それぞれのこれから
動画に映っているのは、Soleilの店内だった。
今日僕が髪を切ってもらった、椅子の横に少年が立っていた。中学生くらいだろうか。
「大学の時、話した友達の子どもが、この子」
なるほどと思った。あの時、二歳くらいだったから、十四歳くらいになるのだろうか。
まだ、幼さを残した横顔には、戸惑いと不安が滲んでいる。その隣で語りかける佑太の姿が写った。
「この椅子に座ります」
その子は、何も言わない。次に佑太は、鋏を手に取り、切るように動かして見せた。
「これが鋏。これで髪を切ります。持ってみる? 切るのは痛くないよ」
佑太はそう言って鋏を渡す。その子は恐る恐る受け取り、ちょきちょきと鋏を動かしながら呟いた。
「はさみ。いたくない。」
「そう。痛くない」
佑太が声を重ねる。その後、佑太が誘うとその子は、椅子に座った。ケープをつけることを嫌がると、佑太は無理をしなかった。
肩にタオルをかけることは大丈夫だったようだ。タオルだけかけてカットが始まった。
「今日はちょっとだけ切るね」
と言って襟足だけ整え
「はい。おしまい」
佑太が言った。椅子から立ち上がって、振り返った時の、その子の表情は、安堵とも嬉しさともとれるような笑顔だった。
「桐杜やったねー!」
母親なのだろう。彩さんとは違う、女性の声がした。
そこで動画は終わった。佑太はスマホを自分の方に向けながら言った。
「この日は襟足だけだったけど、今はケープも大丈夫だし、カットは一通りできるんだよ。
次はシャンプーに挑戦しようとしているところなんだ」
胸が熱くなる。
揺るぎない信念を貫いた佑太の姿に。
今までできなかったことに、挑戦してみようとする子どもの姿に。
僕はこれまで波間を漂うように進んできたのだ、と思った。それは楽だった。傷つかずに済むから。責任を負わずに済むから。
「まぁ後は良平次第だよな」
やっぱり佑太には敵わない。
佑太とはコーヒーショップの前で別れた。駅は目の前だったけれど、帰りも歩こうと思った。歩いて気持ちを整理しよう。
これからの自分は、どうしていきたいのか。そう想像する未来には、瑞希の姿がはっきりと見えた。
この思いを瑞希に伝えることこそが、人生の幸せを決めると確信した。
――瑞希と二人で一緒に年齢を重ねていきたい。
僕と一緒に家族という新しい記憶を紡いでほしい。
顔を上げると、線路沿いにある街路樹が風を受け、手を振っているように見えた。
まるで〝頑張って〟と送り出してくれているかのようだった。




