第25話 もう一回選べるなら
プラネタリウムを出たあと、二人は並んで歩いた。
夕焼けが街を染めている。
人の少ない歩道。
車の音が遠くに流れていく。
美月は少しだけゆっくり歩いていた。
圭太は何度も言葉を探していた。
でも、見つからなかった。
やがて、公園の前で足を止める。
ベンチに座る。
少し冷たい風が吹いた。
美月は空を見上げる。
赤い空。
ゆっくりと夜に変わっていく。
「ねえ、圭太」
圭太は顔を向ける。
「なんで、そんな顔してるの」
圭太は答えられなかった。
代わりに、強く息を吐いた。
「……思い出した」
美月の表情が止まる。
圭太は続ける。
「全部じゃない」
手を見る。
少し震えている。
「でも」
美月を見る。
「あの日のこと」
空気が静まる。
美月は何も言わない。
圭太は言った。
「俺」
喉が詰まる。
「怒ってた」
目を閉じる。
「お前が病気隠してたから」
声が震える。
「最低だよな」
美月は静かに首を振る。
「違う」
圭太は続ける。
「でも」
ゆっくり言う。
「最後」
息を吸う。
「守りたいって思った」
美月の目が揺れる。
圭太は言葉を絞り出す。
「だから」
「体が勝手に動いた」
沈黙。
風の音だけがある。
美月の目から涙がこぼれた。
「覚えてるんだ」
小さな声。
圭太はうなずく。
「少しだけ」
美月は笑った。
泣きながら。
「そっか」
その笑顔は、とてもきれいだった。
でも、すぐに崩れる。
「じゃあ」
圭太を見る。
「やっぱり無理だ」
圭太の胸がざわつく。
「何が」
美月は言った。
「これ以上、一緒にいるの」
圭太はすぐに首を振る。
「なんでだよ」
美月は涙を拭く。
「だって」
声が震える。
「知っちゃったでしょ」
圭太は黙る。
美月は続ける。
「私のせいで」
「圭太がこうなったって」
圭太は強く言った。
「違う」
美月は首を振る。
「違わない」
一歩引く。
「だからもういいの」
圭太は立ち上がる。
「よくない」
声が強い。
「俺は今」
美月を見る。
「後悔してない」
はっきりと言う。
美月の目が揺れる。
圭太は続ける。
「むしろ」
少し笑う。
「もう一回選べるなら」
美月を見る。
「同じことする」
美月の涙があふれる。
圭太は一歩近づく。
「何回でも」
「同じ日をやり直しても」
「同じことする」
声がまっすぐだ。
「だから」
息を吸う。
「これは“間違い”じゃない」
美月は泣きながら首を振る。
「ずるい」
圭太は言う。
「ずるくていい」
沈黙。
夕焼けが消えていく。
夜が近づく。
圭太は静かに言った。
「だから俺は」
美月を見る。
「忘れる」
美月が固まる。
圭太は続ける。
「思い出したことも」
「全部」
首を振る。
「なかったことにする」
美月の声が震える。
「なんで…」
圭太は答えた。
「その方が」
少し笑う。
「お前が楽だろ」
美月の涙が止まらない。
圭太は言った。
「俺は」
まっすぐに。
「今の俺として」
「お前を好きになる」
一歩、距離を詰める。
「過去じゃなくて」
「これからで」
美月は崩れるように泣いた。
圭太の胸に顔を押しつける。
圭太は抱きしめる。
強く。
離さないように。
美月は泣きながら言った。
「ばか」
圭太は少し笑う。
「知ってる」
夜の空に、最初の星が浮かぶ。
二人はその下で、しばらく動かなかった。
これは終わりじゃない。
やり直しでもない。
選び直した、最初の一歩だった。




