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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十二章 壊れていく世界

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見えない戦い

「以上が報告となります」

手渡された資料と口頭での報告を聞き、ドバーチェン大佐は溜息を吐き出した。

客船リベラカート襲撃事件の件についての報告である。

かなり巧妙に偽装されており、尻尾はなかなかつかめない。

だが、それはまったく無理だという事ではない。

どこかしら漏れるものなのだ。

もっとも、それを表ざたに出来ないようにする事で、秘密が守られている場合が多いのである。

だから、やり方はある。

だが、ここにいては打てる手は少ない。

やはり本国に戻らなければならないか。

出来れば、こっちでもっとやりたかったが、それは限界がある。

それを再確認したのだ。

「それで、戻る手はずの方はどうなっている?」

その問いに、部下が答える。

「はっ。明後日の早朝出発する便を手配しました」

「そうか」

そう言った後、ドバーチェン大佐は苦笑する。

「今度こそ巻き込まれるのはごめんだからな」

思わずそんな愚痴が漏れる。

その愚痴に、部下が笑った。

「しばらくは大丈夫でしょう。教国も合衆国も互いに牽制しあっている状況です。下手な事はしないでしょう」

「だといいんだがな……」

その言葉に、部下は苦笑する。

上司の悪運の強いことを思い出したからだ。

だが、すぐに表情を引き締める。

「あと、合衆国政府の動きですが……」

「どうやら、尻に火がついて追い詰められたか」

「はい。どうやら世論の勢いに押される形で、教国への宣戦布告を行い、軍を動かす様です」

その言葉に、ドバーチェン大佐は苦虫を潰したような顔になった。

これで世界は大きく二つに分かれたという事だ。

フソウ連合、王国、共和国、帝国、合衆国という陣営と、連盟、教国、サネホーンと言う形に。

これで中立という国はなくなった。

それは裏を返せば、戦争を押しとどめる、或いは休戦、講和を導く勢力が無くなったことを意味する。

勿論、これらの国以外の国もある。

アルンカス王国とルル・イファン人民共和国がそれに該当するが、この二ヵ国はフソウ連合と歩調をあわせており、また中立であったとしても、休戦を導いたり、講和を持ちかけるほどの力はない。

