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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十三章 合衆国、参戦

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命令の声  その2

「ほら、隠れないで出ておいで。鼠ちゃんたち」

男のそんな声が響き、ゆっくりとこっちに近づいてくる。

だが、その行動に違和感を覚える。

これが魅了系なら、もう魔法が発動し、効果を発揮していてもおかしくない。

なのに、魔法は効果を発揮していない。

つまり、魔法を発動させる大まかな原因は声ではないという事か。

それに魅了系は、精神的に支配するものであり、さっきの光景は、精神的には支配されず、肉体のみを支配しているという感じだった。

そうでなければ、抵抗したり、あんな表情をしたりするはずもない。

声は、相手に指示を出すために必要なものであり、魔法を発動させる原因ではないという事だ。

では、何が原因で魔法は発動するのか?

「あら、恥ずかしがり屋なのかしら。でも無駄よ」

男はそんな事を言いつつ、また一歩、また一歩という感じでじりじりと近づいてくる。

まるで間合いを詰める様に……。

ちょっと待て。

それはつまり、条件が満たされない限り、魔法は発動しないという事か。

そして、何度もさっきの場面を思い出す。

声は指示を出す為に必要。

だが、あいつは最初に何をした?

そしてふと思いつく。

もしかして、あいつは対象を目で捉えないと魔法が効果を発揮しないのではないかと。

相手の姿を見る事で魔法が発動して、言葉で支配する。

ならば……。

「おいっ」

テーブルの陰で、口に咥えていた肉を噛んで咀嚼しているバンカンに小声で言う。

なんとか肉を飲み込むとバンカンは口を開いた。

「へ、へい、旦那」

顔は真っ青で身体は恐怖に震えてはいたが、こんな時でも食い物を大事にしているバンカンに思わず感心してしまう。

こいつ、意外と肝っ玉が据わってんじゃねぇのか?

いや、食い意地貼ってるだけか?

