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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
B列車で行こう!

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幕府直営鉄道

明和6年1月7日 江戸城


今日は登城日。老中に会って今後の鉄道建設を話し合う予定。その後、例の献金問題の後始末をするため勘定奉行、南北町奉行、普請奉行とそれぞれ会合・・・。


結奈の機転で贈収賄スキャンダルを回避できたとは思うのだけれど、なにせ黒幕がわからない以上、三井を注視しつつも敵対しそうな大名、幕府官僚、旗本の目星をつけていかないといけない。まったく、なんだってこんな面倒なことに巻き込まれてるんだか・・・誰のせいだ責任者出てこい。


「有坂民部、罷り越しました。」


「「「おぉ、待っておったぞ。」」」


「正月早々、ご苦労であったな。」


「ご老中方にはご心配をお掛致しました。」


この場にいるのは、老中首座館林藩主松平右近衛将監武元殿、高崎藩主松平右京大夫輝高殿、岡崎藩主松平周防守康福殿、福山藩主阿部伊予守正右殿の四人。残念ながら、半年後には阿部正右殿はあの世に旅立って脱落されるけれども・・・。


「先にお知らせ致しております通り、正月早々、大店衆からの常軌を逸した献金がありました故、私の職権で幕府への上納という形を取りまして、備蓄米の購入に充てました。また、後日、追加での献金、物納がありましたが、同様の処置を。」


「流石に1万両とは度が過ぎるの。まぁ、そなたも上様と田沼主殿の口添えで登用された故、今後も気をつけることじゃな。幸い、ここにおる面々は主殿と歩調を同じくする同志、困ったことがあれば相談に乗ろう。のう伊予?」


「左様でござる。この阿部伊予、民部の助勢で藩財政を立て直した義理があるでな、儂と福山藩を頼られよ。」


「右近様、伊予様の仰せ誠に有難く。」


「して、民部よ、本題の鉄道建設じゃが、新橋~品川の効果を見るに急務と考えるが、他の予定はどうじゃ?」


「只今準備しております路線は日本橋~新橋、日本橋~大手門の2路線ですが、優先すべきは日本橋~新橋でありましょう。また、主殿様の国元、相良で実証しております蒸気機関車ですが、量産が可能になりましたら新橋~品川に投入を予定しております。これにより馬車鉄道の倍以上の速度で走り、倍以上の物量を捌けるようになりましょう。また、八王子~品川、川越~上野も検討しております。」


「八王子~品川は幕領であるから問題ないが、川越は川越藩領じゃ、左様な勝手な真似は出来ぬであろう?」


話に乗ってきたな。そう、ココが肝心要。幕領の敷設権は我が職権にあるが、他藩領の敷設権は幕府にはない。元々川越藩はこれから殖産興業で伸びてもらう存在。そして、秩父の鉄を輸送するには水運も重要だが、鉄道が最適だ。そして、北関東の物資集積には川越や途中の大宮が重要になる。ここを発展させるのには両方を使うべきだ。


「右近様の館林藩、右京様の高崎藩、ともに利根川水系の水運の利を受けておりますね?」


「左様である。江戸への廻米や野菜などの出荷だけでなく、絹などの繊維もこれを用いておる。」


「しかし、天候に左右させますな?そこで、川越、大宮を中継点として整備するのです。いずれは館林、高崎まで路線を延伸いたしますが、それには莫大な資金が必要であります。また、鉄道には多量の鉄が必要。これを増産する施設が肝心要。故に、物資集積地としても鉄道事業の拠点としても、両所までの延伸が必要なのであります。」


「必要性はよく分かったが、何故、川越・大宮~上野なのか?」


「単純な話でございますよ。まとまった土地がないからです。ですので、当面、利便性を無視し、新橋~日本橋~上野は馬車鉄道で代行輸送をし、上野から蒸気鉄道規格の線路を大宮へそして川越へと延ばします。」


「上野以北は馬車鉄道ではないのか?」


「蒸気機関車が揃うまでは馬車鉄道で構いませんが、線路規格は蒸気鉄道規格で行い、数が揃いましたらすぐに蒸気鉄道に切り替える所存。川越藩領にて発見されましたる鉄鉱石を江戸へ運ぶには馬車鉄道や荒川の水運では荷が重い故、将来を見越した建設が最終的には安上がりとなりましょう。」


態々低規格の馬車鉄道規格を採用するなんて無駄であるし、明和の大火が起きれば用地買収なんてせずとも焼け野原をこれ幸いと新橋~上野間に江戸中央駅を造れば良い。態々恨まれてまで用地取得なんてしなくても良い。


「しかし、馬車鉄道規格ならば費用も蒸気鉄道規格ほど掛からず路線展開できるのではないのか?」


歴史上、新橋~横浜の建設費用が2千両だったから・・・ざっくり上野~大宮~川越で5千両くらいなもんか・・・。あれ?正月の献金で品川~横須賀もセットで造れたんじゃね?


「出来ますが、路盤、道床と申しますが、これの改良は非常に手間なのでございます。新橋~品川間は既に蒸気鉄道規格で建設しております。なお、新橋~品川は線路、駅施設などで500両でございました。」


「そなたに献金された約1万両あれば縦横無尽に路線を引けたのではないのか?」


「申し訳ござりませぬ。私も今し方それに気付きました。あの時は疑獄を避けることだけに知恵を回しておりました故・・・。」


「しかし、そなたに与えられておる役料3000両でも十分に線路を敷設できるのぅ。」


「確かに、八王子~品川くらいならば、馬車鉄道であればお釣りが来るかと。されど、役料だけでは今後どうにもならなくなりまする。」


「民部はそうは言うがな、されど、そなたには有坂財閥なる組織を有しておるではないか?あの越後屋ですらそなたには太刀打ちできぬと申しておったが・・・。」


「左様であるな。右京殿の仰せの通り、幕府から新たに下賜せずともなんとかなるのではないか?」


「右京殿、右近殿、そうは言うがな、あれは元は主殿の国元の組織じゃぞ?左様な無茶を言えば主殿も困ろう?のう民部。」


「周防様の仰せの通りでございます。伊予様もご理解いただけますでしょう?」


「そうじゃなぁ、民部の肩を持ってはやりたいが、幕府とて無いものは出せぬしのぅ。すまぬが、そちの大江戸鉄道と有坂財閥で5千両用立ててくれまいか?」


「伊予様ぁ~」


「すまぬな。無い袖は振れぬ。我が福山藩の財政と幕府の財政は同じようなものじゃ。しかし、民部一人に背負わせるのも気が引ける、川越藩には我らから口添えする故、民部、そちは後顧の憂いなく鉄道建設に励んでくれ。」


また、こっちの持ち出しになった・・・。好きにやらせてもらうからな。覚悟しろよ。しかし、伊予様、頼ってくれとか言いながらこれかよ・・・使えねぇー。


「承知致しました。駄々を捏ねる前に成果を出しましょう。こちらに苦情が来ても、老中連名で突っぱねてくださいますようお願い致します。」


「承ろう。民部、大儀であった。下がって良いぞ。」


・・・あーもー、なんだってこう無茶難題をふっかけるかな・・・。資材だってタダじゃねぇんだぞ?それに、大江戸鉄道と違って、今回の事業は幕府直営鉄道だ。公共事業なだけにどんぶり勘定で帳尻合わせをするわけにはいかない・・・。畜生め。


奉行衆相手のあれこれは適当に済ませてさっさと帰ろう。

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