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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
私設鉄道の勃興

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高窪炭田とトロッコ鉄道

明和7年7月3日 出雲三刀屋 高窪炭田


 松江藩主松平出羽守治郷公は、提言を受け入れ山師を動員し三刀屋の高窪周辺を探索させると宣言したが、その結果が出るまで私を松江城に事実上軟禁しやがった。


 全く迷惑なことこの上ないが、治郷公(あのオッサン)は松江藩の財政好転に必要不可欠と駄々を捏ねて放してくれない。


 結果から言えば場所を最初から特定していたことと山師を動員したことであっさりと炭田が見つかったのである。だが、それが更なる治郷公(あのオッサン)の我儘を助長する結果となったのだから頭を抱えることになったのである。


 その我儘のために三刀屋の山中くんだりまで出掛ける羽目になったのだ。人はそれを強制連行という。


「この炭田は露天掘りで採掘できるそうじゃな。坑道で採掘するより面倒が少なそうじゃの。」


「左様でございますな。ですが、斯様な山中からの輸送でございますから、それが問題かと……。」


「じゃが、斐伊川が至近にあるのだから例の蒸気曳船で輸送すれば良いのではないか?」


 また始まったよ。先日駄目だって言ったのに、まだ諦めていないらしい。


「蒸気曳船は水深が浅いので使えぬと申しました。諦めてくださいませ。」


「じゃがのう……。」


「駄目でございます。他の手段をお使いください。」


「では、どうするのが良いとその方は申すのか?」


 まぁ、この時代で考えられる方法なんて相場が決まっているわけだが……。トロッコ鉄道を勧めるしか無いわなぁ。


「ここよりトロッコ鉄道を斐伊川まで建設し、川船で宍道湖まで運び、そこから蒸気曳船という段取りが現状では適当かと存じます。」


「トロッコとはなんぞ?」


 しまった……。川越藩領の秩父鉄山では実用化しているが、まだ未知の存在だった。


「後日、現物を用立てます故、その際に詳しくはご説明致します。今は簡単に申しますが、大きな唐櫃に車輪を付け、鉄道馬車用の線路の上を移動させるものだとお考えください。」


「そのようなもので運ぶのか?」


「秩父鉄山で使用しておりますものでは、10人が担ぐ量を一度に運べまする。」


「なんと。左様なものがあるならば是非導入したい。早速用意せよ。」


 実際に使うところを直に見せた方が早いな……。


「松江藩から山師と鉱夫を数名ずつ秩父鉄山へ派遣していただき研修を受ければよろしいかと。実物の用意などはその後に……。」


「うむ。よきにはからえ。」


「お任せください。では、某はこれにて江戸へ戻りまする。」


 治郷公は満足そうに頷き、土産に不昧公好みと後の世に伝わる和菓子を持たせてくれた。まぁ、日持ちしないからすぐに食べないといけないから土産にならないのだが……。

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