つまり、今までの戦争と違い、下手をするとどちらかが音を上げるまで戦いは続く恐れすらあった。

「不味いな……」

だが、今更動いても遅いだろう。

ならばどうするか……。

出来る限り火の粉がかからないようにするしかない。

「この件に関しての情報収集と共に、今回の合衆国の動きに対する各国の反応の情報を集めておけ。それと諜報組織等の動きもだ」

「了解しました。それで、大佐はこの後は?」

「今日はもう上がる。後、明日はリベラブックの社長と会ってくる。今後の動きに関しての事もあるしな」

その言葉に、さっきまで張りつめていた部下が優しく微笑む。

「御令嬢も待っておられるみたいですからな」

その言葉に、ドバーチェン大佐は苦笑した。

その表情には、どこまで知っているのだという感情が滲み出ている。

その表情を見つつ、部下は言う。

「ご命令はありませんでしたが、秘密裏に匿われている以上、警戒と保護の為に信頼できる部下を回しておりますので」

要は、護衛からの報告で分かったという事なのだろう。

「秘密厳守だ。しっかり頼むぞ」

「わかっております。あんな女の子をマスコミ(ハイエナ)どもの餌食にはさせません」

そうはっきり言い切る部下に、ドバーチェン大佐は満足そうに頷いた。

こいつがここまで言うのなら、問題ないだろうと。

そしてふと思い出す。

「そう言えば、何でもフソウの映画が流行っているらしいな」

「はい。観劇に比べれば手軽な価格で、気楽に楽しめる事からかなりの人気となっております」

「それで、今公開中のやつは何と言う奴だ?」

そう聞かれて、部下が少し考えこんだ後、答える。

「王国で公開されているのは、十二作品です」

「ほう。そんなにか」

「はい。演劇と違い、演目の切り替えに手間取りませんから、一つの劇場で二~三作品を時間を決めて公開しているようです」

そう答えた後、部下が怪訝そうな顔になる。

今までこういったエンターテインメントの事を聞かれたことはなかったからだ。

興味深々といった感じの部下の視線を受けて、ドバーチェン大佐は苦笑する。

「いやなに、お嬢さんに私が映画の主人公みたいと言われてね」

そう言われて、そういうことかと部下は納得する。

「なるほど。でしたら、見られたのは『私が愛したスパイ 異国から愛をこめて』ですな」

どうやら部下はその映画をすでに見ていたようだ。

実に楽し気に言う。

その様子に、ドバーチェン大佐は聞き返す。

「面白いのか?」

「はい。とても楽しめました」

恐らく見た時のことを思い出したのだろう。

まるで子供のように楽し気に笑っていた。

その様子に、ドバーチェン大佐は少し驚く。

普段とは違う反応だからだ。

普段の彼は、どちらかと言うと真面目で神経質な印象が強かったし、こんな表情をすることはなかった。

だからだろうか。

興味が湧いた。

勿論、アメリアに言われた事で気にはなっていた。

しかし、気になるだけだったのだ。

だが、部下のこの反応に興味がより強くなる。

この後の予定はなかったな。

「すまんが、その映画をこの後見られるか?」

予想外の言葉に、部下は驚いたものの、「すぐに調べてきます」と退室し、十分もしないうちに、市内の劇場で二時間後に見られますという報告をする。

「そうか。話のネタに見てみるか」

アメリアとの話題にもいいだろう。

そんな気持ちもある。

だからそんな言葉が漏れたのだ。

その言葉に、部下は「ではすぐにチケットの用意と足を準備いたします」と言って駆け出していく。

それは仕事の時のような落ち着きはなく、ただ自分の好きなものを相手に知ってもらえるという喜びに満ち満ちていた。

「あ、急がなくてもいいぞ」

「いえ。チケットは直ぐに完売しますので」

そう言って駆け出そうとする部下。

だが、すぐに立ち止まって、言う。

「あと、よろしければ、後で感想なども……」

その勢いに押され、ドバーチェン大佐は頷くしかなかった。


挿絵(By みてみん)

そして、映画を見終わった後、ドバーチェン大佐は迎えに来た車と合流する。

すると、車の中で待っていた部下がわくわくした様子で聞いてくる。

「いかがでしたか?」

その問いに、ドバーチェン大佐は頷く。

「面白かったぞ。しかも、ああいう事を考えるとはな。確かに少し誇張の部分はあるが、かなり現実の諜報寄りだったな。それにだ。あの変わった武器の数々。あれが実用化されているのなら、ぜひ我々にも欲しいと思わせるものばかりだったぞ」

斬撃や弾を防ぐボディアーマー、小型ながら拡張する事でライフルに近い形状にまでなる拳銃、小型無線機、水上を進むことのできる水陸両用車。

実にアイデアに富んでいるし、もしあるとすれば、とんでもない戦力になるだろう。

すると部下が「そうなんですよ」と相槌を打つ。

実に楽し気だ。

そして、早口で話し始める。

「ああいうのが出るだけでもいいのに、主人公がすごくかっこいいんですよ。それに、そこに出てくる美女。東方の美人が実にクールでかっこいい。それでいて、甘えてくる感じが……」

