パン仲間と別の意味での別れ
「そりゃあれだ。高久が良くねえわ! 嫁ってのが確定して何をうだうだしてるのか、俺には理解出来ねえぜ!」
どや顔で言われるとムカつくが、こういう時に無駄にアドバイスをくれるのがコイツのいいとこだ。
しかしサトルの言っていることは、嫌という程身に染みている。
そうなると花城ママは関係無くして、全てを終わらせる結末に持って行くしかない。
手始めにやれることはパン仲間からの別れだ。パン仲間としてならば、関係性が身近でもあるし言いやすさもある。
「そんなわけだからサトルに頼みがあるんだけど~」
「だが断ります! どうせ高久のわがままなんだろ~? そんで、ナンバー1の俺に尻拭いをしてくれと……そういうことだろ~? ん~?」
「その通りなので、頼むよエースのサトル~」
「くそぅ、こんな時に俺をおだてるとは――高久のくせに分かっていやがる……」
一番貸しを作りたくない相手に計り知れない貸しを作ってしまうが、あの子の為に力を使い果たしてもらおう。そうじゃないときっと自分自身が嫌になる。
まず、いつものコンビニに呼び出しているのは、パン仲間の幹部でもある那月だ。
この子はやや陰キャ気質があるだけに後が恐ろしいが、言えばきっと分かってくれるはず。
「サトルにしか頼めないんだよ。頼むよ……マブダチ」
「今時マブダチはねーだろ。んで、那月に告ればいいんだな? この場合、俺のハートが砕かれる率が高そうなんだけど、それは分かってるよな?」
「卒業まで新商品を奢る! これでどうだ!」
「俺がそんなに安い男だとでも――」
この期に及んで後悔しているのか。
サトルはこういう時、妙な勘が働く。しかしその勘をも買収すれば、きっと動いてくれる。
「買う度に缶コーヒー微糖をつける!」
「よかろう! やってやんよ! まずは那月だな?」
「ありがとう! もうすぐ来るはずだから、心の準備を整えてくれ」
「要らん! 俺は常に本番の心と気持ちを持った男だからな!」
これでよし。
後は、彼女がここに来ているかどうかの気配を探るだけだ。
「な、なぁ、さっきから見られている気がしてたんだけど、すでに来てたんじゃ……?」
「その視線って、サトルに向けて……?」
「いや、俺たちだ。明らかに違うと感じるのは、俺への視線は畏怖でお前への視線は好きっていうアレだ。というか、大丈夫なのか……作戦通りでいいんだよな?」
「頼む」
サトルには身をもって体験……もとい、那月の心を支えてもらわなければならない。
そうじゃないと、あの子の体質は一生あのままだ。
「……葛城高久さん。こんにちは……」
「や、やぁ。もうお店の近くに来てたんだね!」
「近くにいるのが当たり前……それが彼女……ですから」
いつも以上に闇を感じる。紹介されたとはいえ、やはり俺では手に負えない。
しかしサトルなら、色んな意味で彼女のことを救えるはず。
それを期待して、俺は行く末を見守ることにしよう。
「えーと、じ、実はここにいるサトルが君にどうしても話したいことがあるらしくて、聞いてもらってもいいかな?」
とても苦しい切り出し方だ。それでも、サトルへのバトンタッチはこれしかない。
「……はい」
話だけは聞いてくれるようだ。これならどんなに奴がチャラ男でも、耳だけは傾けてくれる。
「へーい! 呼ばれた所で、俺は君に告白しちゃうよ! いきなりのことで何だけど、那月! 俺、君に恋してるんだぜ! そういうわけだから、よろしくぅ!」
相変わらず心の無い男だ。だが、それが最善策としか今は言えない。
後でさらに何か奢ってやろう。
「…………よろしくお願いします」
「ほわっとぉ!? え、マジでいいのかい? 高久と付き合ってるんじゃないのかーい? それなのに、俺が告ったからって最速で乗り換えとか……嬉しすぎて泣いてもいいのかな?」
「私をずっと見ていましたよね……だから、高久さんには悪いけど……お互いに視線を交わし合える人と付き合う方が、きっと……長く……」
もしやあの視線は、那月的には告白と取ったのか。
サトル的には悪寒にしか感じなかったはずなのに、こんなにあっさり上手く行くものとは。
しかしこれで第一の難関は突破出来た。
サトルには過去の過ちと記憶を忘れてもらって、那月と付き合ってもらおう。
「い、いやぁ~参ったぜ~! マジで真面目に上手く行っちまうとはよ~」
かなりやせ我慢しているのがありありと見える。冷や汗の方がすごいが、ここは素直に祝福をしておく。そうすれば、このままあの子の所へ向かえるのだから。
「じゃ、じゃあ、サトル! が、頑張れよ? 那月と上手くな! 俺ももう、覚悟する!」
「……お、おぉ。しっかりと着けて来い! 色々と遠回りさせといた結果が今の状態になったってのは、誰から見ても分かりやすすぎるものだからな! さっさと行け、高久!」
「葛城高久さん……あの子によろしく……それと、店長にごめんなさい……と、お願いします」
サトルの犠牲は無駄にしない。それと、那月は感づいていた上で気を遣ってくれた。
感謝の意味でも、後でお礼のパンを奢っておこう。
そうなると後は、俺自身の問題だ。
今度こそ、確実に決めてやる。きっと、あの子を手にする為に――




