表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/29

転落

「俺が咎目になったのは、今からほぼ一年前のことだ。罪状は、姉と両親を殺した罪」


 ユウリが淡々と話す言葉に、ギルはごくりと息を呑んだ。

「姉は、俺より5つ上の、優しい女性ひとだった。すごく大人しくておっとりしていたから、まるで妹なんじゃないかと思える時があるくらいだった」


 ――父さんは猟師だった。学はなかったけれど、身の周りの自然や生き物に関することなら、何でも知っていた。父さんはよく俺を狩りに連れ出して、手伝いをさせながら色んなことを教えてくれた。

 一方、母さんは読書好きで知的だった。色んな物語を聞かせてくれたし、勉強を教えてくれた。母さんは教育熱心で、村の中で「先生」と呼ばれる人の所によく俺を連れて行き、様々な知識を吸収させた。

 俺は本を読むのも狩りをするのも好きだったから、やがて狩猟学者になりたいという夢を持つようになった。素敵な夢だろ。動物たちの生態を学んで、環境を知って、自然の中で生きて狩りをする。自然のサイクルを知り、その中で生きながらも動物たちを守る活動をする。父親はあまりピンと来ていないようだったけれど、母と姉は応援してくれて、俺を都会の寄宿学校に送り出してくれた。


 俺は都会の学校でも、上位の成績だった。

 だけどひどい田舎から来たものだから、都会の人間関係には馴染めなかった。同級生の間では浮いていて、変人だと思われていたらしい。けれど俺はそんなこと、まったく気にならなかった。むしろ孤独がますます俺を勉強熱心にさせた。


 やがて冬が過ぎ、夏が来た。学校は長期の休みに入り、俺は一年ぶりに田舎へ帰ることにした。皆に会うのが楽しみだった。その鉄道の中でだったんだ。俺が、ひとりぼっちになり、家族を失ってしまったのは。


 ……能力者の仕業だ、と断定された。


 詳しくは知らないが、それだけにむごたらしい死に方をしたってことだろう。村は騒然となり、手に負えない事件だと、街から調査団が派遣された。

 調査団は俺に疑いの目を向けた。村には俺以外に能力者がいなかったからだ。

 実際には、家族が変死したとき俺は鉄道の中にいたのだから、辻褄が合わない。そのことでかばってくれる人もいたけれど、なにしろ俺は能力者だった。人々は未知のものに怯え始めると、都合よく話を膨らませる。俺は間もなく投獄された。俺のことを得体の知れない奴だと、気味悪く思ってたらしい同級生たちの証言も、不利に働いてしまったようだ。

 検事が言う言葉を借りれば、俺には『残虐嗜好があり、生き物を解体することに喜びを見出していた』んだそうだ。確かに狩りは好きだったから、あながち間違っているとも言えないけれど……。


 その日から、俺の人生は転げ落ちるように狂っていった。俺は咎目になった。瞳に紋章を入れられるのは、気が狂いそうなほどの激痛だった。

 俺たち咎目は普通なら処刑、運が良ければ最果ての地へと強制移送される。いわゆる流刑だ。俺はまだ子供だったこともあってか、運のいい部類に入った。だけど遠い遠い辺境の地へと渡るうち、大半は飢えや凍えから命を落としてしまう。厳しい行程を生き延びたとしても、待っているのは死ぬまで終わることのない獄中での労働生活だ。

 そんな中でも、心温まる瞬間はあった。同じ咎目同士で、俺に優しくしてくれる人達が少なからずいたんだ。彼らとは何かと助け合い、希望を失わないように励ましあった。その存在が本当にありがたかった。もし運命がどうしようもなく残酷なものだとしても、彼らと過ごすその瞬間があっただけで俺は救われたと思った。


 だけど気まぐれな運命は、思わぬ方向へと転がった。移送中、野盗の群れが俺たちを襲ったんだ。襲った――という表現は間違っているのかもしれない。なぜかって言うと――驚いたことに、警備隊の連中は金品を受け取る代わりに、俺たち咎目を野盗に横流ししていたからだ。警備隊からすれば、どうせ大半が道中で死ぬのだから少々人数が減ったところでばれやしないと思っているんだろうし、野盗からすれば手間も出費も抑えつつ、かつ安全に奴隷が手に入るということなんだろう。咎目が消息を絶ったところで誰も騒ぎ立てたりしないからな。

 抵抗する咎目はいなかった。逃げ出そうとして見せしめのように殺された人はいたけれど、その後はみんな大人しくなって野盗に従った。なにしろ手足は枷でつながれていたし、魔具さえ与えなければ能力者だってただの人間だからな。


 連れていかれたのは、野盗たちの集落だった。

 俺たちはばらばらに引き離され、それぞれ別の場所に閉じ込められた。

 どうやら野盗がそれぞれ受け持つ管轄・・みたいなものがあるらしく、そこを監督する立場の野盗もいれば下っ端構成員みたいなのもいるらしかった。俺が配属された管轄・・は規模が小さく、俺の他にもう一人の奴隷がいるだけだった。その奴隷は咎目ではなかった。

 そのころにはもう精神的に参ってしまっていたけれど、同時に自分がかなりの強運だったということも理解し始めていた。何しろ、まだ生きている。まだ生きられる。


 俺は野盗たちの会話を、できるだけさり気なく、でも注意深く聞き取るようにした。これから自分がどういう運命をたどるのか……強制労働をさせられるのか、それとも奴隷としてどこか遠くへ売られるのか。今自分はどこにいるのか、助けを求めることはできるのか。野盗たちの組織の全容はどうなっているのか、集落の全体図はどんなか。自分の置かれた状況さえ理解できれば、打つ手は自然と見えてくると思ったからだ。

 俺はまた、同じ部屋に収容された奴隷にも接触を図った。俺よりも奴隷としての経歴がずいぶん長そうだったから、色々と聞き出してやろうと思っていた。けれど困ったことに、こいつがまたびっくりするほどのいけ好かない人間だった。

「なぁ、あんたはどうして野盗に捕まったんだ」

 俺は機会を伺ってそいつに話しかけた。その男は咎目じゃなかったし、俺たちとはまた違った境遇で野盗の奴隷に身を落としたのだろうかと、気になったからだ。

「あぁ? んだよてめぇは! 馴れ馴れしく話しかけんじゃねぇ」

 そいつはいつも不機嫌でとげとげしい態度で俺に答えた。まるで自分の方が立派な立場の奴隷だと、俺を見下してるみたいだった。お前なんかが俺に気安く話しかけてんじゃねぇぞ、ことあるごとに言外にそう匂わせるようなやつだった。

 事実、そいつは野盗から特別扱いされていた。彼には「兎」という呼び名が与えられていて、野盗たちのことをとてもよく知っていた。一人ひとりの名前や、年齢や、好みを正確に把握して、野盗たちが喜ぶことをしゃべっては、うまく連中に取り入っていた。俺にはとてもできない芸当だ。一度俺が、そいつのことを「兎」と呼んだ時、彼は血相を変えて「てめぇ、誰に対して言ってんだ!」と凄んできた。野盗から「兎」と呼ばれた時には「兄貴、呼んだかい」と上機嫌な様子でいるから、てっきりそう呼ばれるのが嬉しいのかと思っていたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