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【完結】君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第28話 そばにいられない理由

翌日。


圭太は病院の待合室にいた。 


白い椅子。

静かな空間。

時計の音だけがやけに大きく響く。


隣には美月が座っている。

手を膝の上で重ねている。


少しだけ震えていた。

圭太はその手を見ていた。


何も言えない。

名前が呼ばれる。


「高橋さん」


二人は立ち上がる。


診察室に入る。

医師はカルテを見ていた。


そして顔を上げる。

表情は、重い。


それだけで、分かった。

圭太の心臓が強く打つ。


医師は静かに言った。


「進行しています」


その一言で、空気が止まる。

美月は何も言わない。


ただ、前を見ている。

医師は続ける。


「正直に言います」


ペンを置く音。


「かなり厳しい状態です」


圭太の視界が揺れる。


「どれくらいですか」


声がかすれる。

医師は少しだけ間を置いた。


そして言った。


「……数ヶ月」


音が消える。

何も聞こえない。


圭太は何も言えなかった。

美月は小さくうなずいた。


「分かりました」


あまりにも落ち着いた声だった。

診察は終わった。


外に出る。

廊下。

白い光。


圭太は立ち止まった。

動けない。


美月が振り返る。


「行こ」


普通の声。

まるで何もなかったみたいに。


圭太は言った。


「なんで」


声が震える。


「そんな普通なんだよ」


美月は少しだけ考えた。

それから笑った。


「だって」


肩をすくめる。


「泣いても変わらないし」


圭太は歯を食いしばる。


「変わらなくても」


声が強くなる。


「泣くだろ普通」


美月は首を振る。


「泣いたよ」


静かな声。


「一人で」


圭太の胸が崩れる。

美月は続ける。


「圭太の前では泣かないって決めてた」


少し笑う。


「かっこつけたいから」


圭太は何も言えない。


美月は歩き出す。

圭太も後を追う。

外に出る。


空は曇っていた。

さっきまでの青は消えている。


風が冷たい。

しばらく歩く。

二人とも無言だった。


やがて、美月が立ち止まる。


「圭太」


振り返る。

その目は、まっすぐだった。


「もうやめよ」


圭太の思考が止まる。


「……何を」


美月は言った。


「一緒にいるの」


世界が崩れる。

圭太はすぐに首を振る。


「ふざけんな」


声が荒くなる。


「なんでだよ」


美月は静かに言う。


「これ以上、一緒にいたら」


少し息を吸う。


「別れるの、つらくなる」


圭太は一歩近づく。


「別れないって言っただろ」


美月は首を振る。


「別れるよ」


はっきり言う。


「私がいなくなるから」


圭太の目が揺れる。

美月は続ける。


「だから」


一歩下がる。


「ここで終わりにしよ」


圭太は手を伸ばした。


「待てよ」


美月はその手を見た。

触れない。


「ありがとう」


静かな声。


「楽しかった」


圭太の胸が引き裂かれる。


「やめろ」


声が震える。


「そういうの」


美月は笑った。

でも涙が流れている。


「ちゃんと終わらせたいの」


圭太は叫んだ。


「終わらせるなよ!」


周りの人が振り向く。

でもどうでもよかった。


美月は一歩、距離を取る。


「ごめん」


圭太は首を振る。


「嫌だ」


子供みたいな声。

美月の涙が止まらない。


「圭太」


その声は震えていた。


「お願い」


圭太は動けない。

美月は言った。


「私のこと」


一瞬、言葉が詰まる。

でも、言った。


「忘れて」


圭太の心が止まる。


「……は?」


美月は笑った。

壊れそうな笑顔。


「その方が楽だから」


圭太は首を振る。


「無理に決まってんだろ」


美月は涙を拭いた。


「できるよ」


静かな声。


「圭太なら」


圭太は叫ぶ。


「できねえよ!!」


声が響く。

でも、美月はもう決めていた。


一歩、後ろに下がる。

距離ができる。

その距離が、すべてだった。


「さよなら」


小さな声。

でも、はっきりしていた。


圭太は動けなかった。

足が動かない。

声も出ない。


美月は背を向ける。

歩き出す。


止まらない。

振り返らない。


そのまま、人混みに消えていく。

圭太はそこに立ち尽くしていた。


何もできなかった。

追いかけることも。

呼び止めることも。


ただ。

立っていた。

空から、ぽつりと雨が落ちた。


一滴。

また一滴。

やがて、本降りになる。


圭太は動かない。

濡れていく。

それでも。

動けなかった。


手の中には、何も残っていない。

ただ一つ。

胸の中に。


消えない感情だけがあった。


それでも、好きだった。

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