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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
私設鉄道の勃興

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このままじゃ成仏できない!

明和6年12月1日 武蔵 赤羽-川口荒川鉄橋


「さすがに河原の吹きっ曝しは寒い。」


 懸案であった荒川鉄橋の工事現場に到着した私はそうつぶやくと外套(オーバーコート)の襟を立てて工事指揮所へ向かった。


 いくら雪国に分類される山陰生まれとは言え、関東の冬の寒さは堪えるものがあるといつも思っているが、今日は殊の外寒さが厳しい。こういう時はさっさと暖のある指揮所でぬくぬくするに限る。


「お奉行、関東代官の伊奈忠敬殿がお待ちです。」


 指揮所天幕の前で与力の沢村新之丞が声をかけてきた。彼は鉄道奉行配下の与力として最近配置された旗本の三男坊だ。


 彼は義弟の神庭幸太郎と源ちゃんこと平賀源内を鉄道建設の代官として川越藩領に派遣しているため人材不足に陥ってた私が老中に掛け合って引き抜いた部屋住み連中の一人だ。


「伊奈殿とは約束をしていないが、突然何用であろうか。」


「御用向きは関東代官引き継ぎによるご挨拶ということですが……。」


「相分かった。」


 心なしか先程よりも風が強くなってきたことが突然の来客による波乱を予感させる気がしてならない。


「有坂民部でござる。お初にお目にかかりまする。」


「突然の訪問、平にご容赦を。伊奈忠敬にござる。先日、義父が逝去し、関東代官を引き継ぐこととなり此度ご挨拶に参った次第。」


 まだ喪が明けていないであろうに一体どういう魂胆であろうか?


「伊奈殿には斯様な場所までお越しいただき、かたじけなく思うておりまする。」


「お気づきでありましょうが、挨拶は建前にて……。早速本題に入らせていただきとうござる。」


 やはり面倒事だな……。


「関東代官という職制は御存知の通り、関東における天領の行政を担っておりましてな。それが故に此度、面倒事を抱える始末と相成りまして……民部殿に御迷惑をお掛けする次第。」


「御老中方には面倒事の押し付け役という扱いを受けております故、慣れっこでござるが、その面倒事とは?」


「鉄道建設に関わる問題でありましてな。越後屋などが関東の天領における敷設権を寄越せと、まぁ、こう言ってきておるわけで……ほとほと対応に参っておる次第でござる。先代関東代官の義父もここ数ヶ月、この問題で随分苦労しておりまして、心労が祟った末に……。」


「それは、なんと申したら……。」


「故に、代替わりした今、この問題に決着を着けるべく民部殿と協調し事に当たりたいと考えまして、諸々の事情よりも優先して参った次第でござる。」


 要するに、越後屋などの突き上げに付き合いきれんからなんとかしろ……ってことだよな。まぁ、わかっちゃいたけれど、連中の突き上げというか不満は相当なもんだったということか。


「相わかり申した。元はこちらが独占したことによる弊害。連中の不満解消にお力添え致しまする。」


「それを聞き、安心致した。亡き義父への何よりの供養となりましょう。」


 伊奈殿は心底安心した様子である。そこまで苦しんでいたのかよ……と心の中で思ったが黙っておくことにした。

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