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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
B列車で行こう!

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幕府の対応

明和6年3月10日 江戸城


今年は年始からイベントが多い。今まで気付かずに立ててきたイベントフラグが一気に回収された感すらあるこのイベントラッシュに少々目眩がしている・・・。


幕臣になってみたり、老中共に無茶難題を押し付けられたり、長州が蠢動したり、挙句、結奈が妊娠した。もうじきこの世界に来て3年目に突入するが、この世界は予想だにしない具合に歴史が加速してしまった。最早、この時流を止めることは出来ないんじゃないかと最近は思うし、結奈と話し合った結果、止める努力は最早無意味だと諦めるに至った。


そんな状況で、今日は老中連、田沼公と共に長州の動きについて協議するため集まった。正直なところ、鉄道奉行である私がここに呼ばれている事自体、本来はおかしいのだが、何故か呼ばれている。ついでに言えば、彦根藩主井伊左近衛中将直幸殿が15年も早く大老に就任してここに居たりする。原因は長州藩の不穏な動きが原因なのは言うまでもない。


「先日、知らせた通り、御庭番からの報告によると長州藩に不穏な動きがあるという。山口へ無断で藩庁を移動させつつあること、沿岸に台場を整備しつつあることである。」


「台場程度ならば兎も角、山口への無断で藩庁移転をさせるなど一国一城令に反する。処分すべきであろう。」


「いや、しかしだな周防殿、処分と断ずるには些か性急であろう?まずは詰問使を送り、長州の動きを見るべきであろう。」


「伊予殿はそうは言うがな、そなたの製鉄所から運ばれた鉄が用いられておるのは間違いなかろう?」


「それは越後屋の致すこと故、当方が介入できることではござらぬ。」


「右京殿は如何に思う?」


「判断すべき情報が足りぬと思いますぞ。」


見事に老中の考えはバラバラだ。右近様は老中首座であるため議長役であることを考えれば、現状では急進派:穏健派は1:2といったところか・・・。問題は大老の井伊左中将殿、彼の意見次第では拮抗して平行線になりかねんが・・・。


「儂は藩庁移転くらいならば許してやっても良いと思うが、萩城の破却、新城築城の不許可、陣屋ならば許可というところが落としどころであろうと考える。どうじゃ?」


「福島正則の改易という事例がありますれば、前例に従うべきかと。」


「しかし、相手は台場の築造など戦の準備もしておるぞ?それに対し、我らは戦の準備など全くしておらぬ。強硬策を論ずるのは容易いが、諸藩がそれに賛同してくれるとは限らぬぞ?まして、どこも藩財政は火の車じゃ。我が彦根藩とて、幕命とあらば出陣するは吝かではないが、無い袖は振れぬ。」


さすがに会津左中将と官位上昇合戦繰り広げて財政悪化させてるだけあって、不可能なことは出来ないと言ってくる辺り現実主義者だなぁ。意次公はさっきから黙って推移を見ているが、どう考えておるのかな?


「主殿様は如何お考えでしょうか?」


「民部よ、儂は上様の代理としてここにおる故、軽々しく発言は出来ぬ。だが、儂個人としては左中将殿に同意する。そちはどう考えておる?」


「部外者である私がここにいる事自体が如何なものかと思いますが・・・。明らかに職域を越えております。」


「態々呼んだのは、そちの職域に関するからじゃ。そちの考えを申せ。」


厄介事をまた・・・。困ったな。情報が少なすぎて適当な応答が出来ない。


「今、掴んでいる情報は山口移転、台場築造、鉄道建設の三点であり、その規模などを含めて不明であるため適切な判断を下すには些か難しいと考えますが・・・。」


「なんじゃ、申してみよ。」


「恐らく、長州藩は製鉄所を自前で建設し、それを元に大砲の製造などを進めるであろうと推察されるということでございます。台場を造っても肝心の大砲がなければただの陣地でしかありません。そして、萩城の存廃は然程問題にはなりませぬ。長射程の大砲があれば萩城程度の城は砲撃で潰すことが出来るかと。」


「ならば、この問題をどう解決する?」


「本件の重要な部分は製鉄所と鉄道であり、それ以外は無視しても幕府にとっては然程影響はありませぬ。もっとも、一国一城令の兼ね合いもありますから、山口移転を認める代わりに萩の廃城をさせるべきではありましょうが、製鉄所の設置禁止をなさねば禍根を残しまする。」


そう、製鉄所を破却させ、製鉄そのものを禁じなければ長州の凶悪化は100年早まる。そんなことになれば長州だけで倒幕が可能になるだろう。なにせ、正月ごとに倒幕の準備が出来ました!さぁ、江戸に討ち入りましょうぜ!なんてやらかしてるテロリストどもだ。キチガイから刃物は取り上げるに限る。


「民部の考えはわかった。お庭番の第二陣が戻り次第、再度会合を持った上で、詰問する。基本方針は移転中止せねば萩廃城、また製鉄所の設置禁止とする。左中将殿、本件の詰問使として毛利左少将の元へ参っていただけるか?」


「承ろう。右近殿、全権はいただけるのであろうな?」


「お任せ致す。」


このあたりが落としどころであろうが・・・さて、長州はどう動くであろうか?

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