えかけるような口調と熱量。

それに激しさ。

それが人々を飲み込んでいく。

一瞬の間の後、それは歓声となって広がった。

会見場に響く歓声。

それはまるで熱に浮かされるかのような熱気があった。

そして、その様子を見ながら、フォックス大統領は心の中で思う。

もう後戻りはできないと。

後悔がない訳ではない。

だが、逃げることは出来ない。

なら徹底的にやってやろうじゃないか。

我らをハメて追い詰めた奴らにも思い知らせてやるために。



そして、その頃、トルスパータ島沖に集結した合衆国艦隊が動き出す。

教国侵攻の為に。

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