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【完結】君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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22/30

第22話 思い出した夜

病室は静かだった。


機械の音だけが小さく響いている。

圭太はベッドの横に立っていた。


美月は枕に頭を預けている。

顔色はまだ白い。


でも。

目はしっかり開いていた。


二人の間に沈黙があった。

圭太はゆっくり言った。


「……聞いた」


美月は少しだけ目を細めた。


「そっか」


静かな声だった。

圭太の喉が詰まる。


「思い出した」


その言葉に、美月の指が少しだけ動いた。

圭太は続ける。


「車」


息が震える。


「来てて」


胸を押さえる。


「美月に当たりそうで」


涙がこぼれる。


「俺」


声が崩れる。


「押したんだ」


沈黙。

美月はしばらく何も言わなかった。


それから、小さく息を吐く。


「やっぱり」


圭太は顔を上げる。

美月は少し笑った。


「思い出しちゃったか」


圭太の目から涙が落ちる。


「なんで」


声が震える。


「なんで言わなかったんだよ」


美月は少し困った顔をした。


「だって」


静かな声。


「圭太」


少し間を置く。


「絶対後悔するでしょ」


圭太は首を振る。


「後悔なんか」


言葉が詰まる。


「するわけない」


美月はゆっくり首を横に振った。


「するよ」


小さく笑う。


「圭太、優しいから」


その言葉に、圭太は何も言えなくなる。

美月は続けた。


「それに」


少し目を閉じる。 


「私が追いかけたんだし」


圭太は強く首を振った。


「違う」


声が震える。


「俺が怒ったからだ」


美月は目を開けた。

そして。

少しだけ強い声で言った。


「違うよ」


圭太は止まる。

美月は圭太をまっすぐ見た。


「私が好きだから追いかけたの」


静かな声。

でも。

はっきりしていた。


圭太の胸が締めつけられる。

美月は続ける。


「だから」


少し笑う。


「圭太のせいじゃない」


沈黙。

圭太はベッドの横の椅子に座った。


両手で顔を覆う。

肩が震える。


「俺」


声がかすれる。


「全部忘れてた」


涙が指の隙間から落ちる。


「プロポーズしようとしてたのも」


喉が詰まる。


「美月の病気も」


顔を上げる。


「全部」


美月は何も言わない。

ただ静かに聞いている。

圭太は言った。


「なのに」


声が震える。


「また好きになってた」


美月の目が少し大きくなる。

圭太は続けた。


「記憶なくても」


少し笑う。

涙がにじむ。


「やっぱり美月が好きだった」


その言葉に。

美月の目に涙が溜まった。


「……ばか」


小さく言う。

圭太は苦笑する。


「うん」


少し間。

それから。

圭太は静かに言った。


「もう一回」


美月を見る。


「やり直そう」


美月の呼吸が止まりそうになる。

圭太は続ける。


「最初から」


その言葉は、まっすぐだった。

美月の目から涙がこぼれる。


「でも」


美月は小さく言った。

圭太は首をかしげる。


「どうした?」


美月は少し迷った。

そして。

ゆっくり言った。 


「圭太」


その声はとても静かだった。


「私」


少しの間の後、美月は呟く。


「長くないよ」


圭太の時間が止まる。

美月は続けた。


「知ってるでしょ」


微笑む。


「余命」


圭太の胸が強く鳴る。

言葉が出ない。


美月は笑った。

でも。

その目には涙があった。


「だから」


静かな声。


「やり直す時間」



「そんなにない」


その言葉が。

病室の空気を重くした。


圭太はゆっくり立ち上がった。

そして。

美月の手を握る。


少し強く。


「十分だよ」


美月は驚く。

圭太は言った。


「時間なんて」


少し笑う。


「関係ない」


その声は、静かだった。

でも。

強かった。


圭太は続ける。


「残り全部」


美月を見る。


「俺にくれ」


美月の涙があふれた。


病室の窓の外。

夜の空に星が少しだけ見えていた。


圭太はまだ知らない。


このあと。

二人にとって―

最後の約束――

が待っていることを。

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