ふと、どっぢだろうかと思ってしまう。

いやいや、その確認は後からでいい。

そう思考を切り替えて言う。

「いいか。合図したら二人同時に飛び出すぞ。いいな」

「だ、旦那、それでいけるんですか?」

「ああ。いい手がある。任せておけ」

実は任せておけとは言えないが、それを顔には出さない。

こういう時は、自信たっぷりでないとな。

「ほ、本当ですね?」

「ああ。時間がないぞ。やるのか、やらないのか、どっちだ?」

「や、やります」

そう言った後、難波とち狂ったのかまるで恋する少女のようにじっとこっちを見て言う。

「騙したりしないでくださいよね」

「おい……」

可愛く言ってるつもりだろうが、むさ苦しい男がかわい子ぶっても気持ち悪いだけだ。

だから、無意識でそんな声が漏れた。

だが、それを突っ込むのは、生き残ってからでいいか。

そう考えて「ああ。騙したりしないぞ」と答える。

「本当ですよね?」

「本当だ」

「信じてます」

もう、なんかコントじみた会話になりかけていた。

ええいっ。うざいな。

しつこすぎるんだよ。

「よし。じゃあ行くぞ」

そう言って強制的に会話を区切る。

「え? ち、ちょっと、旦那っ」

「スリー、ツー……」

「あ、あ、ち、ちょっと……」

そんな声もお構いなく秒読みを続ける。

「ワン……」

「ゼロっ」

バンカンと同時にテーブルの後ろから飛び出して駆け出す。

しかし、それを待っていたのか、男の声が響いた。

「動くな。止まれ」

その声で、自分の意思を無視して、身体が動きを止める。

もちろん、バンカンの方もだ。

「えっ!? えっ!? えぇぇぇぇぇっ」

バンカンの口から声が漏れた。

だが、すぐに「うるさい。黙れ」と言われて声が止まった。

まぁ、そう叫びたい気持はわかるが、うるさいのはうるさいな、確かに。

そんな事を思ってしまう。

「本当にうるさいわね。でもまぁいいわ。そこの男。あのうるさいほうを殺しなさい」

男が命令する。

その言葉と同時に、自分の意思とは別の力が身体に働き、筋肉が動き出す。

必死になって抵抗する。

そのお陰か、じわじわとしか手は動かない。

それを見て、イライラしたのだろう。

「ええいっ。まどろっこしいわね」

男がそう言い、次の言葉を発しようとした時だった。

窓際で、バンという大きな音。

そしてシューという音と共に煙が立ち込めていく。

飛び出すと同時に、床に転がした発煙弾だ。

襲撃された際の逃走用に持っていたやつだ。

派手な音と煙で相手の意識を別に向けさせ、反撃したり、逃走するために用意していた。

いきなりの大きな音と煙。

「な、何っ!?」

男の視線が動き、音の方を向いた。

その瞬間だった。

身体を縛っていた力が消えた。

一気に解き放たれる肉体。

やっぱりかっ。

そう思いつつ、持っていた拳銃を男の方に向けた。

慌てた男が視線をこっちに向け直して口を開こうとする。

だが、それよりも長年の訓練で無駄のない身体の動きの方が速かった。

パン、パン、パンっ。

立て続けに三発撃ち、カウンターの後ろに転がり込む。

バンカンも魔法が解けたのか、そのまま裏の方に駆け出す。

「くそっ、よくもっ」

カウンターの後ろからうかがうと、男が肩を押さえてこっちを鬼のような形相で見ている。

声と表情には怒りという感情のみがこれでもかというほどたっぷり塗りたくられていた。

どうやら、三発の内一発が肩を撃ち抜いたようだ。

出来れば仕留めたかったが、まぁ、良しとしておくか。

さて、次はどうするか……。

そう思考し始めていると遠くから聞こえてくる警察のサイレンの音。

「ちっ」

男は舌打ちし、今一度こっちを睨みつけると破損した窓から飛び出して車に乗り込む。

どうやら、逃走する様だ。

まぁ、恐らくだが、目的であるターゲットは始末したからな。

時間がない以上、そうするだろうな。

そして車は走り出していく。

その走り去っていく車を見つつ、息を深く吐き出した。

どうやら、何とかなったな。

そんな中、どんどんと近づいてくるサイレン。

流石にまずいな。

そう判断し、バンカンに声をかける。

「おいっ、バンカンっ」

「へ、へい。旦那」

「こっちもずらかるぞ」

「合点でさあ。で、どうしますか?」

「三時間後にいつもの場所だ。いいな?」

「へいっ」

そしてバンカンは駆け出していく。

どうやら裏から逃げ出すつもりのようだ。

おっと、こっちもさっさと離れないとな。

そして、割れた窓を飛び越えて走り出す。

捕まったら面倒ごとになってしまうからな。



「『T』が暗殺されただと?!」

「はい。護衛の二人と共に……」

そう言われ、『C』であるアンデルセン・C・クークラックは驚きの声を上げた。

そして、すぐ聞き返す。

「確か、十傑のゼンとジィブンの二人が付いていたはずだが……」

「二人とも殺されました。それも、とんでもない事がわかっております」

報告者はそう言って報告書を手渡す。

アンデルセンはそれを受け取り、目を通していく。

そして、全てを見た後、口を開いた。

「つまり、護衛の二人が『T』を殺して、お互いに撃ち合ったと……」

「はい。そのとおりです。それも一人の男が命じた結果らしいです」

「間違いないのか?」

