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【完結】君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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26/30

第26話 普通の日

翌日。


圭太と美月は駅前のコンビニにいた。


自動ドアが開く。

軽い音楽。


いつもと同じ空気。


「何買う?」


圭太が言う。

美月はお菓子コーナーを見ながら答える。


「アイス」


「さっき食べたじゃん」


「別腹」


圭太は少し笑う。


「それ万能だな」


美月は振り向いて、小さく笑った。

ショートヘアが揺れる。


その仕草が、やけに軽やかに見えた。


でも。

ほんの少しだけ。

呼吸が浅い。


圭太はそれに気づいていない。

美月はアイスを二つ取った。


「はい」


一つを差し出す。

圭太は受け取る。


「なんで同じ味?」


「一口もらうから」


圭太は苦笑する。


「最初から半分こでいいだろ」


「それは違うの」


美月は真剣な顔で言う。


「自分のがある安心感、大事」


圭太は少し考えてから言った。


「深いな」


レジで会計を済ませる。


外に出ると、少し風が冷たい。

二人は歩き出す。


アイスの袋を開ける音。

ビニールがこすれる。


美月は一口食べて、目を細めた。


「おいしい」


圭太も食べる。


「普通」


美月が笑う。


「そういうとこだよ」


「何が」


「分かってないとこ」


圭太は首をかしげる。


美月はもう一口食べる。

それから、少しだけ足を止めた。

ほんの一瞬。


すぐに歩き出す。

圭太は気づかない。


「ねえ」


美月が言う。


「もしさ」


圭太はアイスを食べながら答える。


「ん?」


美月は前を見たまま言う。


「引っ越すとしたら、どこがいい?」


圭太は少し考える。


「海の近く」


「なんで」


「なんとなく」


美月は笑った。


「雑」


圭太は肩をすくめる。


「じゃあ美月は」


美月は少しだけ考えた。

それから言う。


「小さい家がいい」


圭太は笑う。


「夢小さいな」


美月は首を振る。


「違うよ」


空を見る。


「帰る場所があるだけでいい」


圭太は少しだけ黙った。

その言葉が、妙に残る。


「じゃあ」


圭太が言う。


「俺が帰る」


美月が笑う。


「何それ」


「仕事終わったら毎日帰る」


「当たり前じゃん」


「じゃあいいじゃん」


美月は少し笑ってから、うなずいた。


「うん」


風が吹く。

袋がカサッと鳴る。


しばらく歩く。

沈黙は、心地よかった。


公園に入る。

ベンチに座る。

昨日と同じ場所。


でも、空気が違う。

美月はゆっくり腰を下ろした。


ほんの少しだけ、息が上がる。

すぐに整える。

圭太は気づかない。


「ねえ」


美月が言う。


「指輪」


左手を見る。


「ちゃんとつけてるよ」


圭太は少し照れる。


「安いやつだけどな」


美月は首を振る。


「いいの」


指輪を撫でる。


「これがいい」


圭太は何も言わなかった。

ただ、少しだけ嬉しそうに笑った。


美月は空を見上げる。

青い空。

雲がゆっくり流れている。


「ねえ、圭太」


「ん?」


美月は視線を戻さずに言った。


「今日さ」


一瞬だけ、言葉が途切れる。

でも、すぐに続ける。


「楽しいね」


圭太はすぐに答えた。


「今もな」


美月は少し笑った。


「うん」 


その声は、とても穏やかだった。


でも。

その直後。

美月はそっとポケットに手を入れた。


小さな薬のシート。

一粒だけ取り出す。


圭太から見えないように。

そっと口に入れる。


水はない。

そのまま飲み込む。

喉が少し動く。


そして、何事もなかったように笑った。


圭太は気づかない。


風が吹く。

時間が流れる。

何も特別じゃない。


ただの一日。

ただの会話。

ただの時間。


でも。

それはきっと。


二人にとって――

一番大切な一日だった。

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