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【完結】君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第21話 0512

夜の病院。


廊下は静かだった。

白い光。

消毒液の匂い。


圭太はベンチに座っていた。

処置室のドアを見つめている。


さっき。

美月が倒れた。


胸がざわつく。


頭の中で、ずっと同じ数字が浮かんでいた。


0512


事故の前の日。


圭太はポケットからスマホを取り出した。


画面を開く。

ボイスメモ。


そこにある。

0512


ずっと気になっていた。

でも。

美月は言った。


「聞かないで」

「怖い」


圭太はその数字を見つめる。

翔太が横で腕を組んでいた。


「……それ」


低い声。


「まだ聞いてないのか」


圭太は小さくうなずいた。

翔太は少し迷ってから言った。


「聞け」


圭太は顔を上げる。

翔太は続けた。


「今なら」

「意味、分かると思う」


圭太の胸が強く鳴る。

スマホを握る手が震える。


「……聞く」


イヤホンを耳に入れる。

再生ボタンを押した。


ノイズ。

風の音。


そして。

声。


「今日の一言〜!」


美月の声。

明るい。

圭太の胸が締めつけられる。


「今日は圭太と喧嘩しました!」


少し笑っている声。

でも。

どこか寂しい。


遠くで声がする。

男の声。

圭太だ。


録音の中の自分。


『なんで言わないんだよ!』


怒鳴っている。


美月の声。

小さくなる。


「私が病気を隠してたからです」


圭太の呼吸が止まる。


『余命ってなんだよ…!』


録音の中の圭太の声が震える。


『そんなの聞いてねえよ…』


美月は少し笑う。

でも。

その笑いは弱い。


「圭太、めちゃくちゃ怒ってます」


「でもね」

「圭太は優しいから」

「絶対あとで謝ってくると思います」


風の音。

足音。

二人は歩いている。


そして。

圭太の声。


『明日さ』

『プラネタリウム行こう』


美月が驚く。


「え?」


圭太の声。

少し照れている。


『言いたいことある』


沈黙。

美月が小さく笑う。


「……多分」

「プロポーズされます」


圭太の心臓が止まりそうになる。

翔太が横で固まる。


録音はまだ続いている。

美月の声。

少し震えている。


「だから」

「私も言います」


「病気のこと」

「ちゃんと」

「全部」


沈黙。

遠くで駅のアナウンスが流れる。

『23時59分発、最終電車がまもなく到着します』


そして。

遠くで圭太の声。


『もういい!』


足音。

圭太が離れていく。

美月の声。


「……あ」

「怒って帰っちゃった」


少し困った笑い。


「でも」

「追いかけます」


圭太の呼吸が止まる。


「ちゃんと謝りたいから」


走る音。

息が切れる。


「圭太待って…!」


その瞬間。

圭太の声。


『美月!』


録音の中の圭太が叫ぶ。


そして。


急ブレーキの音


クラクション


衝突音


録音が切れた。

沈黙。


世界が止まる。

圭太の手からスマホが滑り落ちた。


床に落ちる。

鈍い音。

圭太の呼吸が荒くなる。


「……俺」


声が震える。


「思い出した」


翔太が顔を上げる。

圭太の目が揺れている。


「車」


喉が詰まる。


「来てて」


涙があふれる。


「美月に当たりそうで」


声が崩れる。


「俺」


胸を押さえる。


「押したんだ」


翔太は何も言えない。

圭太の声は震えていた。


「美月を」

「突き飛ばして」


涙が落ちる。


「代わりに」


言葉が詰まる。


「俺が」


沈黙。

圭太の肩が震える。


「だから」


小さな声。


「記憶」

「飛んだんだ」


そのとき。

処置室のドアが開いた。

看護師が顔を出す。


「高橋さん」


圭太は顔を上げた。


看護師は静かに言う。


「彼女、目を覚ましました」


圭太の胸が強く鳴る。


処置室に入る。

ベッドの上。


美月が横になっている。

顔色は青い。


でも。

目は開いていた。


美月は圭太を見る。

そして小さく笑った。


「……聞いた?」


圭太の目から涙が落ちる。


「なんで」


声が震える。


「言わなかったんだよ」


美月は少し困った顔をした。

そして。

静かに言った。


「だって」


少し笑う。


「圭太」


優しい声。


「絶対」


少し間。


「私を助けたこと」

「後悔するでしょ」


圭太は言葉を失った。

美月は小さく首を振る。


「でもね」 


涙が少し光る。


「私」


微笑む。


「嬉しかった」


圭太の胸が崩れる。

美月は続けた。


「だから」 


静かな声。


「忘れててよかった」


その言葉が。

圭太の胸を深く刺した。

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