表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/30

第29話 最後の約束

雨は夜になっても止まなかった。


街灯に照らされて、静かに降り続けている。


圭太は自分の部屋にいた。

電気もつけず、床に座っている。


スマホが手の中にあった。

画面は暗いまま。


何度も開いて、閉じて。

結局、何もできなかった。


連絡は来ない。


当たり前だった。

自分から「さよなら」と言ったのは、美月だ。


でも。

終わった気がしなかった。

終わらせたくなかった。


圭太はゆっくり立ち上がる。

机の引き出しを開ける。


中に、小さな箱があった。

プラネタリウムで渡した指輪。


あの日、美月は確かに受け取った。

でも今は、ここにある。


いつの間にか返されていた。

その事実が、胸を締めつける。


箱を開ける。

安い指輪。


でも。

そこにある意味は、重い。


圭太はそれを握った。


そのとき。

スマホが震えた。


画面が光る。

メッセージ。


送り主。

美月


圭太の呼吸が止まる。

震える指で開く。


短いメッセージだった。


「ごめんね」


それだけ。

圭太はしばらく動けなかった。


画面を見つめたまま。


やがて、もう一通届く。


「最後に一つだけお願いがあります」


心臓の音が大きくなる。


「明日、来てほしい場所があります」


続けて、位置情報が送られてくる。

地図が表示される。


圭太はそれを見て、息を飲んだ。

そこは――

あの日と同じ場所だった。


道路。

交差点。

事故が起きた場所。


圭太の手が震える。


「どうして」


思わず声が漏れる。


その答えは来ない。

ただ、最後のメッセージが届く。


「待ってる」


それだけだった。


 


翌日。


空は、嘘みたいに晴れていた。

圭太はその場所に立っていた。


車が行き交う。

普通の道路。


でも。

圭太にとっては違った。


あの日が蘇る。


音。

光。

叫び声。


体が勝手に強張る。


そのとき。

後ろから声がした。


「来てくれたんだ」


振り返る。


美月が立っていた。

少しだけ痩せた体。


でも、笑っている。


圭太は何も言えなかった。

言葉が出ない。


美月は一歩近づく。


「ごめんね」


また、その言葉。

圭太はようやく声を出した。


「なんでここなんだよ」


美月は少し空を見上げた。

それから言った。


「始まりだから」


圭太の胸がざわつく。

美月は続ける。


「ここで」


足元を見る。


「全部、変わったでしょ」


圭太は何も言えない。

美月は言った。


「だから」


圭太を見る。


「ここで終わりにしたい」


圭太は首を振る。


「終わらせるなよ」


声が震える。

美月は少し困った顔をした。


「圭太」


優しい声。


「これは終わりじゃないよ」


圭太は眉をひそめる。


「じゃあなんだよ」


美月は少しだけ笑った。


「区切り」


その言葉が、重く落ちる。


美月はポケットから小さな封筒を取り出した。

白い封筒。

圭太に差し出す。


「これ」


圭太は受け取る。

震える手で。


「なにこれ」


美月は答えた。


「手紙」


圭太は顔を上げる。

美月は続ける。


「私がいなくなったあとに読んで」


その言葉で、時間が止まる。


「やめろ」


圭太は即座に言った。


「そういうの」


美月は首を振る。


「必要なの」


静かな声。


「圭太が、前に進むために」


圭太は何も言えなかった。


美月は一歩近づく。

そして。

そっと、圭太の胸に手を当てた。


「ここに」


小さく言う。


「ちゃんと残るから」


圭太の目から涙がこぼれる。

美月は続ける。


「だから」


少し笑う。


「忘れてもいいよ」


圭太は首を振る。


「忘れねえよ」


美月は笑った。


「知ってる」


その笑顔は、優しかった。

そして。

少しだけ寂しかった。


風が吹く。

車が通り過ぎる。


日常の音。

その中で。

二人は立っていた。


同じ場所に。

同じ距離で。


でも。

もう同じ未来は見ていなかった。


美月はゆっくり後ろに下がる。


「じゃあね」


その一言。

圭太は動けなかった。


声も出ない。

ただ見ている。


美月は振り返る。

そして、歩き出す。


今度も。

振り返らない。


圭太はその背中を見ていた。

消えていくまで。

最後まで。


手の中には、封筒。


開けることはできなかった。

その中にある言葉を知るのが、怖かった。


空は青い。

あまりにも、きれいすぎた。

それが余計に残酷だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