映画の感想をしゃべりつつ、内容を解説し始める。

その勢いに、ドバーチェン大佐は圧倒される。

そして思うのだ。

フソウ連合め、とんでもないものを作りやがったな。

これは下手な洗脳より質が悪いと。

なお、後にフソウ連合の諜報部とコンタクトを取る事で知る。

ボディアーマーも、拡張性の高い諜報部専用の拳銃も、小型無線機も、水陸両用車も、すでに実用化されていることを。

そして、ますますフソウ連合恐るべしと認識するのであった。



合衆国が教国に対して宣戦を布告する動きがあるという報告。

その報告に、老師は激怒していた。

「ええいっ。結社の連中めっ」

老人は忌々しそうに持っていたグラスを壁に投げつけた。

派手な音をたててグラスは粉々になり、中の液体は壁を濡らす。

白い壁に赤い色の液体が残る。

それはまるで血のような赤。

それを見てその場にいた者全員がぞくりと背筋を震わせた。

それに構わず老師は言葉を続ける。

「それに上層部も上層部だ。なんだあの回答はっ。喧嘩を吹っ掛けているのと変わらんだろうが。もう少しまともな反応は出来ないのかっ」

我慢できなくなったのか、テーブルにのっていたものを全て叩き落とす。

激しい怒りはそれで収まるはずもない。

だが、誰も止められないでいた。

今口をはさめば何を言われるかわからないからだ。

彼らは、老師が切れた時の無慈悲さと残酷さを知っている。

いくら恩があるとはいえ、自分の命は守りたい。

なんせ、自分の命を懸けてまで仕えようという者はそうそういない。

実際、卿といわれる懐刀的な男でさえ黙り込んでいる。

普段なら止めに入るだろうが、教国内に入り込んでいる結社の犬と反対派の動きに手を焼かされており、いい成果を出せていない為である。

結局、今は嵐が過ぎ去るのをじっと待つしか手はないと誰もが思っていたのであった。



そして、三十分後。

やっと気が収まったのか、老師はぎろりと並んでいる男達を見る。

「いいかっ。今すぐに今回の騒動が連中の自作自演だという証拠を集めて来いっ」

「し、しかし、今からでは間に合いませんし、連中も手を打っております」

思わずといった感じで言葉を口にする一人に対して、ぎろりと睨みつけて言う。

「確かに遅い。だがな、完全に消すことは出来ん。それに、連中の姿をあぶりだすのだ。そして合衆国の国民に知らしめるのだ。政府を牛耳る連中がいるのだとな」

今までは、ただ互いに裏でつぶし合ってきた。

だが、政府を動かして国として潰そうとしているのだ。

ならば、徹底的に潰し合ってやる。

そういう思いがあったのだ。

「いいのでしょうか?」

思わずといった感じの言葉が漏れる。

だが、それを老師はせせら笑った。

「構うものか。連中の秘密のベールをすべて剥ぎ取り、晒してやる」

その言葉に男達は頷くしかない。

そんな中、一人の男が口を開く。

「証拠集めや準備には時間がかかります。ですので、まずはこういうのはいかがでしょうか?」

そう言って話し出したのは、二流、三流の雑誌や新聞を使って、陰謀論を広める事だ。

証拠が揃ってはいない。

しかし、疑問を投げかけ、その答えを知りたがっている者達を、自分達に都合のいい答えに誘導するという方法で、そうやってある程度の下地を作った後、証拠を使って一気に広げて追い詰めるというやり方であった。

「面白い。早速その線で進めよ。それと証拠集めも進めるのだ。いいな」

「「「はっ」」」

男達がそう答えて姿を消していく。

その様子は、納得したからと言うよりも、今すぐにでもここを離れたいという意思が強くにじみ出ていた。

だが、それを老師は気付かない。

まだ燻ぶっている怒りと憎しみが、揺らぐ炎のようにそれらを歪ませて見せていた。

だからである。

最後に卿と呼ばれる男が立ち去る際に、ちらりと老師を見る。

その瞳には複雑な色があった。

このままではいけないという危機感。

しかし、今の現状ではどう言っても角が立つ。

そして、今の自分の置かれている状況を考えれば何も言えないのだ。

ふぅ。

息を吐き出し、卿は立ち去る。

自分のやるべきことをする為に。


いつも読んでいただいてありがとうございます。

後、感想やリアクションいただけるとありがたいです。

また、もしブックマークとか評価がまだな方は、そちらもよろしくお願いいたします。

あと、レビューもお待ちしております。

それらは、作者の更新へのモチベーションUPに必要不可欠な補給要素の一つですw

どうぞ、潤沢な補給をよろしくw


なお、作品内に出てくる映画は、以前次回映画作製の脚本募集の際に川見大佐が出した脚本がベースになっております。まぁ、○○7シリーズみたいなやつですわw

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