いつまでも、ゆかりなさんと
パン仲間の那月をサトルに託し、俺は花城の本社に急ぐ。
彼女はきっと、花城の母さんと一緒にいると信じて疑わないからだ。
思えば、ずっとあの子に甘え過ぎていたことを走りながら思いだす。小悪魔でわがままで、だけどどこか憎めなくて、お互いに素直になったのは一緒に住んでいた時だけだった。
パパさんの所で料理修業したのも、あの子と一緒になる為の行為だったに過ぎない。
全ては、俺の片思いから始まっていた。
覚悟は決まっていたはずなのに、どうして途中で気を抜いてしまったのか。
たかだかキスを禁止された時から、彼女なりの俺への試練は始まっていたことにようやく気づけた。
ずっと遠回りして、くじけて、でもそれも全て終わらせて、そして決めてもらおう。
きっと想いは同じで、通じているはずだから。
◇◇◇◇◇
「遅い、遅すぎる!! 待たせすぎ! まさかと思うけど、ママの仕掛け人たちと、本気で付き合う気があったとかじゃないよね?」
「め、滅相もございません!!」
「どうせアレじゃん? バカ久のことだから、チヒロとのことも完全に誤解したままで泣きまくってたんだろ! この前言ったのって、忘れて無いだろ~?」
「えー……、嫌いにはならせない?」
「ゆった! 高久くんのことを嫌いになるわけ無いし、高久くんがわたしのことを嫌いになるはずも無いし? だよね? ねえ?」
全て大掛かりな恋の芝居をされていたようだ。それもこの子らしいと言えばらしいが。
それに気づかずに、勝手に浮気というか裏切られた気になって、他の子たちに気が向いてしまったのもこの子にはお見通しだった。
でも、それも終わりだ。ここで誓いを立てて、ママさんにも二度目の誓いをしてみせる。
「俺は花城……ゆかりなさんと結婚したい!! 妹の時からずっと、ずっと大好きだ! ゆかりなさんのことを嫌いになんてなるわけも無いし、嫌いになったことなんて無い!! 大好きだ!!」
本社に乗り込んだ挙句、奥の方に社長デスクとママさんが控えている状態で、言ってやった。
もうこれしか言うものが無い。
「――言いたいことはそれだけか? あ?」
「ゲホッ……さ、さようでございます」
これはいつぞやの脅しポーズと首絞めか。
――ということは、かなり機嫌がいいとみえる。
「ふーん? そんなに好きなんだ?」
「い、いえす」
「それも妹の時からかー……変態野郎だよねぇ。まぁ、でも……変態野郎を好きになったわたしも同罪かな。うん、ゆるしたげる! じゃあ、ん……!」
「ふぁっ!? ゆかりなさん、そのあの、つま先立ちの意味は……」
「ん! ん!!」
これは、キスねだりのポーズですね、分かります。
ママさんというか、社長が見ている前でやれと。
綾羅木さんのことも、すでに自然に終えたとも聞いたので後は――
お許しを頂けたという意味なのは確かなので、実行に移させてもらおう。
「で、では……」
「ぶぶー! 時間切れね! お預けだよ? 分かるよね?」
「えええ!? そ、そんな、そんなに待たせたつもりは……」
「――なので、はいお手!」
「手を出せばいいの?」
何かをするつもりがあるのかは不明だが、もう逆らうのはやめだ。
キスはまだ許されないみたいだけど、何かは出来るはず。
そんなわけで、ここは動物のように手を可愛く出す。
すると、お互いの手と手を合わせたかと思えば、握手をされてしまった。
訳が分からないものの、従うしかない。
「うんうんうん、高久くん……高久はもう、わたしと離れられないよ? その手はそういう意味だよ?」
「はい?」
「これは一説によるんだけど、握手ってキスをするのと同じ感じになるんだって。だから、今はこれで許してね」
「握手がキス……な、なるほど」
「ドキドキするもんね? わたしもしてるし」
どんな苦しい言い訳なんだろうかと思ってしまうが、握手してこんなにもドキドキするのは、きっと大好きな彼女だからだ。
これがサトル相手だったら、無駄に握力でお互いに疲れるだけになるのは目に見えている。
「そ、それで、その返事は――」
「高久のお嫁さんになるって、出会った時から決めてた。連れ子とか、そんなの知ってからでもおんなじ。ゆったよね? あの日……」
「ずっとずっと、ゆかりなさんと一緒がいい。君といつまでも好きな気持ちを持ったまま、一緒に――」
「うんっ! 大好きだよっ、高久!!」
連れ子同士の兄妹は、血の繋がりが無い。年齢も同じ。だから恋だって出来るし、結婚だって出来る。でもそう思っているのは、きっと俺とゆかりなさんの二人だけ。密かに想いすぎる俺と、俺に対して大好きだと思っているゆかりなさん。他人行儀のようにゆかりなさんと呼んでいるけど、実は結構好きな響きだ。
あの日、何気ない会話からゆかりなさんと一緒に歩んでいくことになった――
「あのね、わたしがいつも遊びに行ってる部活の先輩に、前から告白されてて……ずっと保留にしてたんだけど、付き合うって返事しようと思うんだ。高久くんはどう思う?」と。
もちろん、返事は決まっている。
初めから決まっていたのだから――
完結しました。