「はい。目撃情報から間違いございません。それと、この男、例の男のようでございます」

その言葉に、アンデルセンは黙り込む。

例の男。

恐らく、裏教団のシャドウの襲撃を一人で返り討ちにしたやつという事だろう。

それに、その際に使われたのは魔術的なものなのだろうという事もわかる。

多分、魅了系ではないだろうか。

しかし、相手を操る魔法というのは厄介だ。

あの『災厄の魔女』とまではいかなくても、それに近い力があればとんでもない事になる。

どう対策すべきか……。

そう思考するアンデルセンに、報告者は言葉を続ける。

「それと、もう一つ」

「何か?」

「実は、その後、その男を撃退した者がおります」

その言葉に、アンデルセンは驚く。

まさかという感情が全てだった。

だが、それと同時にその者の正体も気になった。

魔術を打ち消し、倒せるほどの手練れ。

それも結社でもなく、恐らく裏教団とも違う勢力。

十傑を簡単に操る化け物。

それを撃退した者。

放置するには余りにも危険というべき相手だ。

「ふむ……」

そして、アンデルセンは口を開いた。

「すぐに情報を集めよ」

「了解しました」

「それと、ツェーンとアハトはどうなっている?」

「はい。手を尽くしてはいますが、まだ何もつかめていないそうです」

その言葉に、アンデルセンは舌打ちをする。

何をやっているのだ。

その結果がこれだ。

だが、ここで愚痴っても、二人を叱咤してもどうにかなるはずもない。

「仕方ない。フェンを使え」

その言葉に、報告者は驚きの表情になった。

十傑の中で最も危険な人物と言われている者である。

「しかし、あの者は……」

「わかっておる。だが、背に腹は代えられん」

「……了解しました。すぐに手配します」

報告者はそう言うと礼をして退室していく。

その後ろ姿を見つつ、アンデルセンはため息を吐き出した。

そして呟く。

「早く参戦させねばならんな」



とある建物の地下室。

その部屋は頑丈な鉄の扉で施錠されており、扉には、蛇がのたくったような文字がびっしりと書き込まれている。

そして、周りの壁にも似たような文字が書き込まれていた。

挿絵(By みてみん)

その扉の前には、金髪のショートカットと赤髪のセミロングの女性二人の姿がある。

ツェーンとアハトである。

「ふう、気が重いわ」

そう言ったのは、金髪の方だ。

「仕方ないでしょ。ツェーン。命令だもの」

「でも、アハト……」

それでも嫌そうな顔をするツェーン。

「頑張ろう、頑張ろう。今度、ケーキ一緒に食べに行ってあげるから」

そのアハトの言葉に、ツェーンは目を輝かせる。

「本当?」

「ええ。本当よ。それでいいでしょ?」

「うんうん」

そして、アハトがポケットから鍵を取り出して、鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。

ガチャリ。

重苦しい解錠の音が響く。

そして、アハトはゆっくりと扉を開けた。

そこは豪華な部屋だった。

見るからに高級そうな家具と、壁を覆い隠すように広がる本棚。

だが、窓はなく、奥にあるのも恐らく寝室などに繋がる扉だけだ。

つまり、豪華な佇まいではあるが、牢獄独特の雰囲気がある。

「いやぁ、待っていたよ、二人とも」

豪華な部屋の中央にある長ソファの上でだらりと寝そべっていた白い髪の女が、上半身を起こすとケラケラと笑って言う。

人をからかう様な口調と態度に、アハトとツェーンの表情が固まる。

感情を押し殺すかのように。

しかし、黙っているだけでは進まないと思ったのだろう。

「『C』様からの命令よ」

アハトがそう言うと、白い髪の女、フェンは笑った。

「『C』の爺様からかい。ああ、わかっているよ。裏教団の暗殺者の行方を捜しているんだろう?」

「そうだ。わかっているなら……」

アハトがそう言いかけると、フェンはニタリと口角を吊り上げる。

「まぁ、待ちたまえ。そう急ぐな。なんせ五年もここに閉じ込められていたからな。情報を集めさせて欲しいものだ」

そして、身体を打ち震わせる。

まるで新鮮な空気を吸う様に。

そして、口を開いた。

「なんせ、今知っているのは、君達の思考だけだからな。もっと多くの思考を知らなければ、相手は探し出せないのだからな」

ちっ。

その言葉に、アハトが舌打ちをする。

それを楽しげに見て、フェンは益々楽しげだ。

「ああ、すまないね。勝手に思考を読んだことは謝るよ。なんせ、五年ぶりの同類の思考だからね。実にたまらなくなってしまってな。……ああ、やはり人の頭の中はいい。あはははは」

甲高い声が響き渡る。

それは、アハトとツェーンの精神をかき乱す雑音のように聞こえた。

そして二人に、これから始まる苦労を嫌というほど予感させるには十分だった。



いつも読んでいただいてありがとうございます。

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また、もしブックマークとか評価がまだな方は、そちらもよろしくお願いいたします。

作者の更新へのモチベーションUPに必要不可欠な補給要素の一つですw

どうぞ、潤沢な補給をよろしくw


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